第40話
一応残虐表現注意
二人に離れまで案内されたので、早速仕事に取り掛かった林。金目の物の在処を聞いてそこに向おうとした。
そう、そこまでは何も問題は無かったように思われたのだ。
しかし、離れに入っていきなり"足ばらい"に引っ掛かったのを皮切りに、次々と離れに有る罠に引っ掛かった林。それを何とかくぐり抜けた後、出されたお茶はいっけん普通のお茶だったが飲んだ瞬間えも知れぬ吐き気がこみ上げてきて思いっきり吹く事になってしまった。
流石にそれにキレた林はせめてもの腹いせに二人を殴ろうとしたのだが、現実は、その後すぐに二人に取り押さえられて、縄でぐるぐる巻きになった。
そう術の支配下に置いていたと思われた二人は、実は術など最初から効いておらず、催眠下に置かれた振りをしていただけだった。
しかも、この二人は今まで林が会った事のある術者とは実力の次元が違った。その事は、先程少しだけ見せた桁外れの呪力から想像できる。
しかも今はまるで呪力を感じないので一般人とまったく見分けがつかない。この事は二人が呪力のみならずその制御技術の方も林の理解の及ばぬ領域に至っていると言う事だ。
何でこんな化け物が住んでいる家に手を出してしまったのか…。
訪問販売するに当って絶対に手を出してはいけないのが術者の家だ。ゆえに術者の家系は、事前に調べて対象から外していた。相馬家は、この神月市ではそれなりの名家ではあるが、特に術者の家系と言うわけでは無い。なのに現実は凄腕の術者が二人存在する。
無論、和範や真理子は高天原の神月支部に登録しているし、そもそも和範や真理子、春人で立ち上げた団体"霜霊水"はそれなりに有名なのだから、そこから情報が漏れるのでは無いか?という疑問もあるだろうが、真理子と春人は生家の住所のままになっているし(尤も、真理子はともかく春人は桂家の本家の人間なので"桂"の苗字は有名な為、苗字は母方の旧姓に変更している。また、真理子は天才児として桂家内部でこそ有名だったが、彼女の存在を疎ましく思う者達の横やりで以前から中級術者程度で登録されていた。)、和範に至っては書類上や対外的には"当麻一成"という偽名をでっち上げている。そして身元や住所なども調べられても大丈夫なように、色々と神月支部の幹部達や桂家(ちなみに、"当麻家"は九重家に好意的な桂家の分家の一つ。序列は十一位。)に裏で手を回してもらった。当然このような真似は和範が神格者であるからこそで来た力技だ。
まあ、このような背景もあって、相馬家はほんの一握りの者達以外には只の名家として通っているのだ。知らずに手を出しても仕方は無いだろう。
だが、知らなかったからと、それで悪事がチャラになる事は無い。
当然、林にも報いはもたらされる事になるのだった。
林の前にある、どう見てもこれから拷問をしますよ、と言わんばかりに積み上げられた器具の数々。
その中から木の板と石ころ、そして金槌を取り出して、和範は拷問の開始の宣言と共に、まず、形式として情報を吐く気があるかどうかを林に尋ねる。
「じゃあ、これから林氏の拷問を始めようと思いまーす。
パチパチパチ~。
とりあえず、形式として聞いておこうか。
林さん、君達の情報を吐く気はあるかい?
ちなみに、素直に情報を吐いた場合は、ちゃんと、貴方達の組織に『林さんから全ての情報を聞かせてもらった』、と伝えてあげるから、素直に吐いてくれても構わないよ~?」
と、普通の拷問前にする問いかけとしては有り得ない内容を軽く問い掛けてくる和範。
当然、林は絶叫する。
「いや! 普通は、組織とかには絶対に言わないから、安心して情報を吐け、って言うのがセオリーだろうがっ!?」
その絶叫に、冷たく答えたのは真理子だった。
「この術者の世界では、表と違い捕虜に発言権や人権などありません。
煩いから黙りなさい。」
尤も真理子が話した内容は、林の問いかけに対するものでなく、単なる注意だったが。
そして和範が話しを続ける。
「では~、林さんには交渉を蹴られたとして、これから拷問を始めま~す。」
林の意見など無視して拷問を始めようとする和範にまたしても林が噛み付く。
「だから聞けよっ!
おいっ!?
