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28-3

「……朝ごはん、どうします?」


「アイツらは――いないのか。はあ、仕方ない……作るか。」


「でも、卵料理しかできないんじゃ――」


「実はだな――俺は"料理スキル"を覚えた。だから、たいていの料理は作れる。」


「今日は当番じゃないですけど、私も手伝いますよ。」


「……ま、どっちにしろ――この状態だと強制的に手伝うことになるけどな。」


「そうですね……」


 ルミネルが苦笑いを浮かべた。

 その距離――ほんの数十センチ。

 いつもより近いはずなのに、なぜか遠く感じた。

 

 ※


「さてさて、お手並み拝見と行こうか……」


「本当に先輩、性格に難ありですね。」


「おお? 急に言葉のナイフ飛ばしてきたねー。ミリアちゃんも女神らしくなった、ってことかな?」


「褒めてるようで、全然褒めてませんよね?」


「ふふん。見ててごらん? “距離ゼロメートル”で料理なんて――もう恋の火花バチバチだよ!」


「火花どころか、本当に火が上がらないといいですけどね……」


「だいじょーぶ! それもスパイスよ!」


「先輩……絶対にリスクは計算に入れてないですよね。」


「恋はいつだって実験なんだよ? 失敗はつきものだよ。」


 ※


「おいルミネル、包丁取ってくれ。」


「え、あ、はい……って、近っ!?」


「だから言ったろ、一メートル以内しか動けないって。」


「そんな至近距離で料理しないでください! 危ないですって!」


「いや、文句言っても仕様だからなこれ!」


「うわっ!? あっ、タイガっ! フライパン、炎上してます!」


「うおおおお!? 火花とかそういうレベルじゃねえええ!!」


 朝の静かな屋敷に、俺たちの叫び声と焦げ臭い煙が響いた。


「ルミネル! み、水だ!」


「わかりました! 水は――」


 ルミネルが水を取ろうとする――その距離は一メートルを超えていた。


「……え!? ま、まずいっ!」


「こ、こっち来ないでください!」


「む、無理だああああっ!」


「きゃああああああああっ!」


 ガッシャーン、と音が鳴る。

 ルミネルの後ろにあった食器棚が倒れ、床に割れた皿が散らばった。


「――今日は外食にしようか……」


「そうですね……これじゃあ、いつまで経っても完成する気がしません。」


 静寂の中で、目を合わせる――そして、同時に吹き出した。


「ふふっ……最悪の朝ですね。」


「だな……」


 恋の女神だか、なんだか知らないが……本当に余計なお世話だ。


「――でも、少し楽しいですね。」


「……え?」


「な、なんでもないです!」


 ルミネルが顔を真っ赤に染める。

 焦げた匂いの中――ほんのりと甘い、別の“香り”が混じっていた。

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