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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第二章
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第38話 チンピラの災難01

 ようやくできました。

 大変お待たせして申し訳ありません。

 その日の夕刻。

 林は術封じの術を打ち込まれた挙句、対象物を強化する術が込められた縄で、両手両足を縛られて相馬家の離れの一室に転がされていた。

 林の近くでは、彼をこの離れに案内した二人の男女が、鉈やら鋸やら小刀やらトンカチやら幾つかの石ころやら随分と長い針やらと、色々な物を用意してきている。しかも漏れ聞こえてくる二人の言葉には「…切り…」などやら、「…叩いて……」というもの、また「……に刺し…」というような嫌な想像を掻き立てるものや、果ては「…拷問は、……」などと、これから自身に対して行われるであろう事をあまりにも直接的に言い表す単語が聞こえてくる。

 これから先、自分に対して何が行われるのか嫌でも想像できてしまう林は、己の想像に身を震わせる。

 そして林は、自分が何故こんな事になってしまったのかを恐怖から逃れる為の、半ば現実逃避の為に思い出すのだった。






 敷地の外に居た時は、このような屋敷に対する先入観から、敷地の中を立派な日本庭園だと想像していた林。

 だが、立派な門をくぐり抜けた後、目の前に広がった田園風景にはかなり予想が外された形となった。

 しかし、敷地の中をこのような田園風景に整えている事に対して林は、金持ちの道楽ゆえの趣味だと解釈した。

 そして、術の支配下に置かれている(と、林自身は思い込んでいる。)二人に対して話しかけてくる。


「おい、テメエ等。こんな風に敷地ん中を整えたのも、やっぱテメエ等の趣味か?」


 話し掛けられた言葉は、敷地外で話した言葉遣いとは比べ物にならないほど横柄な言葉遣いであった。 おそらく、敷地外での話し方は演技で、実際は此方が本来の林の言葉遣いなのだろう。

 スーツを着て髪も整え、真面目さを強調するかのように品の良い眼鏡も掛けられているが、今の林の雰囲気はやさぐれた雰囲気といい柄の悪い言葉遣いといい、どれ程好意的に解釈したところで三流チンピラ、悪く言えば社会のゴミくずだろう。

 普段はこのような言葉遣いをしない林だが、術の影響でどうせ後で記憶を無くす事を知っているので本性を露にしているのだ。

 そして、少しして、返答が返ってくる。


「はい…。皆、この、風景を好ましく思っていま、す……。」


それに対して痰を吐きながらやっかみ混じりの独り言を呟く。


「カァーーー、ペッ。

 …畜生、ブルジョワめ………。

 でかい屋敷だけじゃ飽き足らず、こんな田園風景まで敷地内に再現するだと?

 こいつを整えるのに、いったいいくら金をつぎ込んでやがるんだよ……。

 テメエラのくだらねえ贅沢なんぞに金をつぎ込むぐれぇなら、俺のような真っ当な一般市民に少しは恩恵をよこせってんだ。」


と、林はどこまでも自分勝手で独り善がりな戯言を吐き続ける。

 尤も、端から見れば単なる戯言でも、林自身にとって見ればそれはまさしくこの世の真理であった。

 ゆえに、林は彼にとっての真理に基づき、これからの行動を呟き続ける。


「まあ、ええわ。

 どうせこの家からも取れるだけ搾り取って、はい、オサラバするんだしな。

 けけけ、気が付いた時には家で保管しているもんが全て無くなっているのに気付いた時、このブルジョワ共どんな顔するんだろうな?」


と、この家の住人が事態に気づいた時を想像して悦に入る林。

 だが、二つほど憂慮すべき事があるのを思い出し愚痴る。


「と、と。

 こんな事してる場合じゃなかったな……。

 確かこの呪具、使用できるのは一日に一回までで、しかも効果が持続する最大時間が二時間程度だったっけ。

 ……ったく、面倒くせえよな~。

 どうせなら半日ぐらいは持続すりゃいいのに…」


 そう、これが一つ目の問題。

 対象を催眠下においてしかもその後、加害者に関しての記憶は全て削除する効果と、催眠下での行動に関して納得させてしまう効果を持つ。これを用いて二束三文のガラクタ(ではあるが、記憶操作で、とても霊験あらたかな物品であると思い込ませる。)を家中の金目の物と引き換えに買った、という記憶に誘導するのだ。

 無論、全部の記憶を消す事が可能だが、全部消してしまうと、違和感が大きくなり、術から解けやすくなってしまう(実は、今現在問題になっている術を用いた悪徳商法の被害数は氷山の一角に過ぎないのだ。実際には未だ被害にあった事に気づいていない者達の方が圧倒的に多い)。尤もそれは逆を言えば、それらの部分にさえ注意すれば相手に気付かれる可能性はかなり低くなる。その上、その使い方も、林のような最下位に位置する術者にすら簡単に扱えると言う、かなり便利な呪具。

