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7-2

「ふう……食った食った!」


「思ったらよりも食べ過ぎちゃいましたよ……」


「少しは大きくなったんじゃね?」


 俺はルミネルへと視線を向ける。


「おい、どこを見て言ってるのか教えてもらおうか!」


 モルティナは酔いつぶれたレイを支えながら、ふらふらと後ろを歩いている。俺たちは家へ帰ろうと、ギルドを出た。

 夜のスウェリアは昼とは別世界だ。提灯の灯りが石畳を照らし、酒場から笑い声がこぼれている。


「なあ、この魔道具どうしようか。」


 ダンジョンで手に入れた――転生者のものだったであろう時計を取り出した。


「売るというのも選択肢としてはありですね……」


 とルミネルが言うと――


「売るときはぜひ! 私のお店に!」


 モルティナが嬉々として言った瞬間、背後から――靴音がした。


「――ッ!」


 気づいたときには、すでに時計が手から消えていた。


「今の泥棒か!?」


 屋根の上を飛び移る影。包帯をマフラー代わりに巻いた人物――。


「今の何だったんでしょうか……」


「さあな――」


 俺は今の泥棒に見覚えがあった……


――次の日・冒険者ギルド


「よっ! お前か? 時計泥棒は……」


 俺が声をかけた相手は革の鎧を着た、身軽そうな銀髪の少年だ。


「ん? 何のことかな?」


 そいつはまだとぼける。この街に銀髪のやつはこいつしかいない。


「この街で銀髪のやつって言ったらお前くらいしかいないんだ……アンタなんだろ?」


「そうだよって言ったら?」


(いや待て。あの時計、別に俺のでもないし……)

 

「どうしたんだい? 急に黙り込んで」


 そういえば……俺はまだ何もスキル覚えてないな――


「盗賊スキルを教えてくれ。」


 一瞬、銀髪の目が丸くなる。


「そんなことでいいの? ならいいよ。そう、僕が盗ったよ。――ついておいで。」


 俺は言われるがままに着いていくことにした。


――ギルド近くの路地裏


「じゃあ、早速やっていこうか。僕は《シーフ》って職業。普通の盗賊とは少し違うけど……ま、見ててよ。」


 次の瞬間、シーフの姿が白煙に包まれて、消えた……


「な、なんだ!? 足音がない――」


 いや、気配そのものが消えてるのか!?


「どこ行っ――」


「ここだよっ!」


 シーフは俺の真後ろから姿を現した。


「いつのまに!?」


「今のは万能なスキルだよ! 《スモークブレイク》っていう煙で姿を撒くスキルと、《サイレントステップ》っていう全ての気配を消せるスキルの組み合わせだよ! 盗賊職の人は絶対に覚えると言っても過言ではないね! じゃあ、お次は――これ!」


 その瞬間、足元に魔法陣が現れ、魔法陣から飛び出した鎖が俺の身動きを封じた。


「――ッ! な、なんだこれ! 動けねえ!?」


「今のは《シャドウリード》! 相手を拘束するスキル。」

 

 シーフはクスクスと笑いながら答えた。


「じゃあ、次は昨日、キミにやったスキルを見せてあげる! ――行くよ!」


 次の瞬間、シーフがとんでもないスピードで駆けてきた。俺は咄嗟に避けようとしたが――


「ふう、盗めた盗めた!」


 ん? ポケットが軽い。


「ああ! 俺の財布!! 返せよ!」


「あはは! 今のは《スワイプスナッチ》って触れた相手からアイテムを奪えるスキルと、《アクセルブレイク》って加速スキルの合わせ技!」


 いや、本当に盗賊職のスキル便利すぎるだろ――


「てか、財布返せ!」


「まあまあ、あとで返すから! 最後はとっておきだよ! 《ライトフィンガー》!」


 シーフはそう言うと、右手を突き出した。


「……ん? 何が起きたんだ?」


「あ、盗めた盗めた! じゃん!」


 シーフは俺の持ってた日本からの思い出の品……日本で使ってた財布を手に持っていた。


「あ! お前、まじで返せ!」


「うん、いいよ! そのスキルで僕から何か盗れたらね!」


「ああ、わかったよ! 何盗られても恨みっこなしな!」


 俺は冒険者カードを取り出し、《ライトフィンガー》を押した。

 胸の奥で"カチリ"と音がした気がした。

同時に、体の中を淡い光が走る。

見えない糸が指先まで繋がっていくような――そんな奇妙な感覚。

 呼吸を整えると、足元の感覚が少し違う。地面との距離が近い。いや、世界が静かに聞こえる。


「……なんかイケる気がしてきた!」


「やってみな!」


「《ライトフィンガー》ッ!」


 俺は右手を突き出した。右手が光り始める。右手の拳の内側に何かがある感覚がする。


「――あ!」


「ん? これは!」


 俺の右手に握られていたのは……顔に巻いていたマフラーだった。


「ちょ、返してよ! それがないと素顔がバレちゃう!」


 シーフの隠れていた口元が見えるようになった。そして、アイスブルーの瞳が輝き、透き通るような銀色の髪が風に靡く……どこか顔立ちだったり、軽装の隙間から見える体の線もどことなく――


「……え? もしかして――女の子だったの?」


「ねえ、どこ見て言ってるの!? そうだよ! 私は女の子だよ!」


 つまり、この子はボーイッシュ系な女子だった……ということか。しかも、僕っ子だったから尚更わからなかった。


「もう! 絶対に返してあげないんだから!」


「だったら、力づくでも取り返してやる! ライトフィンガー!」


「ちょ、ちょっとキミ! 何盗ってんのさ!」


 俺の右手には小さなバックルのようなものが握られていた。

 彼女は思わず胸元を押さえる。


「……キミ、最低だよ!」


「ご、誤解だ!」


 ……俺、今日一日で人生の運を使い果たした気がした――

 いや、ほんと誤解だからな!?

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