28-5
いつもの平原で、魔獣たちが唸り声を上げていた。
ルミネルの髪が風に舞う。
今日はレイたちがいない。だから――偶然近くにいたギルとコットンを連れてきた。
「ルミネル! 俺がアクセルブレイクで一箇所に相手をまとめる! そしたら――」
「いつも通り、ぶっ放せばいいんですね!」
「正解だ! それじゃあ……行くぞっ!」
俺がルミネルから離れようとした瞬間――思い出した。
「やっべ……」
「で、ですよね!? こっち来ないでください!」
「と、止まれえええええっ!」
またもルミネルとぶつかる。
その後も何度も何度も――衝突を繰り返す。
「またかよ!」
「またですか!」
「あの二人、戦闘中でもイチャついてんのかよ……」
ギルが空気を刺す。
「ちがうっ!!」
「ギル……あれは違うよ。喧嘩が正しいかも……」
周囲に険悪な空気が漂った。
※
「先輩! 空気が悪くなってますよ!?」
「しーっ! ミリアちゃんは"恋"って何だと思う?」
「え……異性でも同性でも――好きになった相手を追いかけること、じゃないんですか?」
「半分だけ正解。」
「半分だけ?」
「そう。もう半分……それは私の"持論"。」
「……持論?」
「そう……でもね、知ってる? 本当は、私自身も――恋を知らないの。」
フェアリーが少し寂しそうに笑う。
「だからこそ、人の恋を応援したくなるのかもね。」
「で、半分は?」
「すぐに答えを急ぐ、キミの悪い癖だよ……ま、ミリアちゃんは知恵の女神もんね。」
「別にそういうわけじゃ……」
「相手に本心から想いを伝える――それが怒りでも、涙でも、叫びでもいい。それが、私にとっての“恋”の定義だよ。」
「で、でも……あの二人……あのままじゃ……!」
「……大丈夫。タイガくんには期待してるんだ……あの子なら、"恋の加護"を使える。」
ミリアの瞳が一瞬、大きく揺れる。
「……"恋の加護"って……あの危険な――!」
※
俺たちは言い争いをしていた。
それはとても子供じみた論争だった……家事ができるできないだの、頭がいいだの悪いだの――本当にどうでもいいことを。
「あー、もう! 弱い癖に! 黙っててください!」
「ちょーっと強い魔法が撃てるからって! 魔法以外――」
……その瞬間、言い過ぎたと気付いた。
でももう遅かった。
ルミネルの目元が一瞬揺れる。
――目元の光るものが落ちる前に、彼女は顔を背けた。
「そうですね! 私にはどうせ魔法以外ありませんよ! なら、もう――」
肩が震える。
「このパーティーにはいらないですよね!」
叫んだあと、ルミネルは半ば自暴自棄に魔獣の群れへ走りだした。
……呪いは発動しなかった。
(……あいつ、本気で俺のこと……突き放して――)
「追いかけないの?」
コットンの目が、まっすぐ俺を刺す。
「……」
「タイガ……俺はな――仲間を失ったことがある。」
「ギル……?」
「いいんだ、もう吹っ切れてる。」
ギルが拳を強く握る。
「そんとき気づいたんだよ。"後悔"ってのは、言葉を飲み込んだ瞬間に生まれるんだ。後で言っても――遅ぇんだよ!」
「そんなことはわかってる……わかってるよ……」
「"時間は前にしか進まない、後悔しても時間は戻らない"。――俺の師匠の受け売りだけどな。
「――!」
胸の奥が、刺されたみたいに熱くなる。
俺がルミネルに伝えたいのは、異性としての好きとか嫌いとかじゃない。
本当はずっと――
感謝を、言いたかったんだ
「ありがとう……ギル。行ってくる――アイツに、ちゃんと伝えたいことがある。」
「……おう、行け! そこまでの道のりは切り開いてやる!」
ギルは剣を抜く。
その鍔は――砂時計のような不思議なデザインだった。
「ギル……それは?」
「んなもんはどうでもいい! 早く行け!」
「ああ!」
《アクセルブレイク》!!
俺は全身で地を蹴り、ルミネルへ一直線に走った。
※
「さあ、見せてごらん――タイガくん。」
月光のような瞳でフェアリーが微笑む。
「キミが、“恋の加護”にふさわしい人間かどうか。」
【あとがき】
今回はタイガとルミネルの心のストーリーです。
"心と体の距離ゼロメートル作戦"はYouTubeなどで見かける『24時間男女で手錠生活』的なものに影響を受けています!
さて、喧嘩してしまった二人は仲直りできるのか!
お楽しみに! 29話は明日公開予定です!




