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犯人捜し

 一日の授業が終わった後、帰り支度をしていると、高山愛良が話しかけてきた。

「ちょっと、話したいことがあるんだけど、時間ある?」

 悠真は意外に思って驚きつつ、頷いた。高山が手で廊下に出るように促すので、それに従う。

教室のあちらこちらから、好奇心に満ちた目線と女子達のヒソヒソ声が聞こえて、悠真は小さい背をさらに小さくするようにして歩いた。

廊下を出て、人気が少ない視聴覚室前まで来ると、高山は「今朝の件なんだけど」と切り出した。

「佐藤が『オレが書いたんじゃない』って、言っていたじゃない? あれは、本当?」


変な質問をするな…。 と、悠真は思った。

だって、高山は確か、自分があの文章を書いたと言っていなかったか?

 悠真が驚いた顔をして、何を言おうか考えていると、高山が慌てて、「実は、私も『ピチピチのギャル』が撃たれるシーンは書いていない。」と、きっぱりと言った。

「え?そうなの?」

てっきり、高山が書いてくれたものだと信じていた。文武両道でまじめな高山は、リレー小説の行く末が、男子達が喜ぶだけのエロストーリーに成り下がることを嫌って、ふしだらなピチピチのギャルをいかにも成敗してくれそうな性格なのだ。

高山は、腕組みをしながら「女子の私が書いたことにしておいた方が良いかと思って、嘘をついた。」と、言った。

そうか、オレがからかわれているのを見かねたんだ…。

高山は、悠真がいじめられて困っていると思ったから、助けたのだ。いかにも、高山愛良らしい正義感に満ちた行動だった。

悠真は、お礼を言わなくちゃと思ったが、惨めな気持ちになるのを抑えきれず、言葉が出てこない。

高山は気にする様子もなく、「でもさ、もし佐藤も書いていないのだとしたら、誰があの文章を書いたのか、わからないってことだよね。」と続けた。

悠真は首を振りながら、「オレじゃない。オレは書いてない。」と、慌てて言った。

「そうなんだ…。」と、高山は考え込むようなしぐさをした後、急にニヤっと笑った。

「ねえ、気にならない? 誰が書いたのか。」高山は悠真の顔を覗き込むように言う。

 高山はクラスの女子の中で一番背が高い。175センチある。25センチの身長差は、穏やかな会話をしていても、逆らえないような圧迫感を感じる。

あの文章は確かに悠真を助けてくれたけれど、悠真はそれほど関心を持てなかった。誰かが「リレー小説なんて、やめない?」と、言ってくれた方がよっぽど助かると思うのだ。

「誰が書いたのか、私達で調べてみない?」と、高山は好奇心に満ちた顔を輝かせる。

キャラクターを殺した犯人捜しか…。面倒臭いな…。と、内心で感じながらも、悠真は「あ、はい。」と、うなずいていた。

「手始めに、佐藤があの文章を書いたことで、助かる人から疑おうと思う。」と、高山は楽しそうに言う。

「助かる人…?」と、悠真が聞き返すと、高山は急に真面目な顔になった。

「うん。実はさ。男子達が『ピチピチのギャル』を中心に話を書き始めたころから、一部の女子達の間では反感が高まっていたんだ。」

「え?そうなの?」

 意外だった。女子も含めクラス中の皆がピチピチのギャルと男性キャラクターとのエロラブストーリーを期待しているかのように、悠真には見えていたからだ。

 高山は大きく頷くと、「だからさ、濃厚な大人のコミュニケーションに突入する前に、何とか話の方向性を変えたいと思っていた女子達は結構いっぱいいたと思う。」と、自信に満ちた声で言う。

 濃厚な大人のコミュニケーション…? いや…、エロいシーンって、言えよ!

 悠真は、高山の言葉の意味を脳内変換するのに、少し戸惑い、苛立った。

「そうなんだ…。知らなかった。」と、悠真が適当に答えると、「そうだよ!佐藤が書いた文章で、救われたと感じた女の子達がいるんだよ。」と興奮気味に高山は言い、慌てて「あ。佐藤はあの文章を書いていないんだったね…。」と付け加えた。

「でさ、具体的に誰が一番救われたかと言うと、多分、佐藤の次に日直になった、今日の日直当番だと、私は思うんだ!」

なるほど。

もし、仮に、…そんなことは絶対にできないので、無いのだが、でも、仮に、天野の書いた文章の後で、悠真が濃厚なラブシーンを書きだした場合、悠真の次の日直は、シーンの収拾をしないといけなくなる。悠真が昨日一日悩んだように、きっと大いに悩むことになるだろう。

「今日の日直は、確か、本田さんだよね。」と、悠真は言った。

高山は大きく頷く。

「彼女は図書委員だから、今の時間は、多分図書室に居ると思う。」

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