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「そ、そんなことないですから!」
「えー、絶対にルミネルちゃんってタイガのこと――あ、起きた。」
「よお、寝坊助!」
目を開くと、ギルとルミネルを背負ったコットンがいた。
そして、何故だかルミネルの顔が赤かった。
「タイガ、大丈夫ですか?」
「ああ、問題な――いっ、いででででで!!」
体が勝手にルミネルへ引き寄せられる。
この感覚……まさか――!
「――あのクソ女神っっ!!」
その瞬間、頭の中にフェアリーの声が響いた。
〔ごめーん! 私の悪戯ってね――“心の距離と身体の距離が連動する”仕様なんだよねー! ……あれ? 言ってなかったっけ?」
いやいやいやいや、言われてねえよ!?
どこから俺の思考に介入してんの!?
〔加護を与えた女神は、与えた相手の心にいつでもアクセスできるの。ボーナス特典! ボーナス特典!〕
最もいらない……最悪の、特典だ。
〔あとね! さっき悪戯が発動しなかったのはね?ルミネルちゃんがタイガくんを“突き放してた”からだよ。でも今は――ふふん!」
……黙れ。
「ルミネル……どうやら俺たち――しばらく離れられないらしい!」
「……へっ? え? む、むりむりむりむり無理です無理です無理です!!」
「違うんだって! 勝手に体が――!」
「ちょっと!? なんでタイガがこっちへ来てるの!? 近い近い近い! いやあああああ!!」
コットンがルミネルを背負ったまま、爆速で逃げる。
「違う! 本気で違う! コットン……頼む、話を聞いて――! 引き寄せられてるから!」
「言い訳無用! 《ウィング》!!」
コットンの風魔法が直撃する。
「ぐおおっ!? 危ねええ!!」
「そこ動かないで! タイガにルミネルは渡さない!」
「何その言い方!? 誤解だってばァァァ!!」
コットンが冷めた目で俺を見る。
「ねえ……タイガってさ、もしかしなくても――変態?」
「ちっがああああう!!」
この誤解は痛い。痛すぎる。
全部……全部フェアリーのせいだ……!
〔あはははははははっ!! 死ぬ、笑い死ぬ……!!〕
頭の中に最悪な笑い声が響き続ける。
「フェアリー!! お、お前えええ――なんとかしろおおおおおっ!」
俺の叫びが、平原に虚しくこだました。




