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カラアゲとベーグルのラブコメ

 女主人公は、カラアゲ・アゲハ、16歳。天真爛漫でドジっ子なクラスの人気者。男主人公は、ベーグル・ケン、16歳。英語が堪能なハーフの転校生だ。一応、オムライス・デミオ、25歳という、先生キャラまで作られた。穏やかで優しい、生徒に人気の数学講師。

 明らかに、女子の意見しか反映されていない設定だったが、そもそも1学期で日誌の創作小説に参加していたのは大半が女生徒達だったし、今学期のホームルームでも、この件に関して積極的に意見を言っていたのは一部の女子達だった。

 佐藤悠真はため息をついた。

 そもそも、作文や、創作文など、文章力を試されるような宿題は大嫌いだった。課題でもないのになぜ、こんな事で頭を悩ませなければならないのか…。日直にまつわる雑務は嫌いではないが、この学級創作小説が始まってからは、日直になるのが憂鬱で仕方がなかった。

 カラアゲとベーグルの学園ラブストーリーは、大人の余裕を見せつけるオムライスの魅力に時折ふらつきながらも、最初の2週間は順調だった。

 2週目からは、男子が日直になる日が続いた。そこから、物語はおかしな方向に進む。まず、「ピチピチのギャル」という謎の巨乳女子キャラが爆誕し、ベーグルとオムライスを誘惑し始めた。ピチピチのギャルは、ベーグルと濃厚なキスと手つなぎデートを楽しみ、今度はオムライスとディナーデートをすることになる。

 そして、悠真の前の日直である、天野あまのが、とんでもないシーンを残しやがったのだ。


"『オムライス・デミオさん。私、もうまてないの…。』

と、ピチピチのギャルは、ブラジャーをぬいで大きなおっぱいを、デミオの胸におしつけた。2人は服をぬぎながらベッドに入った。"


 書き順を無視した、天野の乱暴な筆跡は、読みづらい。

 今朝、天野がニヤニヤしながら悠真に日誌を手渡したことを思い出す。嫌だなあ…。あいつ、きっとオレが困っているのを楽しんでいるんだろうな…。

 悠真は天野が苦手だ。

 もともと、他人とのコミュニケーションが苦手で、ノリや会話のテンポに付いていけない事が多い悠真を、天野は一方的にからかうように話しかけて来る。しかも座席が悠真の真後ろなので、授業中にもちょっかいを出してくることもあり、結構ウザい。しかし、友達が少ない悠真にとっては、クラスで唯一会話らしい会話をする人間だ。天野にも話しかけられなくなったら、悠真は学校に居る時間は、言葉を発する機会をほぼ失うだろう。

 今日一日、日誌の創作欄に、何を書けばいいのかで頭がいっぱいになった。授業中も先生の声など耳に入らなかった。白紙で出したいけれど、ホームルームで、白紙での提出はNGとされていたし、前の文章と正誤性が取れないとダメだと決められている。

 ピチピチのギャルが物語に登場してから、クラスの男子達は、書かれた文章がエロいかエロくないかで、書いた本人達を値踏みするようになった。

 「あいつ、やるな~。これ、実体験じゃね?」とか、「いいじゃん、将来AV監督になれよ!」「もっと、興奮する文章書けよ。」とか言って、教室内でゲラゲラ笑う。エロいシーンを書くことを回避した男子に対しては「あいつは童貞確定だな。」と、馬鹿にしていた。

 女子達も、「やば!これ、妄想全開じゃん。キモッ!」と、言いつつも、物語の続きが気になるようで、誰も止めようとしない。むしろ、誰よりも早く物語の続きを読もうと、朝早くに登校して来る生徒は女子の方が多いくらいだ。ピチピチのギャルは、ベーグルとオムライスの両方を順調に食い物にしつつあった。女主人公だったはずの天真爛漫なカラアゲ・アゲハは、すでに物語から存在を消していた。  どうしよう…。ベッドシーンなんて、書ける気がしない。きっと、何を書いたって、他のクラスメイト達から、からかわれるに決まっている…。


  悠真は重い足取りで教室に向かう。先ほど、7時間目の地理講師を手伝って、資料本を職員室に運びに行った。あとは、日誌を書いて担任に渡せば、悠真の仕事は終わりだ。既に午後4時になり、教室には誰も残っていなかった。悠真の机には大きなバインダーに綴じられた日誌が置かれている。

  ため息を付きながら、ページをめくり、自分が今日担当している日誌を、見た。

  天からの助けだ! と、悠真は思った。


”バキューン!

ガッシャ―ンッ!

ガラスが割れる音と共に、一発の銃声が鳴り響き、ピチピチのギャルは、その場に倒れた。

胸からは、血が噴き出し、彼女は息を引き取った。"


 誰だろう…。

誰かが、悠真の代わりに日誌のリレー小説欄に物語の続きを書いてくれている。しかも、悠真の癖のある丸っこい文字にわざと似せて書かれている。悠真の手書き文字は、よく男子から「女子みたいな字」と、からかわれている。

 助かった!! もう、これで提出しよう!

 悠真は、日誌のバインダーを胸に抱えて、職員室へと向かった。

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