このクソガ『ボゴンッ!!』ぶへぇっ!!」
と、此方を完全に蔑ろにしている和範に、当然の文句を言っていた林だが、途中でその発言は強制的に止められた。
なんて事は無い。文句を言っている最中に真理子に頬を殴られたのだ。
威力はかなり手加減していたが、それでも林程度の実力ではかなりの痛撃だ。林が、殴られた痛みで蹲っているところに、再び真理子が冷たい声で話しかけてくる。
「林、煩いから黙りなさいと先程言ったはずです。
捕虜に過ぎない貴方は問われた事に対してのみ答えたら良いのです。
それを超えて此方に対して逆に問い掛けてくるなど無礼千万です。
同じような事をする度に殴る力を徐々に強くしていきますから、その事を肝に銘じておきなさい。
では相馬さん、特に問題も無くなったので、林の拷問を始める事にしましょう。」
と、強引に話しを進める真理子。
ちなみに、先程から真理子が和範の事を主様と呼ばないのは林がいるためだ。
その事が、真理子を不機嫌にさせて、林に対して手荒な対応を取らせる要因になってしまっているのは明らかだった。
そんな周りの反応にようやく口を閉じる林。
そして今、彼の中では裏切り者にされようが喋るべきか、黙秘するべきか迷っていた。喋れば間違いなく林が属する組織から制裁が行われる。そしてそれは十中八九が林の死を意味する。
ならば、黙秘するべきか?
それも判断がつかない。目の前の二人は間違いなく拷問するのを楽しみにしている。このまま拷問が始まれば嫌でも喋ってしまうような気がするのだ。
だが、やはり命には代えられないと考えた林は耐える事を選択してしまった。
「まずは、この木の板の上に突起がいっぱいついた石ころを置き、その上に対象の親指を乗せまーす。」
ニコニコ顔で説明どおりの手順を行う和範。そして、金槌を振り上げ…
「せーの!!」
掛け声と共に林の親指に向って勢い良く振り下ろす。
ドガッ!
ブチッ!
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
林は悲鳴を上げた。
当然だろう。金槌で叩かれ痛みはかなりのものになる上に、下にある石ころはギザギザなのだ。そのせいで、親指は切り傷でグチュグチュになっており、ドクドクと血が溢れ出している。
「ギ…が、あぁ……」
「おお~偉い偉い。よく失神せずに耐えられました。では、続きの人差し指にいこうか。」
と、ここで八重香から念話が入る。
(和範や、続きにいくのはいいが、畳に血をこぼすでないぞ?
こんな愚物の血が染み込んだら汚らわしいだけじゃからの。)
(そういやそうだね~。じゃあ、新聞紙でもひこうかな?)
(そうするがよかろう。)
相談を負えた後、すぐに新聞紙をひいて拷問を再開する。
「では」
ドカッ!
グチッ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
また金槌が振り下ろされ、今度は人差し指が使い物にならなくなる。
「喋る気はある?」
「………………」
林は痛みと出血で息も絶え絶えな感じであったが、どうやら喋る気は無さそうだ。
尤も和範は楽しげに、
「そうこなくっちゃ♪」
などと笑い顔で三度金槌を振り上げる。 ドガッ! グチッ!
「ぁ、ぁぁ……ぁ…」
次の犠牲は中指だったが、先の二つと違い、掠れた呻き声だけが上がる。どうやら痛みが酷くて、叫び声を上げる気力がなくなってきたようだ。
だが、そんな事に和範が頓着するはずも無く、今度は薬指に狙いを定めた時、
「ま、て…。待って、くれ……。 喋るから、待ってくれ…。」
どうやら、この辺が林の限界だったようだ。林は自分の知っている事を喋る事にした。
だが…
「ええ~。
もう白状しちゃうのかよ…。せっかく色々用意したのに…。」
と、和範が残念がると、真理子もまた残念そうに言葉をこぼす。
「確かに、こんなにヘタレだったとは…。
せめて此方の針ぐらいは使いたかったです…。」
そんな事を本気で話す二人に大いに恐怖を抱きながら林は涙ながらに自分の知っている事を白状する。
「お、俺が知っているのは、最近の一連の呪具を使った悪徳商法が『里原商事』って言う会社を隠れ蓑にした犯罪術者や犯罪者の集団によって成されている、って事ぐらいだ!
俺は下っ端だから、それ以上は詳しく知らねえっ!!」
「本当ですか?」
真理子が尋ね返すと林は間髪いれずに返答してくる。
「本当だっ!
本当に、俺はこれ以上は詳しく知らねえんだ!」
その林の様子を見て八重香が和範に念話で話しかけてくる。
(どうやら、嘘は言っておらんようじゃぞ。こやつは本当に只の下っ端じゃな。)
(じゃあ、これ以上はたいした情報は無いかな…?)
(そういう事になるのう…後は、こ奴のカバンの中にある呪具を調べるくらいかのう…)
(じゃ、拷問はこの辺にするか…とりあえず気絶させて転がしとくかな?)
(ああ、そうするのが良かろう。)
そして、和範は八重香と話して出した結論を早速実行する。
「そうかい、じゃあ、もう寝てていいよ。」
ドスッ!
その言葉と同時に鳩尾に拳打を入れ、林を気絶に追い込む。
その後、畳が血で汚れると嫌なので、術で治療だけして部屋の隅に林を転がしておくのだった。




