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この異世界は、ヒーローでありふれている!  作者: やまぬこもち
第27話『再会の雷鳴と、恋の嵐』
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27-4

「――ハアハア……ルミネル……どれくらい意識飛んでた……!?」


「一時間くらいですね……。レイは少し前に起きて、今はお風呂中です。他のみんなはもう布団に入りましたよ。」


 目が覚めた時、天井の木目がぼやけて見えた。

 喉は焼けるように痛く、舌がまだヒリヒリしている。

 ……そうだ。あの料理だ。


 ルミネルとメイラが作った料理は――この世の終わりかと思うほど辛かった。

 普段のルミネルの料理はすごく美味しいのだが、今日のあれはもう“食事”というより“修行”。見た目からして既にダークマター、食べた瞬間に脳がエラーを起こすレベルだった。


「実は――メイラは絶望的に料理ができないんですね……」


「だろうな……今、身をもって体感したよ。」


「私も小さい頃はよくメイラの料理で意識を飛ばしてましたよ……」


 ルミネルが遠い目をする。その顔には、どこか達観したような微笑みが浮かんでいた。


「でも、そのうち慣れますよ! 私も五年で慣れましたから!」


「五年もあれ食ってたら――その前にあの世行きだな……」


 俺は枕に顔を押しつけて呻いた。

 部屋の外からは、お風呂場の方でレイの鼻歌が聞こえてくる。

 静かな夜――なのに、舌の痛みだけはしっかり現実を教えてくる。


 ……頼むから、明日は普通の飯が食べたい。


「それじゃあ、そろそろ私も寝ますね! あ、冷蔵庫にさっき作ったプリンが入ってるので、食べちゃってくださいね!


「まじか! 今、口の中が甘いものを求めてたから、ありがたい!」


「ふふふ、それはよかったです! タイガの分しか作ってないので……みんなには――内緒、ですよ?」


 ルミネルは口元に人差し指を置いて、そっと微笑んだ。

 その仕草が、なぜか妙に胸の奥をくすぐる。


「……」


「急に黙ってどうしたんですか?」


「いや……別に――」


「そうですか? それじゃあ、おやすみなさ――え? き、急に……ど、どうしたんですか!?」


「……っ! わ、悪い……」


 気づけば、俺は無意識にルミネルの腕を掴んでいた。

 温かくて、柔らかい感触。けれど、何も言えないまま手を放す。


「……なんでもないなら――行きますね?」


「あ、ああ……えっと――おやすみ?」


「……はい! おやすみなさい!」


 そう言うと、ルミネルは少し頬を赤らめながら、足早に自室へと戻っていった。

 扉が閉まる音だけが静かに響く。


「……俺、なにやってんだろな……」


 そう呟くと、冷蔵庫の奥でひんやりと光るプリンが、やけに眩しく見えた。

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