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完結記念SS①

結婚式の約半月後のお話です。

時刻はただいま午後9時。いつもなら8時ごろに仕事を終えたローレンス様がお戻りになるのに、今日は明らかに遅い。


「エマ、何か聞いていない?」

「いえ、私は何も。お忙しいのでしょうか…」

ローレンス様と結婚して王太子妃となった私の侍女頭として働いてくれているエマが知らないなら、何も連絡が来ていないということだ。


「私、確認してきますね」

「その必要はない」

「ローレンス様!」

ちょうどエマが開いた扉からローレンス様が現れた。いつもよりお疲れのご様子なものの、どこか達成感を露わにしている。

すべてを整えたエマが退室し、ローレンス様がソファに腰かける。


「今日はいつもより遅かったようですが、何か問題でもあったのですか?」

「いや、むしろ良い知らせだよ。ハイドランジア、カルセドニー間の平和条約締結が決まったんだ。もちろん、こちらの利になる内容でね」

あのパーティーでの一件から、2国間の関係は過去最悪とも言えるくらいの状態だったのだ。不敬罪を犯した罪人として囚われている王太子とその恋人の身柄をめぐって、両国は話し合いを繰り返してきた。結局、他国からの参列者の証言もあってハイドランジア側が非を認め、その責任を負うこととなった。


「穏便に済んでよかったですわ。自分のせいで起こったことですから、そのせいで犠牲となる人が出たら申し訳なくて夜も眠れなくなってしまいます」

「リオーナがそう言うと思って話し合いで決着をつけたんだ。結果としてよかったよ」

「ありがとうございます。2人の身柄はどうなるのですか?」

「ハイドランジアに戻されるよ。王太子と男爵令嬢という身分を剥奪されてね。反省の色でも見せればもう少し早く決着が着いたというのに」

つまり、ルイード殿下は王太子の座を第2王子殿下に譲り渡し、ロベリア男爵令嬢の家は取り潰しということだ。ルイード殿下に関してはまだしも、男爵家に対してはかなり寛容な措置だと言える。元とはいえ、公爵令嬢、そして今はカルセドニーの王太子妃に不敬をはたらいたのだから。


「それは無理でしょうね。あの場であのような発言が出来るような方々ですから」

「それもそうだね。ともかく、今後2度とあの2人が我々の前に現れることはないから安心して?」

「はい、ありがとうございます。もう気にしてませんわ」

頭にぽんっと置かれ、優しく撫でる手が心地よくて、無意識に口元が緩む。ローレンス様がそばに居てくださるなら、もう2人のことは気にならない。


「それは良かった。そうだ、とってもいいワインを手に入れたんだけど、一緒にどう?」

「いいですね!ぜひご一緒させてください」

世界で1番愛している人と過ごす夜はどんどん深けていく。

あぁ、これこそが平和で穏やかな生活。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(一方その後の社交界では/アンゼリカ視点)


「結婚式以降、妃殿下のお姿をお見かけしませんね…あのような事がありましたから、お気を落とされているのでしょうか」

「心配ですね。ですがそばにローレンス殿下がついておられるはずなので、きっと大丈夫ですわ」

「それもそうですね、お似合いのおふたりでしたし」


ローレンス王太子殿下とリオーナ様の結婚式が行われてから約1ヶ月。あれからリオーナ様は公の場に姿を見せていない。私やフローラ嬢たちは、個人的に王城のお茶会にお呼ばれしたが。

妃殿下と関わりのない令嬢たちからすると、あの一件を気にしていると思うのも当然だ。


「そういえばもうお聞きになりまして?結婚式の際に殿下が身につけておられたクラバットに妃殿下が刺繍を施しておられたそうですわ」

「あら、そうなんですの?ちなみに何の刺繍を?」

「妃殿下のお名前だそうですよ。素敵ですわね」

「なんてロマンチックなんでしょう!私も結婚するときには真似したいです」

「えぇ、本当に!」

妃殿下が施された刺繍の噂は、瞬く間に社交界の話題を掻っ攫っていった。ご本人が表に出てこられていないことが、よりその噂を加速させている。


「サージェント様、詳しいお話はご存知ですか?」

「えぇ、ご本人から少し伺いましたわ」

「それはその…お聞きしても?」

「もちろんですわ。妃殿下はご自分のイニシャルをクラバットの下の方に刺繍なさったそうです。金色の髪と薄い桃色の瞳にちなんで、金と桃の色の糸を使って」

私の周りで聞き耳を立てていた人たちがわっと沸く。


「もっと妃殿下のお話をお聞かせくださいませ!」

「私にお話できることなら」

妃殿下はまだご存知ではない。ご自分がいかに歓迎されてこの国に受け入れられたのか、貴族たちがお近づきになりたいと思っているのかを。

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