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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第一章 出会い、そして羽ばたき
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第3話

評価ありがとうございます。これを糧にしてがんばろうと思います。

チンピラ男は、自分の術の直撃を受けた少年を見て、自身の勝利と少年の死を確信していた。

 が、爆炎によって出来上がっていた土煙が晴れた後に、体はおろか、服にすら焦げ痕1つ付いていない、術を喰らう前と全く変わらぬ姿をした少年が現れたのを見て、驚愕に目を見開く。

そして、少年を震える手で指さしながら、思わずと言った感じでうろたえ声を出してしまう。


「ば、馬鹿な…俺の詠唱魔術を、しかも必殺のコンボを直撃で喰らって、む、無傷だとぉ。

あ、ありえん。あってはならん事だぞぉぉぉぉぉおおおおっっ!!!

 く、くそガキっ!! てめえ、いったい何をしたっ!? 答えろっ!!」


と、後になるにつれて興奮していくチンピラ男。だが少年は、軽く苦笑するだけで、チンピラ男の問いには答えなかった。






和範と八重香は、あの少年が最初の炎弾の直撃を喰らう前に行った「風霊」と言う、あまりに短い詠唱の祝詞を唇の動きで察した。

 あまり複雑なものや早口、長い言葉になると分らないが、一言二言をゆっくり言うだけなら辛うじて読む事が出来る。つまりあの青年が長々と行った詠唱によって発現した術は、少年のたった四文字の詠唱による祝詞で発現した術で簡単に防がれてしまったわけだ。

 …まあ、当然の結果だと和範は思う。同じ事を思った八重香が和範に話しかけてくる。


(あの男、どうやら術の詠唱と言うものをまるで理解しとらんようじゃのう。

 あんな意味不明な、そこらの童が考えたような、あるいはゲームやアニメ、漫画の中から取ってきたかのような詠唱などしてもそれほどの威力や精度の上昇は望めまいに。

 まあ、本人との相性次第ではそれなりの上昇率になるかもしれんが、たとえどれ程相性が良くとも、れっきとした詠唱の術相手にはやはり劣るものになるじゃろうしのう…

 尤も、それでもたった一言の詠唱で防がれると言う事は、純粋な実力に段違いの差があるという事かのう?

 あの様子じゃと、そもそも、無詠唱のままでも十分に防げただろうしのう。)

(だよなあ。

 そもそもあんな日本語やら英語やらラテン語やらが入り乱れている詠唱なんぞ八重香が言うように、ほんと無意味だな。その上、詠唱自体の意味もさほど無いしなぁ…

 それに、せっかくの術を態々3つに別けて使う事自体、意味が無いだろうに…。

 ただでさえ低い術の威力を更に下げるような真似してどうするんだっ、て叫びたくなるよな。)

(おそらく、術というものの知識を、漫画やゲームの領域から得ているのであろう。あるいは、あの男自身の思い込みからか…

 どちらにせよ、あのチンピラでは相手にもなるまい。その上厄介な事に少年の方は、妾達に気付いておるようだしのう…)

(まあ、どうにかするしかないか…と、どうやら、あのチンピラ懲りずにまだ仕掛けるみたいだぞ。)


と、相談を打ち切って、懲りずに挑みかかるチンピラ男を、道化でも見るかのように眺める、和範と八重香だった。






少年は、その後のチンピラ男の問いかけにも答える事無く、挙句の果てには苦笑から失笑にまで笑いを変化させる。

 そのチンピラ男を挑発するかのような態度が、ただでさえ低いチンピラ男の自制心の限界を容易く突破させた。怒りで半ば我を見失ったようになり、チンピラ男は奇声を上げながら、新たな詠唱魔術(?)を、少年に向って繰り出す。


「てぇめぇぇぇえええっっ!!!

 くそがああぁぁあああっっっ!!!

 殺す、ぶぅううっ殺おおぉぉぉおすうぅぅうう!!

