月夜亭
路地裏から出て歩く、こちらの気を遣ってなのか人通りのある道へ出ないように進んでいることはわかった。
しばらくすると「月夜亭」と書かれた看板が見えてきた
ここがメイアがオーナーをしている月夜亭というお店なんだろう
食堂・・・?なのかいい匂いがする
その匂いでお腹の音が鳴りそうだ
「ここが月夜亭、アナタが思っているように下町食堂・・・みたいな感じね。旦那と二人でやってるのよ、さっきは買い出しをした帰りにあなたを見つけた感じね」
そう言ってメイアは月夜亭の中に入っていく。
同じように後ろをついて入っていくと終わり際だったのかガタイのよさそうな男性が片付けの準備をしていた。
「ただいま、今戻ったわ。片付けのお手伝いできなくてごめんなさいね」
「おかえりメイア、大丈夫だよ。今日はそんなに客も来てなかったし・・・てかその後ろにいる女の子は誰だい?結構酷い傷なようだが・・・」
僕を見つけた男性がメイアに問いかける
傷だらけ、そして身に纏っている衣服はボロボロで血で赤く滲んでいる素性の分からない者
不審がるのは仕方ないだろう
「さっき路地裏を通って帰ってくる途中で見つけたのよ、傷だらけだし心配でね。部屋で手当てするからお店の片付けはお願いしていいかしら?」
買ってきたであろう荷物をテーブルの上に置き男性に声を掛ける。
「そんな子猫を拾ってきちゃったみたいな・・・まぁメイアらしいが。もちろん良いさ、えっと・・・君名前はなんて言うんだい?俺はアロイス、君を連れてきた女性・・・メイアの夫でこの月夜亭の副オーナー。そして厨房担当だな」
メイアが言っていた旦那とはこの人だったようだ
ただ困ったことがある
そう、名前だ。
記憶がない僕にとって一番の問題は自分の名前が分からないことだ
「な、まえ・・・わからな、い、ボク、じぶ、んわか、らない」
掠れた声で伝える
下手に素性を作って言うより正直に答えた方が賢明だろう
この夫婦なら大丈夫だと思う・・・きっと