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痛そうな表現あり、尖ったもの苦手な方ご注意ください。

「おや、この子はうちのコだけど? なにか勘違いしてない?」

 しれっとクリスが言う。

 ファングも、うんうんうんうん! と頷く。


 女を見て驚き怯えた様子だったミアは、涙目でファングにすがりついた。


「あらまあ、随分と甘やかされちゃって。わがままは良くないわよ。お仕置きが必要かしらね」


 女のその言葉に、ミアが青ざめてビクッとする。


「うっわ、おばさん、子どもを虐待する人なんだ、最悪じゃん」

 煽りながら、クリスは何かのときにミアを巻き込まないよう、さり気なくファングから離れ、前に出る。


「おばさんって呼ぶんじゃないわ! スカーレット様とお呼びなさい」


「名乗ってくれるんだ……自己顕示欲強いな……」

 クリスがボソリと言う。


「呼びにくいかと思って名前を教えてあげたのに!」


「おお、優しいな!」

 今度はファングが明るく言う。


「俺は名乗らないけどな! すまんな、どんな能力持ちが居るかわからないからな!」

 悪意ないファングの言葉に、スカーレットはカッと頬を赤くする。


「なによ! 私だって本名じゃないわよ! コードネームよ!!」


「お嬢様、コードネームであることを明かしても何らかの能力のターゲットにされる可能性があります。情報を何も出さないようお気をつけください」


 後ろから黒いスーツの部下がそっと言う。スカーレットはさらに真っ赤になった。


「うるさいわね! わかってるわよ!」


「はい、失礼いたしました」


「ねえー、ふたりで遊んでるんなら、ボクたちもう帰って良い?」

 クリスが呆れて言った途端、スカーレットの髪飾りがチカッと光り、激しい爆音が轟く。


 クリスの周辺で何箇所も爆発が起こり、爆煙の向こうにクリスの姿が消えた。


「おい!!」

 ファングが驚いて叫ぶ。ミアは声も出ず、真っ青な顔でファングにしがみついたままブルブルと震えている。


「帰って良いわけないでしょう? 私の可愛い作品のその子を置いていきなさいよ、あんたも爆散させるわよ?」

 ファングに向き直って言うスカーレットは、次の瞬間驚いたように後ろに飛び退る。


「おや、意外と反射神経あるね。ひとつくらいは刺さると思ったのに」


 よく見ると、スカーレットが今までいた場所に、細い銀の針が何本も刺さっている。


 爆煙の中から、球状の銀の光に包まれたクリスが、瞳を銀色に輝かせながらゆったりと歩み出て来た。


「まあ、ひとつでも刺されば終わりなんだけどね。血液に回して全身内側からキンッキンに凍らせてあげるよ」


 爆風に煽られたか、フードが外れて青みがかった銀髪が露わになっている。

 その髪と目の光を見て、黒服が目を見開く。


「ゆ……、雪女……!?」

「雪女!? あれが? 本物の??」

 黒服の言葉に、スカーレットが驚いてクリスを見つめる。


 見れば、腰に巻いていた銀のスカートが無い。

 クリスが軽く指をふると、球状の銀の光も、地面に刺さった針も、光の粒子のようになってその指先にシュッと収束した。

 そして、ふっとその手を下ろすと、その光はふわりと広がり、レース状になって再びクリスの腰に巻き付いた。


「ただいまご紹介に預かりました雪女でございます。なにかご覧になりたい芸はございますか?

 リクエストはございません?

 ではこんなのはいかがでしょう」


 クリスはふざけたように片手でスカートをつまんで広げてお辞儀をして見せたあと、スカーレットに向かって両手を広げる。

 とっさに黒服がスカーレットをかばうように前に出るが、クリスの攻撃はスカーレットに向かってではなかった。


 バキン!!


