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5-1

「じゃあ、開けますよ!」


「もったいぶらないで早く開けなさいよ!」


「――これで借金を完済できたらいいな……」


 これでやっと、食べ物にありつける。ようやく飢えから解放されるのだ。


「借金返済できなかったら、タイガの臓器売り払いましょ!」


「おい、こらバカ女神。俺が死んだら帰れなくなるじゃなかったのか?」


「そ、そうだったわね……」


 スケルトンキングを倒した俺たちは宝物庫へ踏み入ろうとしていた。

 目の前にある扉は、黒曜石を磨き上げたような冷たい光沢を放つ日本にはない金属でできていた。古びた紋章がついている……封印か何かだろうか。

 そして、その扉は威圧感を放っていた……


「なあモルティナ、この扉はどうやって開けるんだ?」


 ……まさか、またモルティナが鎌で粉砕する気じゃないだろうな。


「いえ、さすがにこれ以上の破壊はダメなので――特殊魔法――通称、民族魔法の力を使います。」


「――民族魔法?」


「職業スキル以外の魔法のことです。人々が『できたらいいな』と思った想いが形になった、特別な魔法の総称ですね。」


「へえ、そういうのもあるんだ。例えばどんなのがあるんだ?」

 

「例えば、ルミネルさんが使ってる《ラディアント・バースト》も民族魔法の一種です。あの魔法、使えるのは魔族くらいしか見たことありませんけど……」


「なんでアイツはそんなやばそうな魔法を覚えてるんだ……」


 タイガがそんなことを言った頃ダンジョンの外――

 

「へくちっ! だ、誰かが噂してるんですか――」


 ルミネルは盛大なくしゃみをした――。


 場面は戻り。


「民族魔法は便利ですし、消費スキルポイントがゼロのこともあります。覚えておいて損はないですよ。」


 俺は冒険者カードを見る。いつのまにか、レベル二に上がっていて、そしてスキルポイントが八も貯まっていた。


「このスキルポイントってどうやって使うんだ?」


「スキルを覚えるのに使います……えっと、ギルドで教えてもらわなかったんですか?」

 

 ギルドのお姉さん……これ、最初に教えてくれても良くないか? たぶん、レイがレア役職を引いたことで忘れていたのかもしれないな……つくづく自分が運が悪いのではないかと思う。――ふとカードを見ると……


 『《ラディアント・バースト》…解放スキルポイント――九十五。』


 この魔法に必要なポイント高すぎだろ……桁を見間違えたかと思った。九十五? いや、九・五じゃなくて?


「まあ、見ててください――民族魔法の力を! 鍵開け魔法の力を!」


 モルティナが扉の紋章に手をかざし、つぶやいた――


「開け――ごま!」


 ……え? この魔法考えたやつ絶対日本人だな。

 扉の紋章が光を帯びて鳴動し始めた。扉はゆっくりと大きな岩を引きずるような音と金属が擦れ合う甲高い音を鳴らしながら、開かれた。


「ね? 便利でしょう?」


 民族魔法――すごく便利な魔法だ。しかも、詠唱なしでこの能力……強すぎないか?


「その民族魔法ってのは誰でも作れるものなのか?」


「誰かが心から望めば、その想いが術になる――それが民族魔法なんですよ!」


 宝物庫の中は、荘厳な雰囲気と共に、長年閉ざされていた石と金属の冷たい匂いが鼻をかすめた。


「ゴホッゴホッ! ホコリっぽいわねえ……」


 自称女神が咳き込みながら言う。


「この魔道具とか凄そうです! お店用に貰っちゃいたいです!」


「タイガタイガ! 見なさいよ、このティアラを! 女神である私に相応しいと思わない!?」


 先程までの緊張感はどこへ行ったのかと言いたくなるほどのお二人さんだが……無理はない。俺も現にすごく興奮している。ティアラや剣、壺に輝石…のようなさまざまな宝に、ゲームのダンジョンで見たような景色が目の前に広がっていたのだから。


「すげえ……ようやく異世界って感じがする。」


 ものすごい感動だ。


 

 ※


 

