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第八話

カルセドニー王国、王城の庭園。今日はいつもより随分と慌ただしく使用人たちが動いている。

「こちらのテーブルはどこに配置しますか?」

「そうね…そのバラが綺麗に咲いているから、それが見えるところにお願い」

テーブルの上にはカラフルなスイーツが並べられ、セッティングは進んでいく。


「リオーナ様、そろそろお支度の時間になります」

「あら、もうそんな時間?みんな、あとの準備は頼んだわね」

「「「はいっ!」」」


自室に戻り、普段着から茶会用のドレスに着替える。今日は庭園でのお茶会なので、明るい桃色のドレスが選ばれた。長い金髪は編み込んでアップスタイルにし、アクセントにローレンス様から頂いたバレッタをつける。その色はもちろん、淡い海の色だ。


「参加者も続々と集まっているとのことでした。サージェント侯爵令嬢様も先ほど到着されたと知らせが届きました」

「わかったわ、ありがとう。急ぎましょうか」

春の柔らかい日差しとは言え、何もせずに日のもとでお待たせするのは忍びない。私は姿見の前でくるっと回り、おかしいところがないか確認してから部屋を出た。



「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。短い時間ですが、皆様の交流が深まる機会となれば幸いです。それではどうぞ、ご歓談くださいませ」

ふわっと軽い礼をして、自分も席につく。5つのテーブルに、6脚のイス。席順は家格に従っている。私と同じテーブルには、アンゼリカ・サージェント侯爵令嬢の他に3人の侯爵令嬢と1人の伯爵令嬢が着席している。


テーブルの上に並べられた軽食から甘いスイーツまで、全て話しながら楽しめるように一口サイズのものばかりにしてあり、飲み物は随時給仕係が気を配ってくれる手筈になっている。

「リオーナ様のお茶会に参加できてとても嬉しいですわ。なんとか予定を空けてよかったです」

「まぁ、アンゼリカ様、何か他にご用が?」

「大した用ではありませんし大丈夫ですよ。また後日に回しただけですから」

こちらを優先するのが当然です、とでも言いたげな顔で、アンゼリカ様、先日までサージェント様とお呼びしていた淑女が微笑んだ。


今回の参加者は、全員伯爵家以上の家格を持つ令嬢。私のお披露目会でご挨拶をした方ばかりに招待状を送った。どうしても用事があって行けないと返事を頂いた方が数人ばかりで、その他の方には喜んで参加させていただきます、という返事を頂いた。

まだまだカルセドニーでの地位を確立できていない私にとって、パーティーやお茶会の主催をして社交に勤しむということが何より大切な業務なのだ。


「先日はあまりゆっくりとお話しできなかったので、今日を楽しみにしてきましたの」

「私もです!友人には招待を受けたことを羨ましがられましたわ」

「今やリオーナ様は令嬢たちの憧れですからね」

エマも同じようなことを言っていた。お披露目会でローレンス様と踊ったダンスやご挨拶の際の立ち居振る舞いを見て、褒めてくださる方がたくさんいるのだとか。自分では技術の未熟さを感じていたのに、周りにそう褒めてもらえるとどうしても嬉しくなってしまう。練習にも精が出るというものだ。


カルセドニー王国で流行しているドレスやヘアスタイルの話、私とローレンス様の馴れ初めの話、その他社交界で話題を集めている噂話。令嬢が6人も集まれば、話が尽きることなどない。特に、恋愛が絡んだ話は大きな盛り上がりをみせた。


「私、リオーナ様の美しい所作に憧れて、淑女教育を受け直すことにいたしましたの。いかにリオーナ様の域まで達するのが難しいのかよく分かりましたわ」

「憧れる気持ちはよく分かりますけれど、並大抵の努力では到底届きませんね。溢れ出る気品というのですか?どうしたら身につけられるのでしょう…?」

うーん、と頭を悩ませるのが侯爵令嬢のフローラ様と伯爵令嬢のシャーロット様。明るくてはっきりとした物言いをするフローラ様に対し、シャーロット様は少々内気な性格の持ち主のようだ。


