第4話 少年との戦い…と言うよりはチンピラ男の脅威?
かなり寒くなっています。かーたろう自身も少し風邪気味なので、更新が少し遅れるかもしれません。
あの阿保男のせいで戦闘体制を整えた少年と対峙する事になってしまった和範。
仕方ないので、先手必勝とばかりに足下の土を相手の顔めがけて蹴り飛ばす。こういった風に、相手に機先を制された形になった場合、後手に回っては、相手を勢いづかせるだけだ。そうなると、技量が此方が上なら何とかなるだろうが、相手が上なら後は手数と技量によって押し込まれるだろう。
そのような事態を回避するには、とにかく攻めて、機先を制された事態の打開を図る。これまでの少ないとはいえ、何度もやった術や拳銃などを使う相手を敵とした、普通の学生がまず経験する事の無い、厄介事の経験を活かして活路を見出そうとする。
少年は、どうやら和範が、術で攻撃してくると思っていたようだ。
この、異能者(?)が使うとは思えない攻撃に一瞬反応が遅れた。
が、すぐに、半身になって身体の前に手をかざして、術で風を起こして、逆に此方に土を返してくる。
和範は内心で馬鹿めと嘲笑う。避けられるんなら避けりゃあいいものを下手に術に頼りすぎだ、と。
和範は手を目の前に翳す事によって少年の術で返された土が目に入るのを防ぎながら、少年に対して攻撃を仕掛けるべく、そのまま突進する。
少年は和範が避けるか、あるいは無詠唱の術でいきなり返された土が目に入り、悶え苦しむかを予想していたのだろう。和範が、返された土を、最小限の動作で防ぎながら、そのまま勢いを緩めずに、突進してきたのに驚いて、硬直している。
和範は戦いの最中に、そんな隙を見せている少年の事など当然気にしたりはしない。和範は少年の鳩尾を狙って自身の体重と突進する勢い、そして周囲から取り込んで、態と雑に精錬した気を乗せた右の正拳を繰り出す。
右拳は、狙いを外す事無く少年の鳩尾へと吸い込まれた。が、
ボフンッ!
と、なにやら布団でも思いっきり殴ったかのような気の抜けた音が辺りに響く。
んっ?
どうやら少し感触が変だと思ったら、打撃の当たる瞬間に後ろに飛んで衝撃を軽減していたらしい。
それを見て、和範は厄介だなと思う。
先程の阿保男との戦闘ではそれなりの回避能力を見せていたが、阿保男の攻撃は単純そのもので、はっきり言って少年の体術の練度を計れるような攻撃ではなかった。特に、短詠唱の術は冷静に対処すれば、些少の格闘技の経験があれば何とかなる程度だった。だからこそ、少年の体術の技量がどの程度なのかいまいち判別がつかなかったが、それなりの体術の技量があれば容易く避けられる長詠唱の術を、術で防いだ事からそれ程大した練度では無いとタカを括っていた。
だが、どうやら、それはとんでもない思い違いだったらしい。
術に頼りきった相手ではなく、ちゃんと体術の方も訓練しておりかなりの練度で使えるようだ。今までに、和範がやりあった事がある術者とは、明らかに戦闘の練度が違う。
今まで戦った術者は、全員が術が使える事に自惚れを持っており、術と言う攻撃手段が封じられると、途端にそこいらのチンピラと変わらない実力にまで、成り下がったものだ。
だが、少年は体術の方もきちんと修めている。明らかに、今までの術者(八重香が言う所の"術者崩れ")とは違う、きちんと戦闘訓練を積んだ正規の術者とでも言うべき相手だろう。などと、少年の厄介さに少し考えこんでいると、八重香が、ある提案をするために、和範に話し掛けてきた。
(おぬし、術は使わんのか?)
(ん~、術は使わない方がいいと思う)
(何故じゃ?)
(使えないと思わしといた方がいいと思って)
(ああ、こ奴の背後関係を警戒しとるのか。なら、どうせなら宿しとる妾の情報もそれとなくまぎらわしい内容を流したらどうじゃ?