 ……………………イグニスよ、フレーマよ、ブレイズよ、インケンディウムよ。

来たれ、来たれ、来たれ、来たれ、我が元に。

汝らは燃え盛るものにして焼き尽くすもの、ゲヘナより来るインフェルノなり。

塵は塵に、灰は灰に、帰さんがために来たれ。

死すべき愚者に絶対の死を与えんがために来たれ、強大なる火の化身たる者達よ。

Vulcanよ、Phenexよ、aimよ、我は汝らに至上の命をここに下す。

汝らの力を持って、今こそここに、神に歯向かう愚か者に神罰を下せ。」


詠唱と共に、少年から5mほど離れた場所に、3つの巨大な炎の光球が出現する。そして、其々の炎の光球同士から他の光球へと火の線が延びてゆき、少年を中心に正三角形を描いてゆく。

 それで、用意が整ったのかチンピラ男が、叫び声を上げる。


「こんどこそ、くたばりゃああぁぁぁぁああっ!!!!

 トライ・ディヴァイン・デフケイションッ!!」


チンピラ男が技名を叫んだ直後、炎の光球から黄色い熱波が扇状に少年へと放たれる。熱波は、火の線に当たると跳ね返るらしく、最初に描いた火の線を出ずに、正三角形の黄色い三角柱が少年を中心に立ち上がる。先程使ったスパイラルなんちゃら~、とか言う術よりも高い高熱を出しているのだろう。

 術によって発生した炎の色が赤ではなく黄色いのがその証拠だ。

 また、先程みたいに3つに分割していても、それらを一気に投入しているので、その分威力も大きくなっているのだろう。それに、あまりに激しい怒りが、奇跡とも言うべき精神統一を可能にしたのか、術の制御力も確実に跳ね上がっている。和範が今まで見た術士の中では確かに上位に位置すると言って良いほどの術の威力と制御だ。

 だが和範は、少年が「水霊」と、祝詞を唱えて発動させた術の構成の精緻さを見て、この後の展開が分ってしまった。

 そう、チンピラ男の渾身の術を受けてなお、少年は無傷であったのだった。






己の渾身の術を受けてなお、無傷でその場に佇む少年がようやく自身を遥かに超える実力者なのだと悟ったチンピラ男。

 チンピラ男は、ただの術士風情が、しかもこんな10歳近くも下の少年がそれ程の実力を持つ事への理不尽さを嘆く。


「くっ!おのれ、ただの術者風情が、何でここまで強いんだ!?

俺の最強の炎術がこんなに簡単にかき消されるだと!?」

「ふっ、確かに私はただの術者だ。

が、これでも分家といえど名門桂家の術者なんでね。

あなたの如き神格者では無い異能者、しかも異能者の中でもたいした事の無いあなた程度ならば圧倒出来る程の実力があるんだよ?」

「俺は、神格者だっ!

 ふざけるなっ!」

「ふふふ、どうやら神格者の定義も知らない雑魚のようだね。

神格者とは中級以上の神と契約した者達の事だ。あんたが契約しているのは、どんなに贔屓目に見ても最下位の下級三位程度じゃないか。下級以下の神との契約者は異能者って呼ぶんだよ。」

「な、なんだとっ!? そんなの初耳だぞっ!」

「ああ、どうやら世情に疎いらしいね…

 最近の神格者はただの術者では勝てない者達を指し、ただの術者で勝てるような連中は新たに異能者という分類に振り分けられるんだよ。

 つまり、私に勝てないあなたは異能者ってわけ。」


などと、少年が圧倒的に優位みたいだ。

 いや、もはや勝負は既に決していると言っても良いだろう。そして、現在は戦闘をとめ、チンピラ男を嘲るのに意識を割いていて、此方から意識が逸れているようだ。戦闘中も此方の事を、考慮に入れて戦っていたようだから、多分無理だろうな、と思いつつも、どうやらあの少年には、仲間というものが、この場にいないようなので、もしかしたら上手くいくかもしれないと思い、この公園から離れる決意をする。