「だいたい、こんなもんだな。」


 ある程度、金になりそうなものは収集できた。


「タイガさん、タイガさん! これも貰ってきましょ!」


 レイが差し出したのは、少し埃をかぶった小さな時計だった。


「これは……時計か?」


 なんか、見覚えがあるような気もするが――いや、やっぱり気のせいか。


「ああ、それは特定の言葉を唱えると悪魔が呼び出せる魔道具ですね。……ただし、特定の種族の方しか使えませんし、呼べるのは仲良くなった悪魔だけです。」


「へえ……そんなアイテムがあるんだな――」


 裏を見ると、『我が友よ、召喚するから出てきなさい!』と書いてある。あれ? この文字、日本語だ。近くにはコインも落ちていて……


 ――これ絶対日本人の持ち物だろ。


「へえ、悪魔を呼べるのね! じゃあ、出てきた悪魔を倒してストレス発散用アイテムにしましょ!」


 女神レイは相変わらず、物騒な発想しか思いつかない。


「いえ、この魔道具はそんな無茶はできません。仲良くなった悪魔しか呼べませんし、特定の種族の方以外は使えませんので……意味ないです。」


 少し残念そうにレイは肩を落としたが、俺はむしろ安心した。もし誰でも使えたら、たぶんこの世界は大混乱になるだろうし……妥当な制約だろう。特定の種族ってなんだろう……日本人とかだったら――俺もチート持ちになれる!?

 というか、この魔道具。レイから渡されたパンフレットのどこかに載っていた気がする。


「なあ、レイ。この魔道具の持ち主ってさ――お前が送り込んだ転生者の転生特典じゃね?」


「……」


 レイは途端に黙り込んだ。


「お前……まさかだけど、他の転生者が持っていった特典って――この世界にまだたくさん残ってるんじゃないか?」


「――えっと……そ、そうかもしれないわね! でも、特典の回収はこの世界の女神がやる仕事だし! 私はこの世界の子より先輩だし! うん! 仕方なーい、仕方なーい!」


 俺は無言で、レイの頭をぐりぐりした。


「あああ! 痛い! 痛いから! やめてえ!」


 レイは泣き喚き、それを見たモルティナは苦笑いを浮かべた。


「まあ、一応貰って行くか。」


 俺は、先輩転生者の特典を手に入れた。


「さ、そろそろ帰るか?」


「そうですね……奥の壁から神々しい気配を感じるのですが、何があるかわかりませんし、ルミネルさんも待たせてますしね!」


 一応、ルミネルをずっと待たせてるのも悪いから、お土産でも持っていこうかと思い、俺は近くにあった紫に輝く宝石の指輪を取った。


「じゃあ、ここにある残りの物は全部私のものね!」


「えっと……レイ様? 宝物は取りすぎると税金がかかるのですが……」


 この世界――税金あるのか……


「まあ、このダンジョンはだいぶ壊しちゃったので――おそらくギルドは募集を出さないと思いますし、後日なら大丈夫かなと思います……」


 さて、どう脱出しようか。道を辿って戻ろうにも下の階は壁トラップの発動で消滅した。


「なあ、帰り道がないがどうする?」


「見てなさい! この星のどこかにテレポートする魔法を――」


「いや、入り口に帰りたいだけなんだが……? やっぱり、他の特典と交換し――」


 言い切る前に、仮にも女神様は掴みかかってきた。

 

「あの……入り口の座標を記録してあるので、《ソウル・テレポーテーション》ってネクロマンサースキルで帰れますよ?」


「モルティナはやっぱり違うなあ! どっかの女神よりも頼れるし――」


 遮るようにレイが言った。


「なんでネクロマンサーのスキルを受けなきゃいけないのよ! 私は嫌よ!」


「なら、自力で帰ってこいよ……俺はモルティナと帰ってるから! この星のどこかから頑張って歩いてくれ!」


「わかった! わかったから! 私もその魔法で帰るから!」


 モルティナはまたも苦笑いを浮かべながら――


「ふふふ。じゃあ、帰りますよ! 《ソウル・テレポーテーション》!」


 俺たちは魔法陣に包まれた。そして……

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