ただ、嘘を言えば相手が此方の話を信じなくなるだけじゃ。だから、事実を幾らか削って誤解しやすい情報にして敢えて流して、相手に誤解させるのじゃ。
たとえば、詳しい正体は良く知らないけれど、見た目は動物のように見え、牙が生えてて噛まれたら痛そう。とか、抱き心地は良く、頭を撫でると尻尾を振って喜ぶとか、じゃな)
(ふふ、面白いな。
まあ、そんな言われ方したら、普通哺乳類型の獣、特に犬辺りを思い浮かべるよな。)
などと相談しつつ少年と向き合う。
少年は明らかに此方を警戒していた。
そこへ、横から炎が少年を襲う。どうやら、いきなり攻撃を仕掛けた俺に呆然としていた阿保男がようやく我に返って参戦してくれたらしい。
が、元々阿保男の術が少年に通じるはずも無く、案の定、少年の術に簡単に吹き散らされる。
その光景に歯噛みした阿保男が此方に話し掛けてくる。
「おいっ!
お前はどんな術を使うんだ!?」
…やっぱ阿保だこいつ。敵の前で大声で聞くか普通? 馬鹿じゃないのか?
まあいい、どうせまぎらわしい情報を流すんだから丁度いいか。
「僕は、術が得意じゃないんです。そんなに大した事は出来ないし、そもそもどれが得意な術か分らなくて…」
などと、いけしゃあしゃあと言う。
嘘は言ってない。
どれだけ出来れば得意といったり、大した事というのかの線引きなど人それぞれだ。
それに対して、阿保男はチッ!と舌打ちして此方に聞いてくる。
「最近契約したばかりの成り立てか……
じゃあ、どんな神を宿しているんだ? それだけでも分ればお前の得意な術も大体分る。」
…救いようが無いのでこれ以上言及しない。
だが、此方にとっては好機だ。
少年の方だと、話の持っていき方に不自然さがあれば疑われるが、この阿保男が聞いてきたという状況なら疑われまい。そう判断して和範は答える。
「自分の事は語ってくれないので詳しい正体は良く知らないけれど、見た目は動物のように見え、牙が生えてて噛まれたら痛そうです。
それと、抱き心地は良く、頭を撫でると尻尾を振って喜んでくれます。」
これも本当の事だ。
八重香は自身の正体に関する記憶を殆んど無くしているために、語りたくても語れない。八重香という名前すら和範が付けたものだ。
そして、事前の打ち合わせ通りの内容を語る。
それを聞いた阿保男は一人頷いて、和範に言う。
「お前の神は、犬系統じゃないかと思う。
それなら直接神で戦う方がいい。俺も神を出すからお前も神を出して戦え!」
「でも、僕は自分で神を出した事が無いんです!
いつも、神が自分から出ているので…その上、今は出てこないようだし」
それを聞いた阿保男は使えない奴といった顔をして、自身の神(?)とやらを出した。
そして言う。
「なら、後ろで、俺の援護でもしてろ!
