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「(大丈夫……私は一人でも――できる。ずっと一人だったんだ……それくらい……)」
ルミネルが杖を構える。
「――《ラディアント・バースト》……」
いつもの虹のような光ではなく、黒いモヤが放たれ、魔物の群れが一掃された。
「……ハア、ハア……タイガなんて、仲間なんて――いなくても……」
ルミネルは自分に言い聞かせるように呟く。
「グルルルル……」
「――っ!」
そこには、冒険者が最も恐れる魔獣――"ベアウルフ"がいた。
ベアウルフはルミネルへと襲いかかる。
「(タイガにあんなことを言ったんだ……当然の報いだ……)」
ルミネルを喰らおうと振り上げた爪が、空を裂いた――
直後、何かが閃き、ベアウルフの巨体が崩れ落ちる。
「……どうして! どうしていつも――!」
「――邪魔だ!」
「(タイガはいつも――私を助けてくれるの!?)」
「……ルミネル、ごめん――俺が悪かった。」
「そんな、私が悪かったんです……ごめんなさい。」
「あと……いつもありがとう。」
「え……? どうして急に……」
「――俺ってさ……いつもなんだかんだで、お前らに助けてもらってばっかりでさ……」
「そんなこと言ったら、私も――こんな魔法しか使えない私を仲間にしてくれてありがとうございました。それじゃ――」
ルミネルが後ろを振り向き、杖を支えにするかのように立ち上がる。
「……ん? お前――何言ってんだ?」
「だって……私はパーティーから抜けるって話したじゃないですか。」
「お前なあ……! 誰がお前に出ていけって言ったんだよ!」
「……え?」
ルミネル――彼女はどこか抜けている少女だった。
※
強張った顔をして、天界から様子を見ていたフェアリーの表情が一気に緩む。
「――合格だ。」
「……え?」
「わからない? だから、タイガくんは私の加護を与えるにふさわしい存在だってことだよ。」
「それじゃあ――」
ミリアの強張っていた表情も緩む。
「うん、ミリアちゃん……タイガくんを召喚して。いやあ〜、いいもん見させてもらった!」
「――はいっ!」
※
俺の視界が揺れる……
「タイガ……?」
「ごめん、ルミネル……少し……寝る――」
「いってらっしゃい。」
「ああ……」
俺は流れに乗せられるまま、目を閉じた――。
視界の端で、淡いピンクの光が瞬いた気がした。