美しい所作、溢れ出る気品などと言われても、幼い頃から教育を受けてきた結果定着しているものなので、どうしたら身につけられるのかアドバイスのしようがない。強いていうのなら、継続して繰り返し練習するしかない、ということだろうか。

少し厳しいことかもしれないが、とこの事実を伝えると、そうですよね…とフローラ様が項垂(うなだ)れる。と言っても、彼女も立派な淑女なので、やる気のある今、一生懸命練習をすれば十分美しい所作を身につけられると思う。


「大丈夫ですわ、フローラ様もシャーロット様も、相手を敬う気持ち、という所作の基本的なところは完璧ですから。それができている人なら、練習すればすぐに上達しますよ」

「本当ですか!?俄然(がぜん)やる気が出てきましたわ!!」

「声が大きいわ、フローラ」

目を輝かせるフローラ様、テンションが上がった幼馴染を(たしな)めるシャーロット様。


「私もレッスンを受けようかしら…」

「ダンスをもっと磨きたいですわ。リオーナ様のように難しいステップにも対応できるようになりたいです」

侯爵令嬢のアンバー様とスピネル様はフローラ様とシャーロット様の様子を見て決意を新たにしていた。



日が傾き、お茶会は解散となった。私は主催者として全てのテーブルを回りお話ししたので、身体的な疲れよりも精神的な疲れが大きい。その分、たくさんの令嬢とお話しできたので、開催した甲斐があったというものだ。軽食とスイーツ、飲み物もこだわって準備したおかげで好評だったので、規模を問わず定期的に開催しようと心に決めた。


自室のソファに腰掛けてゆったりと過ごしていると、開かれた扉の奥からローレンス様が現れた。どこか嬉しげな空気を纏っている。

「今日は庭園でお茶会をしていたんだよね、お疲れ様。楽しく過ごせた?」

「はい、もちろんですわ。皆様、新参者の私にも優しく接してくださいますから」

「それはリオーナが皆に優しく接しているからでしょう。自分の思ったことをしっかりと主張できる凛々しい姿も、貴族令嬢とは思えない堂々として勇敢な姿も魅力的だけど、こうして柔らかく笑ってる姿が1番輝いていると思うな」


ローレンス様の直接的な褒め言葉に、不覚にも顔に熱が集まる。昼間のようにアンゼリカ様たちから褒めてもらった時とは違う、速くなった鼓動が伴う。

「…そんなに褒めても何も出ませんよ」

「対価はリオーナのその表情で十分だ」


長年の教育の賜物も、ローレンス様の前では輝きを失ってしまうのだった。



「そういえば、大切な話をしにきたんだったよ」

「なんでしょうか?」

「私たちの結婚式の日程が決まったよ」

あの、ルイード殿下との婚約破棄騒動から約半年、4ヶ月の婚約期間を経て私たちは夫婦となることとなった。婚約期間は決して長い方ではないが、ローレンス様の手腕によって国内外への周知を終え、貴族各位の納得をもぎ取ったそうだ。私としても、淑女教育、もとい花嫁修行は指導役の夫人と王妃殿下から合格を頂いたので問題ない。


それから結婚式までの1ヶ月、城中の人たちが私たちの結婚式に向けて慌ただしい日々を送ることとなった。もちろん、当事者であるローレンス様と私も。

そして、私は結婚式の参列者名簿を見ながら、はぁっと大きなため息を吐いたのだった。

登場人物まとめ



《主要キャラクター》


リオーナ・ヴィラッツェ

・ハイドランジア王国出身

・ルイード・ハイドランジア王太子の元婚約者

・ローレンス・カルセドニー王太子の婚約者


ローレンス・カルセドニー

・カルセドニー王国の王太子

・リオーナ・ヴィラッツェの婚約者



《その他》


ルイード・ハイドランジア

・リオーナ・ヴィラッツェの元婚約者

・男爵令嬢のマリアに心を移し、リオーナに捨てられた


エマ

・カルセドニー王国出身

・リオーナの専属侍女


アンゼリカ、フローラ、シャーロット、アンバー、スピネル

・リオーナに憧れるカルセドニー王国の令嬢たち

・密かにリオーナを悪く言う人たちを制する活動をしている

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