いでよっ!サラマンダー!」
男が言うと、小さな人面の人魂のような物が出てくる。
そして、少年との戦闘が本格的に始まったのだった。
常に移動しながら阿保男と連携して戦闘を行う。
「おりゃあぁぁああ!! ソード・オブ・フレイム」
そんな事を叫びながら、阿保男は、馬鹿正直にまっすぐ少年に向って進むだけの幅20cm程の帯状の火を、少年に向って放つ。
当然、少年は容易く避けようとするが、逃げ道を塞ぐような場所に向って和範が、気を乗せた石礫を放つ。
「くっ! 風霊っ!」
少年は咄嗟に術でこれを防ぐ。
先程から、阿保男の攻撃に合わせて和範が別方向から少年の注意を引くだけの簡単な連携だ。
だが、意外と効果的だった。
単純な連携は、意外と破り難いものなのだ。単純であるがゆえに攻略方法も限られてくる。ならば後はその攻略方法をできる限り潰していけばいいだけだ。
だが、単純な連携で少しばかり体勢が崩れただけの少年の状態を見て必殺の隙が出来たとでも勘違いしたのか、阿保男は此方の思惑を超えた悪手を平気で打ってくる。
「我は汝の力を今こそ求めんとする。
熱きものよ、光なすものよ、燃え盛るものよ、今こそ我が願いを聞き届けよエレメントの1つたるイグニスの力よ。
今こそ敵を討たんが為に、炎の雨となり我が敵に降り注げ。フレイム・レイン!!」
そして、炎の雨が少年に向って降り注ぐ。
…効果範囲内に居る和範も巻き込む形で。
この暴挙ともいえる攻撃を術で防ぐ少年と、横っ飛びで地面を転がりながら何とか回避する和範。
阿保男は攻撃を防がれたのを見るや地団太を踏んでいる。
流石にこの暴挙にはカチンとくる和範。いずれ必ずそれ相応の目にあわせてやると誓いながら、連携による攻撃が続けられてゆくのだった。
連携により少しの時間は優位に戦えたが、やはり少年は強く、その連携にだんだん反撃が多く行われるようになってきた。
それを見てもうこれ以上は阿保は役に立たないと判断し、そして、先程から勝手に戦いまくっている上に何度か和範も巻き込む形で攻撃をしてくる意趣返しも兼ねて、和範は阿保男を囮にする事に決めた。
そして戦っているうちに遂にその時が来る。
少年と阿保男と和範が一直線に並んだのだ。少年は両方に攻撃できる好機と見て強力な術を使う為に術の祝詞を唱え始める。
「ひふみよいむなやこと。
神法を持ちて、土霊の気、風霊の気を足し土性の…」
だが、それを待っていたのは和範も同じ。
ドカァッ!
和範は、阿保男を少年に向って思い切り蹴り飛ばす。
少年は驚愕しているようだ。
当然だろう。味方の筈の阿保男を蹴り飛ばしたのだから。
くくく、あの阿保男と連携していたかいがあったぜ。あの連携が無ければ少年もここまで驚くまい。
そして、慌てていた為に吹っ飛んでくる阿保男に間近で術をぶつけてしまう。
「ど、土性の風とす、風槌!」
阿保男は綺麗に吹っ飛んだ。
少年もまた自身の術の余波を受けふらついている。
好機!
瞬間に判断を下し、少年に素早く詰め寄り左足を下ろす前に囮の右の拳撃を中心より少し右に叩き込む。少年は当然避けやすい左へと避けようとするが、そこへ和範の左足が少年の足の甲を踏みつける。痛みでさらに隙を作った少年の鳩尾に左の拳が突き刺さり、少年は意識を失ったのだった。
慎重に確認してみると、少年も阿保男も意識を完全に失っているようだ。
ようやく終った厄介事に和範は息をつく。そこに八重香の声が掛かる。丁度良いので和範もこいつらをどうしようかと、八重香に相談する事にして、会話を行う。
(和範よ、終ったようじゃし、もう帰るとするかの?)
(いや、こいつらの始末をしなきゃならんだろう?どうしようか?)
(そうじゃのう…いらん事に巻き込んでくれたし御仕置きでもしとくか?)
その八重香の答えに俺は少し考えて、こんなのどうだ?と八重香に問う。
(こいつら素っ裸にして抱き合わせてから放置して、警察に公園に変質者がいる!
とでも通報するか?)
(……おぬし鬼か?
…ああ、でも妾達の迷惑を考えればそれ位してもバチは当たらんかの?
ついでに財布でも没収するか?)
(ついでに落書きでもしようかな?)
などと、最初は和範を非難していたのに、最後は余計酷い内容に代える。だが、和範も八重香の案に賛成なので、早速行動に移す。
阿保男の方は財布やらを取り上げた後は、問題なく裸にした。
が、少年の方で大問題が発生した。上半身を脱がした時にはほんの少し違和感がした程度だったが、下半身を脱がして、身に纏う物1つ無い、素っ裸にした時に仰天した。
無かったからだ、股の間に何も!
