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この異世界は、ヒーローでありふれている!  作者: やまぬこもち
第27話『再会の雷鳴と、恋の嵐』
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27-1

 ギルドは朝から活気に包まれていた。

 なんでも聞いた話だと、俺が魔王軍幹部第七将軍ベルフェゴールを討伐したことで――アイツにできるなら俺にもできる!のノリが蔓延しているらしい。

 

「では、改めて――メガエル討伐お願いしますね!」


 ――受付嬢ミリアの笑顔は少し恐ろしい。

 俺たちは、旅行の前にミリアから受けたクエスト"メガエル討伐"へと遂に踏み出した。

 メガエルは巨大なカエルのようなモンスターで、クエストに慣れ始めた初心者から中級者がよく挑むらしい。


「ま、私に任せておけば――余裕ね!」


「そういうお前が一番心配なんだよ、ポンコツ女神……」


「ああああ! またポンコツって言ったああああ!」


 森の奥、ぬかるんだ地面を進むと、奇妙な鳴き声が響いた。


「ケロ……ケロロロロ……」


 先頭を歩くルクスが手を出して、俺たちを制止する。


「……いたよ、メガエルだ。」


「久しぶりに見たが……やはり大きいな。」


「少し小さめな個体な気がしますね……」


「いーや、どう考えても……デカすぎるだろ! どうしてお前らは落ち着いてられるんだ!? てか、これが“小さめ”!? おかしいだろ!!」


 俺の常識がバグってるのか!? 明らかにカエル界のボス級だぞこれ!


「そうよ! 今回だけはタイガが正しいわ! 冷静なみんなはどうかしてるわよ!」


「なんでも巨大化させればいいと思ってるのかよ! これだから――異世界はあああっ!」


 そう、俺たちの目の前には――巨大なカエルがいた。

 俺とレイがギャーギャー騒ぎ、ルクスが身構え、カグラが鎖を回し、ルミネルが杖を構える。


「来るぞ!」


 カエルの舌が目の前を通りすぎる。見るだけでヌルヌルとしていることがわかる――


「絶対に当たりたくねえ!」


「タイガ! もっと、ちゃんと躱しなさいよ!」


「お、お前なあ! 俺は今……背中に卵背負ってるんだよ!」


「アンタ、バカなの!?」


「ポンコツ女神なお前にだけは言われたくない!」


「そんな卵捨てなさいよ!」


「――断る!」


 だって――領主から貰ったやつだし……それに特別な個体って言っていた。かわいいドラゴン少女――みたいなのが生まれるかも……そんな期待を持つと置いてくるなんて選択肢は除外されるのだ。

 今は、少しでも長く温め続けて、早く孵化させたい――そんな気持ちが勝っている。


「あー、もう! いい加減にしてよ! 一旦、落ち着こう!」


「ああ、ルクスの言う通りだ! ルミネル、詠唱を頼んだ!」


「わっかりました!」


 カグラの指示でルミネルが杖をくるくると回し、かっこつけてから詠唱を唱え始める。

 それにしても、やっぱり――絶対に地竜の孵化作業中に来るクエストではなかったな……モルティナにでも預けてくればよかったな……と、そんな後悔をした――その時だった。


「と、止まってえええええええ!」


「……え?」


 轟音。風が森を裂く。

砂埃の向こうから、箒に乗った少女が――流星のように現れた。


「よ、避けてええ! か、カエルう!? ら、ら、《ライトニングショット》!」


 鋭い光が閃き、メガエルを真っ二つに切り裂いた。


「な、な、なっ……なんだこりゃああああ!」


「相変わらず、あの人が作った魔道具は……あっ。本当にすみません! クエストの邪魔してしまって……!」


 栗毛色の髪が風に揺れる。ペンくらいの大きさの杖を手に持ち、ルミネルより少し高い身長、そして……スタイルもルミネルより――いや、やめておこう。

 何より――ルミネルと同じ淡い紫の瞳をしていた。

その瞳は、不思議と人を惹きつける明るさを宿していた。


「もしかして……アビス族か?」


「はい! そうです!」


 風に乱れた髪を押さえながら、彼女はにかっと笑った。


「もしかして……」


「え、えっ!? ちょっと待って、その声……ルミネル!?」


「メイラ……なの?」


 ルミネルの瞳がわずかに揺れる。

 炎の赤が、その表情をやわらかく照らしていた。


 カエルの残骸を片づけたあと、俺たちは森の外れで焚き火を囲んでいた。

 小枝がパチパチと音を立てて、燃える。


「はあ……焚き火やっぱりいいね……」


「うむ、そうだな……」


 焚き火にうっとりとしているルクスとカグラを横目に、ルミネルに尋ねた。


「……で、そこの子とはどんな関係なんだ?」


「私の親友です! 名前は――」


「メイラよ! よろしくね!」


「ああ、よろしく。俺はタイガ……そんで、レイに、ルクスに、カグラだ。」


「それにしても驚いたなあ……ルミネルがこんなキャラになってるだなんて! 村のみんなからは"不器用"だとか言われてたけど……今はそんなことはなさそうだね。」


「不器用……?」


 不器用――その言葉に思わず聞き返す。


「ルミネルはこのパーティー内なら家事が一番できるぞ?」


「カグラさんが言うような意味じゃなくて、魔法の……あれ? もしかして――知らなかった?」


「ああ、ルミネルがラディアント・バーストしか使えない……ってのは知ってるけど――」


「いや、それは違くて――」


「ちょ、ちょっと、メイラ! ここで変なこと言うのは絶対にやめて!」


「変なことは……言わないよ――たぶん。」


 それを聞いて、ルミネルがため息をつく。


「――ところで、メイラは何しにこの街に来たんだ?」


「えっと……タ――」


「タイガだ。」


「タイガさん。私は冒険者として――ルミネルに会いに来たの! だって、二人の約束だもんね! ところで、ルミネル……まさか、タイガさんって彼氏じゃないよね?」


「……え?」


「ち、違います!」


「ふーん? ねえ、私もしばらく一緒に行動してもいい?」


「タイガ……いいですか?」


「ああ、ルミネルの親友なら構わないぞ。」


「やったー!」


「まったく……」


 焚き火の音に、ルミネルの小さなため息が混じった。夜風がふわりと流れ、火の粉が星みたいに散る。

 ……また、しばらく賑やかになりそうだな――。」

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