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この異世界は、ヒーローでありふれている!  作者: やまぬこもち
第29話『口下手の向こう側』
118/125

29-2

「やあ、よく来たね――遠藤大我くん。」


 その落ち着いた声で目を開くと――小高い丘の上に机と椅子が置かれていた。風は穏やかで、どこまでも澄んだ空が広がっている。


「……ここは――いつもの場所じゃ、ない?」


「はい、ここはタイガさんの精神世界です。――まあ、ある意味では、天界ですけどね。いつもの"死者の間"とは違う場所です。」


 ミリアが、光に包まれながら後ろから歩いてくる。


「俺の精神世界?」


「そうだよ、キミに加護を与え――そして、契約した女神なら自由に出入りができる。」


 声の主が姿を現す。

 ミリアより背が少し高く、髪はゆるい桃色のカール。

 微笑むだけで空気が甘くなるような雰囲気をまとっていた。


「やあ、初めまして。私は――"恋の女神"フェアリー。これからよろしくね、遠藤大我くん。」


「……もしかして、あんたが……あの呪いをかけた張本人か!?」


「呪いではない、正確には試練だよ。ちょっとした可愛い悪戯……って言った方がキミらは納得するかな?」


「全然可愛くない!! 色々とハチャメチャだったんだぞ!」


「ふふふ、ごめんごめん。でもね――」


 フェアリーは細めた瞳で俺を見た。


「いいものを見せてもらったよ。おかげで、キミに“恋の加護”を与える決心がついた。」


「……俺に、加護を?」


「そう。“恋”とは、ただ甘いだけのものじゃない。すれ違いも、衝突も、涙も――全部ひっくるめて恋なんだよ。」


 フェアリーが俺に近づく。

 風が止まった。


「キミは、仲間にちゃんと言葉でぶつかった。そして――大切な人に、“ありがとう”って言えた。」


 胸の奥が、不思議と熱くなる。


「そんなキミだからこそ、恋の加護を持つ資格がある。」


「……俺なんかが……?」


「遠藤大我くん。キミは――自分が思ってるより、ずっと人を変える力を持ってるよ。」


 ミリアも頷く。


「タイガさん……私は、ずっと見てきました。あなたの選択、言葉――どれも胸を張れるものです。」


「ミリア……」


「――さあ、始めようか。」


 フェアリーが指を鳴らす。


 周囲の世界が、淡いピンク色に染まった。

 光が波紋のように広がり、俺の胸元に吸い込まれていく。


「遠藤大我。キミに――“恋の加護”を授ける。」


 風が弾けるように吹いた。

 心臓の鼓動がドクン、ドクンと響く。


「キミが誰かを想い、救いたい願う時――そのチカラは応えてくれる。ただし――」


 フェアリーが、意地悪そうに笑う。


「制御できなきゃ、大変なことになるかもね?」


「おい! なんでそんな危険なもの渡してくんだよ!」


「恋ってのは、いつだって危険だからさ。」


「いやそういう話じゃなくてだな!!」


 ミリアが微笑む。


「必要になるのは――まだ先ですけどね……」


「まだ……?」


「あ、なんでもないです。こっちの話です……」


 ミリアが机の上に置かれた古びた分厚い本に目をやる。


「その本は……?」

 

 フェアリーが笑いながら、俺の肩を軽く叩く。


「ま、がんばりなよ。――恋はね、時に世界さえも変えるんだから。」


 その言葉と同時に、景色が揺れ始めた。


「タイガさん……準備はいいですか?」


「ああ……帰るよ。」


「いってらっしゃい。」


「頑張れー」


 フェアリーとミリアの声が遠ざかっていく。

 視界のピンク光が強まり――俺は、現実へと戻っていった。

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