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「――ハアハア……ルミネル……どれくらい意識飛んでた……!?」
「一時間くらいですね……。レイは少し前に起きて、今はお風呂中です。他のみんなはもう布団に入りましたよ。」
目が覚めた時、天井の木目がぼやけて見えた。
喉は焼けるように痛く、舌がまだヒリヒリしている。
……そうだ。あの料理だ。
ルミネルとメイラが作った料理は――この世の終わりかと思うほど辛かった。
普段のルミネルの料理はすごく美味しいのだが、今日のあれはもう“食事”というより“修行”。見た目からして既にダークマター、食べた瞬間に脳がエラーを起こすレベルだった。
「実は――メイラは絶望的に料理ができないんですね……」
「だろうな……今、身をもって体感したよ。」
「私も小さい頃はよくメイラの料理で意識を飛ばしてましたよ……」
ルミネルが遠い目をする。その顔には、どこか達観したような微笑みが浮かんでいた。
「でも、そのうち慣れますよ! 私も五年で慣れましたから!」
「五年もあれ食ってたら――その前にあの世行きだな……」
俺は枕に顔を押しつけて呻いた。
部屋の外からは、お風呂場の方でレイの鼻歌が聞こえてくる。
静かな夜――なのに、舌の痛みだけはしっかり現実を教えてくる。
……頼むから、明日は普通の飯が食べたい。
「それじゃあ、そろそろ私も寝ますね! あ、冷蔵庫にさっき作ったプリンが入ってるので、食べちゃってくださいね!
「まじか! 今、口の中が甘いものを求めてたから、ありがたい!」
「ふふふ、それはよかったです! タイガの分しか作ってないので……みんなには――内緒、ですよ?」
ルミネルは口元に人差し指を置いて、そっと微笑んだ。
その仕草が、なぜか妙に胸の奥をくすぐる。
「……」
「急に黙ってどうしたんですか?」
「いや……別に――」
「そうですか? それじゃあ、おやすみなさ――え? き、急に……ど、どうしたんですか!?」
「……っ! わ、悪い……」
気づけば、俺は無意識にルミネルの腕を掴んでいた。
温かくて、柔らかい感触。けれど、何も言えないまま手を放す。
「……なんでもないなら――行きますね?」
「あ、ああ……えっと――おやすみ?」
「……はい! おやすみなさい!」
そう言うと、ルミネルは少し頬を赤らめながら、足早に自室へと戻っていった。
扉が閉まる音だけが静かに響く。
「……俺、なにやってんだろな……」
そう呟くと、冷蔵庫の奥でひんやりと光るプリンが、やけに眩しく見えた。