 そして、術を行使した人外の戦いを行っている二人からこそっと離れようとしたが、やはりそんな甘い考えが上手くいくはずも無く、優位に立っている少年に気付かれてしまう。


「おや?そこの人。

 確かこの辺には人払いの術が掛けてあるから一般人は入って来れない筈なんだけど?」


などと、話し掛けてきた。

関われば面倒な事になると直感したので、無理とは思ったが一応誤魔化そうとしてみる。


「いえいえ、ただの通りすがりです。映画撮影の邪魔はしませんので怒らないで下さい。」


と、目の前で炎やら風やらが不自然に上がったのを映画撮影と思っている人の振りをしてみる。

 が、案の定、


「いやいや、そうきたか。普通なら、もしかして一般人か? と、思うかもしれないけど人払いの術の影響下でここに居る事自体が怪しいんだよ?

 だから聞くけど貴方はもしかして術者かな?それともそこの雑魚と同じ異能者かな?」


などと、15歳ぐらいの少年に雑魚といわれたチンピラ男は少年を睨みつけるが、少年は意にも介さない。そして、此方に注視して、和範からの返答を待っているようだ。

 ちなみに、和範は八重香と心の中で今後の相談をしていた。


(どうしようかなー? この少年はどう見ても此方を疑う気満々だよな? どう切り抜けようか?)

(この小僧、質問の形はとっておるが此方がその異能者?という奴だと決めつけとる雰囲気があるのう。

どう言っても最終的には此方に襲い掛かってくるじゃろうな…

 いっそ、無視して逃げるか、先制攻撃したらどうじゃ?)

(じゃあ、先制攻撃しよう。

 でも、それは向こうも警戒してるだろうから、いきなり命乞いして虚をつきそのまま攻撃しよう)

(何と言うか…悪辣じゃのう。)

(勝てば官軍。いい言葉だよね?)


そんな感じで、相談を終え、口を開こうとしたが、先に少年に機先を制される。


「ねえ、もう相談は終った?

 貴方が何と答えるにせよ、これで異能者決定だね。」


どうやら、八重香と相談できる事も相手は知っていたらしく、相談に取った時間が相手を確信に至らせたらしい。

 が、和範達は既に相手にばれている事前提で相談しており、しかも騙し討ちを決定していたので、少しきょどりながら話し掛ける。


「い、いやあ、そのう…さ、流石は名門桂家の術者様ですねっ!

 はい、どう誤魔化そうか相談しておりましたが、今の発言で貴方様のような相手にはとても敵わないと思い知りました。どうか命ばかりは、お助けください。」


と、心にも無い事を媚びる演技をしながら相手に言う。

 相手は少しいぶかしんだが、異能者を既に圧倒している事実がある為に、考えを指摘された和範が命乞いに出たものと解釈したらしい。

 そして、和範に対して見下しの視線を向けつつ無防備に此方に向ってきた。後少しで隙が出来そうだったのだが、横にいたチンピラ男がいらん事を言う。


「気を付けろっ!

 そいつは降伏を受け入れるような奴じゃないぞっ!」


そのチンピラ男のいらぬ発言に対して、和範は心の中で激しい絶叫の声を上げた。

 阿保っー! もう少しで少年に隙が出来そうだったのになぜ相手に味方するような事を言うー!

 チンピラ男よ、お前も少年の敵ならこっちに味方しろよ! と、盛大に心の中で罵声を言う。

だが、そんな事を思っても状況が変わる事も無く、少年は再び戦闘体制に移行してこう宣言した。


「仕方ないな…できれば楽に気絶させてあげたかったけど、恨むんならそこの男を恨んでね?」


確かに、あのチンピラ男改め阿保男を恨むのは当然と思い、思わず頷いてしまった。

いろいろな単語が出てきましたが、詳しい説明は後の話で説明します。ちなみに作中で和範や八重香が術の講釈を少ししていますが、彼らもそれほど術に詳しいわけではありません。チンピラ男より少しマシ、程度の知識量です。ちなみにチンピラ男は完全な自己流です。

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