つまりこの少年だと思っていた人物は、少年などではなく、実は少女だったのだ。
ああ、これか。上を脱がした時に僅かに感じた違和感の正体は。よくよく見れば、胸がほんの少しではあるが、確かに脹らんでいる。殆んど大平原だから気付けなかったのだ。
そんな事を考えているうちに、少女の年齢を考える。見た目から判断をするなら…
(正確な年齢はわからないけど、こいつ同じぐらいの年齢だよな?)
と、和範は八重香に何となく語りかけてみる。
それに対して、
(多分そのくらいの年齢じゃろ。
尤も、見た目は大人で実際は小学生、なんてのもいるから断言は出来んがのう。特に、女性は男性に比べて幼少期の発育がかなり早いから、もしかしたらこ奴も小学生やも知れぬぞ?)
と、八重香は前半は真面目に、だが、後半はまるで脅すかのように嫌な可能性を告げてくる。
(しょ、小学生って事は、流石に無いだろ。
うん、無い。無いはずだ。
お願いだから無かって下さいっ!!)
(…冗談じゃ…、そんなに心配せんでも、この小娘はお主と同じくらいの年齢じゃよ。)
(驚かさないでくれよ…。
もし小学生だとしたら、いくら知らなかったとは言え裸にひん剥くのは、どんなに好意的に考えたとしてもロリコンの変態だからな…安心したよ。
それにしても、俺と同じくらいの年齢か…)
和範と同じ位と言う事は、高校生か中学3年生だという事だ。
なのに胸が大平原か。
妹の紗耶ですら中学生だが一目で女と分る位には胸があるのに…それを考えて和範は少女に憐れみを覚える。
流石の和範も普通は敵とはいえ、女の子を裸に剥いたりはしなかっただろう。しかもひん剥いた男たる和範はその裸に興奮するでもなく逆に憐れんでいるだけ。尤も顔は、女としてもかなり綺麗な容姿だし、体もすらっとしたモデル体形。すべすべの肌で、女としてかなりの位置にいるだろう。ただ胸の無さがそれらを台無しにしていたが…せめて髪が長ければスレンダーな女の子で通っただろうに。髪が短く、大平原だったがゆえに和範に少年に間違われて、裸にひん剥かれたのだ。
少女に意識があれば自殺ものかも知れんな…
とにかく、流石に少女を全裸で放置するのは気が引ける。仕方ないので、少女の方はちゃんと服を着せておく。
八重香の方も、少女に対して憐憫の感情を向けている。同じ女(?)として同情しているのだろう。
とりあえず、落書きはしない事にしたが、警察の方には公園から少し離れた所にある公衆電話からちゃんと、全裸の男が奇声を上げながら、少年を追い掛け回していると、通報しておいた。
和範は、通報した後すぐに、自身の帰宅通路を逆のぼり、別の経路を使って公園のすぐ近くにあるコンビニへと入る。
そして、そのコンビニで自身が行った通報によって引き起こされるであろう成り行きを見守っていた。
この時には既に変装を解いており、髪も頬も元に戻し、伊達眼鏡も外してある。和範は、最初は犯人は犯行現場に戻ってくると言う現象を実践しなくてもいいんじゃないか? と思ったが、やはり、情報収集の必要性と天秤に掛けると、情報収集を優先せざるを得なかったのだ。
そして、少し経つと警察がサイレンを鳴らしてやってきた。
何事かと付近の住民が集まってくる。また、部活をやっている連中の帰宅時間とも重なった為、和範と同じ学校の連中やら、近くの高校、中学の連中やらも集まる。そして、公園にいる、素っ裸の男と、私服を来た少年のような少女を見て色々囁きあっている。
やれ、露出狂だとか、ホモの変態か?とか、男同士の駆け落ち?とか。
やはり、誰が見てもあの少女は少年にしか見えないのだなと安堵する。そんな事を噂し合っているうちに、男の方は警察に意識の無いまましょっ引かれていったのだが、あの少女は他の警官とは何か違う婦人警官に運ばれていった。そして、警察官達が周りの野次馬たる和範達に解散するように指図してきたので、仕方なく和範達も帰る事にしたのだった。
戦闘場面を書いたのですが、かなり難しく色々と妙なところがあると思います。誤字脱字などと共にご指摘いただけたら手直ししようと思いますのでお願いいたします。