名前
「そういえば、名前。分からないのよね?それまでにどこに居たかっていうのは覚えているのかしら?」
僕の体を優しく洗ってくれるメイアは問いかけてきた
「い、え・・・記憶もなく、て」
なかなか発声ができない
無理に声を出そうとすると喉が焼けるように熱く感じる
「記憶もないのね・・・そりゃそうよね。名前も分からないのだから、確か声も・・・」
頷きながらメイアを見つめる
今までどこにいたのかも、なぜ自分は傷だらけなのかも、声がなぜ出せないのかも
すべてがわからない
覚えていないのだ
なのに、不思議とショックや不安はない
「貴女、何も覚えていないのよね。今までどこにいたのかも・・・もしよ
かったらだけど私が貴女の名前をつけてもいいかしら?思い出すまでの間でいいわ、名前が無いと不便でしょう?」
確かに名前が無いと不便だ。
お願いしますと言わんばかりに首を縦に振り頷いた
「良かったわ。私ね子供がいなくて・・・名前、決めてみたかったのよね!多分なんだけど貴女、見た感じは多分・・・12・・歳くらいかしら?自分が何歳かも覚えてないわよね」
年齢までもわからないなんて自分は一体何なのだろう?
すべてにおいてまっさらの状態だ
「そうね・・・名前・・・。リア・・・リアはどうかしら??私の名前とアロイスの名前から取ったのだけど。私アロイスのことをたまにだけどアリィって愛称で呼んだりするのよね。だからアリィとメイアから取ってリアって名前にしたのだけど気に入るかしら?」
リア・・・すごく良い
僕の名前は今日から【リア】だ
僕は嬉しそうにそれがいい言う意味で頷いた
「気に入ってくれてよかったわ!リア、貴女がこれから記憶を取り戻すまで私たちが面倒をみるわ。さっきも言った通り子供がいないのよ、一人増えたところで問題はないし貴女が嫌じゃなければ私たちの子供として暮らさないかしら?」
いいのだろうか?
この人たちの子供として居ても・・・
もしいいのなら僕はこの人たちの子供になりたい
「心配しないで、そんな不安な顔をしなくていいわ。アロイスも子供をほしがっていたもの、きっとリアを受け入れてくれるわ」
メイア・・・いや、お母さんとでも呼んでいいのだろうか
こんな優しい人の子供になれたのならきっと幸せだろう
「お、かあさ、ん・・・?」
そう呟くとメイアは嬉しそうに僕を抱きしめた
「そうよ、これからリアは私の子供。貴女の母親よ」
ああ・・・暖かい
心がぽかぽかするようだ
痛覚はないけど、暖かさを感じる心はあってよかった