第3話 暴れたいお嬢様と宥める執事
舞は飛来する剣や魔法を避けたり、時折掴んで投げ返す。その動作は1つの舞いのように優雅で静謐であった。舞は余裕な表情を浮かべ、対照的に男たちの表情には焦りの色が見える。
「く、くそ!なんで当たらねえんだよ!」
「ひ、ひい!『小風弾』『小風弾』『小風弾』!全然当たらないよう!」
「ま、『魔弾』!く、くそ!ヒデ!守りを固めたほうがいいんじゃないか?近接に持ち込んで3人でボコボコにしよう!」
「あ、ああ!そうだな。そうしよう!ドックズーは準備しろ!俺たちが時間を稼ぐ!」
相手の手札は後1つだけか。焦ったのが敗因だな。
男たちは焦りからか全くもって周りの状況をつかめていない。月日が男たちの後ろに回って始末するのも余裕だろう。もちろん、舞に後で文句を言われるので絶対にしないが。
ただ、手出しをするなとは命令されたが、手助けまでするなとは命令されていない。月日は弾かれてそのままの剣を一本拾うと誰にも気づかれないように何か準備をしている男の元へと駆け出した。
ドックズーと呼ばれている男は杖を構え、何やら大層な呪文を唱えている。他2人は舞を抑え込むのに必死で気づいてはいないようだった。
「なっ……!?いつの間に!?」
首をはねられて初めてドックズーは少年が後ろにいたことへ気が付いた。致命傷を負ったドックズーは誰にも知られることはなくその場から消えていった。他の2人が消えていることに気が付いたのは長い時間返事がなくしびれを切らして怒鳴った後だった。
これ以上の介入は舞が絶対に許さないだろう。危険因子を取り除いた今、舞の勝利は絶対となり、この戦いが終わるのも時間の問題となった。
「……っく。仕方ない、逃げるぞ!」
「ひ、ヒデさん、待ってくださいよ!」
勝ち目がないと悟ったのか1人が舞に背を向けて走り去って、そのすぐ後をもう1人が追いかけていった。あまりにいきなりの行動に舞はあっけにとられることとなった。
「に、逃げるなんて卑怯ですわよ!」
不完全燃焼に終わった舞はそのまま月日の元へと駆け寄った。当然、恨みのこもった眼差しを月日に向けながら。
「私は邪魔をしないでと伝えたはずですわ!」
「お嬢様に何かがあっては私が耐えられませんので。」
舞は何かを言いたげに口を開けたが、すぐに口を閉ざすと、じっと月日を見つめた。その瞳にはまだ怒りの色が残っていたが、舞自身のためを思っての行動だと理解できるからこそ別の感情も宿らせていた。月日が本心からそう思ってくれているからこそ、舞のその思いは強まっている。
「今回は許します。ですがこのようなことはないように。分かりましたか、執事?」
「はい、承知しました。お嬢様。」
「よし、ではこの先に進みましょうか!雰囲気ががらりと変わっていらっしゃいますし、もしかしたら新しい敵とも会えるかもれないですわね!」
機嫌が直ったのか、舞は月日の腕をつかんで森のさらに奥へ進もうとした。
「たしかに私もこの先に進むことには賛成なのですが、お昼時ですし、長時間のゲームは体の負担になります。一度ゲームから離れてお昼ご飯にしましょう。」
月日の言葉に、舞はまた少し不満げに唇を尖らせた。
「まだそこまで時間が経ったはしないのだけれど仕方ないわね。またあとで遊びましょう。」
*****
月日がヘッドギアを外して乱れた髪を直していると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」と月日が声をかけると、「失礼いたします。」と穏やかな声が聞こえ、扉がゆっくりと開いた。そこには、月日の実質的な上司にあたる使用人長、四季真宵が立っていた。
「真宵さん。どうかなさいましたか?」
月日の問いに、真宵は申し訳なさそうな表情で答える。
「お暇中にごめんなさいね。たった今龍臣様がこちらに来られると連絡が入りまして、舞お嬢様と月日くんにもお伝えをしようと思ったの。」
「そうだったんですね。でしたら舞お嬢様の着付け等は私が行いますので、真宵さんはお食事のご用意に集中なさってください。」
「お嬢様とお楽しみのところ本当にごめんなさいね。」
真宵の顔には、申し訳なさそうな表情が浮かんでいたが月日がそう提案すると、真宵はふっと表情を和らげた。
真宵が去った後、月日はすぐに自身の身支度を整え、舞の部屋の前へとやってきた。コンコンと扉をノックすると、室内からバタバタと慌ただしい音が聞こえてきたかと思うと、勢いよく扉が開かれた。舞はノックの相手が月日だとわかると否や少し乱れた髪を気にしだした。
「ど、どどど、どうしたのかしら?」
「たった今龍臣様がこちらへお伺いするという連絡を受けましたのでお嬢様の着付けに参りました。」
「なるほどね。分かったわ。」
月日は手招きをされるがまま、そのまま舞の部屋へ入った。
「全く、お父様も忙しいのだからわざわざ会いに来なくてもよろしいのに。いつまでも子ども扱いしないでもらいたいわね。」
不満を漏らしながらも舞はドレッサーの前へ座る。続けて月日は舞の後ろへ回って髪の手入れから始めた。
「龍臣様はお嬢様方のことを大変大切になさっておりますから。それにお嬢様は立派な淑女ですよ。」
月日の言葉に、途端に上機嫌へと変わる舞。それから月日と舞は他愛ない話をしながら髪を整えたり、ドレスを選んだりしていった。そんなこんなで30分が経過したころ、再び扉をノックする音が聞こえた。
「失礼いたします。そろそろ龍臣様が……あら、もうお支度が整ってらっしゃる。さすがは月日くん、私たちの中でも、ここまでお嬢様を美しく仕上げることはできませんよ。きっと龍臣様も大変お喜びになることでしょうね。それでは、また龍臣様がお見えになられましたら改めてお伺いいたしますわ。」
食事の準備が終わってこちらの様子を見に来てくれた真宵は上機嫌に去っていった。舞も盛大にほめられたからか喜んでいる反面、少しだけ恥ずかしいようだった。
「ねえ月日。私綺麗?」
舞は少し照れた様子で月日の方へ振り向いた。
「はい、綺麗ですよお嬢様。」
「ふふ、ありがとう。よし、それじゃあ行くわよ月日。今日は私の横にずっといなさい。」
「もちろんですよ、お嬢様。」
僕がお嬢様だったら違和感のないお嬢様になってるんだろうなと思いました。
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