第2話 殴るお嬢様と放つ執事
不定期とは言ったものの1話の公開から1ヶ月近く期間をあけるバカはいったいどこのどいつでしょうかね。
「やっぱり、この瞬間は何度味わっても素晴らしいものね。」
「そうですね、いまだに慣れない部分もありますけれど。ところでどちらに向かわれているんですか?」
「もちろんこの森の奥よ。皆と同じ始まり方なんて天王寺家の令嬢としてあり得ませんわ。」
月日と舞の二人は古びたお城が見える薄気味悪い森の近くにリスポーンした。これからお城の中に入ってチュートリアルだったり、武器を手に入れたりしてこのゲームを攻略していくと思ったのだが、そんな平々凡々な道はお嬢様にとって退屈以外の何物でもないようだった。
月日はある程度予想していたのか、何のためらいもなく舞の後ろをついて歩く。むしろ「まずはお城の中に入って装備を整えましょう。」なんて言葉が舞の口から出ようものなら、それこそ月日は驚き舞の体調を心配するだろう。
「執事?」
「実際そうでしたよね?私は間違ったことを思ってないと思います。」
「物わかりのいい執事ね。」
「物わかりのいいお嬢様の執事なもので。」
「うふふ。」
「はは。お嬢様、あそこにモンスターがいますよ。たまたま力強く握っていた拳をぶつけてしまいましょう。」
「あなたのために握っておいたのだけれど、残念ね。仕方ないから私の初陣をその目に焼き付けておくといいわ。」
舞は序盤でよく見るゴブリンに向けて駆け寄ると顔面へストレートを与えた。
一撃で倒れなかったもののその後も何発か攻撃を続けているとゴブリンはやがて動かなくなり、そのまま塵となって消えていった。
「やっぱりレベルが低いから雑魚一匹倒すのにも苦労するわね。」
「口が悪くなっておりますよお嬢様。次はあちらの方に数匹見えますね。やっちゃってくださいお嬢様。」
「次はあなたの番でしょう。やっちゃいなさい執事。」
まあこうなるだろうなと薄々感じ取っていた月日は与えられた唯一の魔法である『魔弾』というスキルを試すことにした。
「1発。2発。3発。なるほど、攻撃力は先ほどのお嬢様と同じくらいですかね。真っすぐ撃てないのに加えて弾速が遅くて使いづらいの一言ではありますが多少なり制御できるのでまあ初期の魔法なら及第点といったところですかね。」
ある程度特性を理解した月日はそのまま魔法を打ち続けて20発程度撃ったところでゴブリン3体を倒すことに成功した。
「便利そうね魔法。」
「お嬢様も私と種族は同じですから使えると思いますよ。」
「あら、本当だわ。……えい。」
「おっと危ない。お嬢様、人に魔法をぶつけてはいけませんよ。」
「当たってないから大丈夫でしょう。それにしても使いずらいですわね。断然拳のほうが使いやすいわ。」
舞は魔法よりも近距離を好むようで今まで遊んだゲームでも大抵剣をもって遊びまわっていた。対照的に月日は遠距離を好むようで魔法や弓などをもって舞のアシストに回ることが多かった。
「あら、いつの間にか新しいスキルが手に入っているわね。『魔拳』って言うらしいわよ。」
「どうやらこのゲームは熟練度なるものが存在するタイプのゲームらしいですね。私の方は魔弾のレベルが上がっております。」
舞はあれ以来魔法を使っておらず拳を使い続けた結果、新しい『魔拳』というスキルを手に入れた。一方月日は、魔弾を使い続けたおかげかスキルレベルが3にまで上がっていた。お互いにレベルは3まで上がっており、今の2人ならゴブリン程度3~5発程度で倒せるようにまで成長していた。
森を進んで30分が経過したころ、2人は初めてのプレイヤーと遭遇することになった。
「初めましてこんにちは~。ここまでくるなんてすごいですね。もしかしてβプレイヤーだったりします?」
月日と舞は後ろから声をかけられ振り向くと、そこには3人のプレイヤーがこちらに向かって歩いているのが見えた。
「初めまして。いえ、私たちは今日初めてこの世界に来ました。」
三人はそれぞれヒデ、ドックズー、ヒボッチと名乗った。話を聞く限りこの3人はβプレイヤーと呼ばれるこのゲームが正式に発売される前に行われたテストプレイへ参加したプレイヤーとのことだ。
その3人はこの世界やおすすめの狩場だったり他の種族について調べているようで、ここであったとかなんとかいろいろと教えてくれた。
舞はその間一度もしゃべることなく月日の後ろに隠れていた。
「それにしてもこんな短時間でなんて凄いですね。職業とかっても聞いてもよろしいですかね?」
「職……業?」
ここにきて2人にとって初めての単語が出てきた。月日おろか、舞もそんなシステムのことは把握していないため二人は困惑の色で顔を合わせることしかできなかった。
「すいません。僕たちチュートリアルをスルーしてここまで来てしまったので、おそらくまだ無職になりますね。」
「そ、それはなかなかハードな選択をしていますね。もしよろしければこの先から一緒に行動しませんか?」
3人は少し困惑した様子を顔を合わせたが、すぐに笑顔に戻った。しかし、月日は一瞬だけ不敵な笑みを浮かべたその顔を逃さなかった。
舞が月日の袖をつかんで3回引っ張った。
「いえ、申し訳ないのですが私たちは2人で行動すると決めておりますので。彼女もこの通り恥ずかしがっておりますのでまた今度ということで。」
月日はヒデたちの行動をやんわりと断りその場から去ろうとする。月日が背を向けた瞬間、2人が感じ取っていた嫌な予感が見事命中した。
「お嬢様!」
「『魔剣投擲』!そのまま俺たちの糧になりやがれ!」
3人のうち1人が舞に向けてスキルを放った。月日たちの知らないスキル、これが職業の恩恵かと認識しながらも月日は特にアクションを起こすことなく冷静に相手を分析する。
「えい。」
舞が袖をつかんで3回引っ張っる合図。これは要約すると「私の獲物だ。邪魔するな。」ということだ。
舞は自身に飛んでくる剣に物怖じすることなく直接つかんだ。
「……お嬢様、ほどほどにしてくださいよ。」
「大丈夫よ。私たち魔族に同族殺しのペナルティは発生しないから。覚悟する事ね。ここからは私が相手をしてあげますわ!」
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