 しかしその対象を催眠下における時間は便利さに対する釣り合いでもとるかの如く、二時間程度と短い。

 よって、その間に全ての仕事を終らせないといけないのだ。

 しかも、催眠下にある人間は基本的に動作や反応が鈍く、金目の物を持ち出す作業は自分一人でやった方が早い。式や使い魔でも使えるのならば話しは別だが、林程度の術者にそれは夢のまた夢だ。

 そして、も一つの憂慮が、


「あ~あ、ちゃんと仕事終らしてノルマ達成しねえと、上が煩いからな~。

 他の連中もノルマがきついって、ぼやいていたし…。

 ほんと、あの鬱陶しいクソ豚の社長、さっさと死なねえかなぁ。

 まあ、仕事自体は旨味が大きいんだけどな。」


これである。

 この術を悪用した悪徳商法は、林のような下っ端が複数で競い合いながら行っているのだ。しかも、ノルマまで課されている。ノルマを達成できなかった者は早々に別の仕事に回される。そちらは、仕事自体は楽だが入ってくる金は微々たるもの。ノルマがきつくても稼いだ(奪い取った)金の何割かが入ってくる此方とは比べ物にならない格差がある。

 また、ノルマがきついとはいえ、そもそも術者としての実力が最低の位置にある林が真面目に術者として働くよりも、この仕事で稼ぐ金は遥かに大きなものとなる。

 ……まあ、単独で似たような悪事を働く事も可能だが、林が今所持しているような呪具無しでは、すぐに捕まるだろう。

 だからこそ、面白おかしく暮す為にも今の仕事を失うわけにはいかないのだ。


「まあ、これ以上ぼやいていても仕方ないか…。

 …オラッ! 何してやがる!

 とっとと、テメエラの大事なもん納めてる場所に案内しろや!

 ぐずぐずしてんじゃねえぞ、カス共!

 俺の栄達の為にキリキリ動きやがれ!」


その言葉に従って、二人は林を離れの方へと導いたのであった。






 和範と真理子は催眠に掛かった振りをして林を案内していた。

 和範と真理子が術に掛かっていると思い込んでいる相手は、敷地内に入るや早々に下劣な本性を露にしたが、むしろその後の悪戯に素晴らしい反応が返ってくるだろうと期待を高めたほどだ。

 そして、何も知らぬ憐れな馬鹿者は和範と八重香、真理子の罠の中に飛び込んでゆく事になる。まず、


「では、…此、方…に、…なり、ます……。」


と、離れの玄関の扉の鍵を開けて、相手を中へと誘う。

 ガラッ! 引き戸を引いて意気揚々と中へと足を踏み入れかけ…


「さあてと…では早速仕事に取り掛からせてもらおうぅぅうう!!????」


 ズボッ!

 ゴギッ!

 ビタンッ!

 そして、いきなり引き戸を開けてすぐの所に設置されてある、泥棒などの侵入者撃退用の罠"足ばらい"に見事に引っ掛かった林。

 ちなみに先の擬音について説明すると、最初の擬音は林が"足ばらい"に足を突っ込んだ音で、次は急にバランスが崩れたせいで足首をくじいた音、最後は"足ばらい"に体の体勢を崩された勢いのままに思いっきり上半身前半部を地面にぶつけた音だ。

 そのあまりに見事に最初の罠に引っ掛かってくれた林に和範、八重香、真理子の三人は林に聞こえないように注意しながら小声で大爆笑しながら話し合う。


「(ふ、ははははははは。

 ここまで見事に引っ掛かってくれるとはなぁ~。)」

「(くはははははははははは。

 ほんに、見事なまでの道化ぶりじゃのう。)」

「(うふ、うふふふふふふ。

 たしかに、これは見事に引っ掛かりましたね。)」


そしてひとしきり林を嘲笑った後、とってつけたように真理子が林に遅すぎる注意を行う。


「気を、つけて……下、さい、お客、様…。

 入り、口部分、に…『足ば、らい』が…ありま、すので……。」


 それを聞いた林が、遅すぎる忠告に怒りの咆哮を上げる。


「こんなのが有るんなら有ると、先に言いやがれ!!

 この、ダボガァッァアアアア!!!」


 怒りのあまり最後の方は意味不明だが、当然そんな事は気にせずに真理子は続ける。


「分、りまし…た。

 こ、こから…先、は私の…後をつ、いて来て……くださ、いまし……。」


その言葉で、催眠下にある相手に怒鳴る事の意味の無さを思い出す林。深呼吸をして落ち着いた後、真理子の後に続いていく。

 そう、それこそが林にとってあまりに長い試練の幕開けになったのであった……。

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