28-4
「――よし、行くぞ……」
我ながら完璧な作戦だと思う。
今日ほど、ルミネルがラディアント・バーストをぶっ放した後に、動けなくなることに感謝したことはない……というか、感謝することはないだろう。
「正直、乗り気ではないですが――これが最善策なので仕方ないですね……」
作戦はこうだ。
ルミネルを背負って、ギルドに向かう。ただ、それだけ。
ギルドの奴らは、深く考えずに……「ああ、またか」で済ませるだろう。――たぶん。
「それじゃあ、行くぞ……」
「はい……」
「どうした? いつものことじゃないか。」
「そ、そうです、けど……」
背中にルミネルの体温や胸の鼓動が伝わる。
その微かな重みが、なんかいつもより――近い。
いや、近いどころじゃない。完全に密着してる。
意識するな……心を無にするんだ……!
「ダイジョウブ、オレハ、ロボット。カンジョウハ、ナイ……」
「……タイガ?」
「ん?」
「もう少し、ゆっくり歩いてください。揺れると……ちょっと、その……」
「あ、ああ、悪い。」
なんだこの空気。
ギルドまでの道が、こんなにも長く感じたのは初めてだ。
※
「ういーっす、タイガ! お前、またルミネル担いでんのか!」
「なーに、朝っぱらからイチャイチャしてんの!」
「ギル、それにコットンか……」
よりによってか……今、一番会いたくなかった奴らだな。
「まともそうに見えて、やることはやってたってわけか! やるな!」
「ち、違うっ! そういうんじゃ――!」
「タイガ、このことはお前の仲間には黙っててやる。だから、俺とミリアさんの関係を――ゴフォッ!」
ギルがコットンにぶっ飛ばされた。
「うわあ~、顔真っ赤じゃん! ルミネルちゃん、照れてるのか~?」
「ちょ、ちょっと、コットン姐さん!? からかわないでください!」
……ほらな。こうなると思ったんだよ。
ギルとコットンに絡まれた時点で、この作戦は詰んでいた。
ギルたちを筆頭に周囲の冒険者たちがわいわいと騒ぐ中、受付嬢・ミリアが奥から顔を出した。
「あら……お二人とも、随分仲が良いじゃないですか?」
「ミリアさんまで! ち、違いますって!」
俺は何も言えなかった。だって……この人は理由を知ってるのに――白々しい演技をするのだから。
「ふふっ、いいじゃないですか。距離、近い方が“絆”も深まりますよ?」
――“距離”。
その単語に、俺とルミネルは同時に反応してしまった。
「(……ミリアさん――あんたの先輩女神のせいでこうなってるんだけどな……)」
「(……な、なんで今日に限ってこうなるんですか……!?)」
お互いに言葉を飲み込み、顔を見合わせる。
その距離――ゼロメートル。
ギルド中の視線が一斉に集まり、なぜか拍手が起きた。
「お幸せにー!」
「「ちがあああああう!!」」
俺たちの声がハモり、ギルドが爆笑に包まれた。
※
ミリアが俺に手招きする。
「タイガさん……少しいいですか?」
「今、行きます――」
「タイガ、立ち上がったら!」
「……あ!」
気づいたときには――もう遅かった。
「ルミネル……ごめんっっっ!」
ぶつかる俺たちを見て、ミリアはクスクスと笑う。
……女神ってこんなのしかいないのか?
「ミリアさん……」
「ご、ごめんなさい! つい……」
「それで、何の用ですか?」
「実は、クエストを――」
「嘘ですよね?」
「嘘じゃないです!」
ミリアが満面の笑みを浮かべる。
「ルミネル、今ならここでぶっ放しても構わないぞ。」
「わかりました……ギルドなんて初めからなかった――それでいいですね?」
「や、やめてください! 報酬は通常の数倍払いますから!」
「で、でもなー。そんな数倍になった程度じゃ行けないよなー……なあ、ルミネル。」
「そ、そうですねー。数倍になった程度じゃ行けませんよねー。」
ミリアが小声で呟く。
「……今日の食事代、無料。」
「「行きます!」」




