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「……朝ごはん、どうします?」
「アイツらは――いないのか。はあ、仕方ない……作るか。」
「でも、卵料理しかできないんじゃ――」
「実はだな――俺は"料理スキル"を覚えた。だから、たいていの料理は作れる。」
「今日は当番じゃないですけど、私も手伝いますよ。」
「……ま、どっちにしろ――この状態だと強制的に手伝うことになるけどな。」
「そうですね……」
ルミネルが苦笑いを浮かべた。
その距離――ほんの数十センチ。
いつもより近いはずなのに、なぜか遠く感じた。
※
「さてさて、お手並み拝見と行こうか……」
「本当に先輩、性格に難ありですね。」
「おお? 急に言葉のナイフ飛ばしてきたねー。ミリアちゃんも女神らしくなった、ってことかな?」
「褒めてるようで、全然褒めてませんよね?」
「ふふん。見ててごらん? “距離ゼロメートル”で料理なんて――もう恋の火花バチバチだよ!」
「火花どころか、本当に火が上がらないといいですけどね……」
「だいじょーぶ! それもスパイスよ!」
「先輩……絶対にリスクは計算に入れてないですよね。」
「恋はいつだって実験なんだよ? 失敗はつきものだよ。」
※
「おいルミネル、包丁取ってくれ。」
「え、あ、はい……って、近っ!?」
「だから言ったろ、一メートル以内しか動けないって。」
「そんな至近距離で料理しないでください! 危ないですって!」
「いや、文句言っても仕様だからなこれ!」
「うわっ!? あっ、タイガっ! フライパン、炎上してます!」
「うおおおお!? 火花とかそういうレベルじゃねえええ!!」
朝の静かな屋敷に、俺たちの叫び声と焦げ臭い煙が響いた。
「ルミネル! み、水だ!」
「わかりました! 水は――」
ルミネルが水を取ろうとする――その距離は一メートルを超えていた。
「……え!? ま、まずいっ!」
「こ、こっち来ないでください!」
「む、無理だああああっ!」
「きゃああああああああっ!」
ガッシャーン、と音が鳴る。
ルミネルの後ろにあった食器棚が倒れ、床に割れた皿が散らばった。
「――今日は外食にしようか……」
「そうですね……これじゃあ、いつまで経っても完成する気がしません。」
静寂の中で、目を合わせる――そして、同時に吹き出した。
「ふふっ……最悪の朝ですね。」
「だな……」
恋の女神だか、なんだか知らないが……本当に余計なお世話だ。
「――でも、少し楽しいですね。」
「……え?」
「な、なんでもないです!」
ルミネルが顔を真っ赤に染める。
焦げた匂いの中――ほんのりと甘い、別の“香り”が混じっていた。