 鋭い音とともに、地表が一面凍りつく。


「んっ!!!」

 びくりと頭を押さえ、慌てて周囲を見渡すスカーレットに、クリスは光る目を向けて言う。


「見える範囲にいる爆発する機械は壊したよ。特異能力じゃなかったね、機械の虫を操作してたんだ」


「虫なんかいたか!?」

 ファングが驚いた声をあげる。


「お前にもわかんないくらいだったか」

 クリスは笑う。


「まあ、小さい虫はそこら中にいくらでも居るからね、居すぎて逆に意識から外れるかもね。

 妙に組織立って移動してた虫がいたんだよ。

 ほとんど砂と区別つかなかったけど、風と反対方向に砂煙を立てたのは失敗だったね」

 と首を傾げる。


「機械を操るのは特異能力かな? それともコントローラーみたいなやつ持ってる? そこはわかんないな……」


 言いながら、クリスはチカチカと色を変えるスカーレットの髪飾りに向けた目を少し細めた。


 強く光っていた銀色の目は徐々にもとのように澄んだ青になり、穏やかな笑顔でクリスはにっこりと笑う。


「まだ手はある?」


「ふざけるんじゃないわ!」


 スカーレットと黒服の足もとが炸裂し、凍りついていた足を解放する。


「まだ持ってんだね爆発虫、でももうそろそろ打ち止めじゃない?」


「うるさいっ! 私はもっとできる! 雪女を捕まえて帰ったらお父様だって……!」


「いけません、雪女は伝説級の強さです、一旦帰って仕切り直しましょう!」


「そんなこと言って逃げられたらどうするの? 誰かに手柄を横取りされたら?」


「しかし、今雪女を捕まえられるだけの戦力はありませんよ」


「あるわ」

 スカーレットは据わった目でミアを見る。


「ミア、コーティングをつけなさい」


「こっ……、コーティング持ってないです」

 ファングの腕の中で、ミアがビクッと体を縮めて答える。


「肌身はなさず持ってなさいって言ったわよね! どこにやったの!」


「あの……、洗濯して……返ってきてなくて……」


「はあ?」


 キツい声のトーンにミアは再びビクッと身を震わせ、ファングにしがみつく。ファングは庇うようにミアを抱きしめた。


「ああ! コーティングってこれ?」

 そこに、クリスが自分の黒いマントの裏から白いマントを取り出して見せる。


「なんか物騒な気配がしたから没収してたんだよね」

 そしてスカーレットを睨む。


「なんでこの布から、雪女の気配がするの?」


「雪女の気配? 知らないわ! それはミアのコーティングよ!」


「ふうん?」

 ふわりとその白い布を風に広げ、クリスはそのひとつの端を指先で摘んで投げ上げる。


 クリスの触れた一端から、パキパキと音を立てて、布全体に青い氷が一気に広がったと見る間に、凍った端から布は白い粉になり、あっという間に風に散って見えなくなった。


「雪女の力に反応して粉に出来たけど、これ雪女の『着物』じゃない?」


「……っ、そう、なの?」

 スカーレットは自分を庇うように前に立つ黒服を見上げる。


「……………そうですね、詳しくは知りませんが、そのものではなく再現したものと聞いていましたが……」


「おばさんよりそっちの黒服さんのほうが詳しそうだね。ボク仲間の情報を探してるんだ、詳しくお話聞かせてもらっていい?」


 クリスは好戦的な表情でマントを脱ぎ捨て、黒服に向かって一歩踏み出した。ぶわり、とスカートが広がり、光の粒が舞い上がり始める。


「…………っ!」

 スカーレットはギリッと歯を食いしばる。


「私を無視するんじゃないわよ!」

 叫びながら胸元のネックレスを握りしめると、その手の中から大量の虫がミアに向かって飛び立った。


「うわっ!」

 とファングは飛び下がり、クリスも咄嗟に銀のスカートを光の粒にして飛ばし、ファングの前に幕を張った。

 が、次の瞬間、背後の地中から同じ虫が大量に飛び上がる。


 スカーレットが高笑いを響かせる。

「油断したわね! 潜ませてたのはボムだけじゃないのよ! 地中深くまでは氷も届いていなかったわね!」


「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 虫に集られてミアが悲鳴を上げる。

 虫は、ミアの柔らかい皮膚に刺さり、食い込んでいく。


「コーティングが無いから痛いわよ、覚悟なさい?」

 クスクスと笑いながらスカーレットは虫を操作する。


 刺さった虫は羽を開くようにミアの皮膚の上にひし形の白いプレートを広げ、隣の虫のプレートとつなげていく。


「くそっ……!」

 なんとか虫から逃げようと走りながら、ファングは虫を払い落とそうとする。


 バチン!!


 すごい力でミアが反り返り、ファングを弾き飛ばして地面に転がり落ちる。


「何やってんだ馬鹿力のくせに!」


「子どもをそんな力いっぱい掴むわけに行かないだろ!!」


 慌てて助け起こそうとするよりも前に、ミアは飛び起きてファングを振り払う。


「ミア……?」


 見れば、光沢のあるひし形のプレートが、鱗のように少女の全身を覆っていく。


「私の可愛い人魚姫、私のために雪女ちゃんを捕まえてね」


 スカーレットが片手を頬に当てて小首を傾げ、にっこりと笑った。 

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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