28-1
その日は快晴だった。
レイとカグラはクエストで明後日まで帰ってこない。
ルクスは盗賊ギルドの会合で王都へ、メイラも一度村に戻る――とかで、しばらくの間いない。
つまり、屋敷に残っているのは――俺とルミネルだけだった。
「明日はどうしますか?」
「そうだな……俺たちだけでクエストに行ってもあれだしな……」
「そうですね、タイガと行っても――生きて帰れる気がしません……」
「おい。」
「ふふ、冗談ですよ。」
「まあ……明日のことは明日考えようか。」
「そうですね……おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
ルミネルが部屋に戻ると、屋敷の中は静寂に包まれた。
外では、風が木々を優しく揺らしている。
――二人きりの夜。
その静けさが、なぜか少しだけ胸をざわつかせた。
さて――俺もそろそろ寝るか。
※
「ふんふんふーん、これでいこうか……いや、やっぱり――こっちかな?」
「――また来たんですか……先輩。」
「うん、来たよ? ミリアちゃん、来たらダメだった?」
「ダメではないですけど……何しに来たのか気になって――」
「天界規定第七条覚えてる?」
「え? どうして急に――」
「いいから、いいから!」
「女神の力で直接運命を変えるのは禁忌、ただし助力は含まれない――ですか?」
「大正解! さすが優等生女神だね!」
「それがどうしたんですか?」
「そう、直接結ばせたらアウト! でも“きっかけ”ならセーフ! ね、天界も抜け道多いでしょ!」
「……抜け道って言いましたね?」
「言ったよーん! 恋はいつだって抜け道だよ、ミリアちゃん!」
「フェアリー先輩……本当に懲りませんね。」
「だって見てるとムズムズするんだもん! タイガくん、あのままじゃ一生進展しないって! 一生"清い関係"のままよ!?」
「余計なお世話ですよ! 清い関係の何が悪いんですか!」
「悪くないけど、面白くなーい!」
「……は?」
「というわけで、名付けて――『心と体の距離、ゼロメートル』作戦! 発動〜っ!」
「……聞きたくなかったです。」
「ふふふっ、ミリアちゃん。夜明けが楽しみだね?」
「いやな予感しかしませんけど。」
フェアリーの笑い声が消えると、天界の空気がわずかに震える。
ミリアは静かに手を合わせ、そっと呟いた。
「……タイガさん、頑張ってください。本当に。」




