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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第二章
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第37話 そして非日常は始まってゆく

この度の震災で亡くなられた方々のご冥福と、被害に遭われた方々が今後の困難を乗り越えられます事をお祈り申し上げます。

授業も終わった放課後。和範と真理子は、一応は郷土歴史研究部という部活に所属しているが、その部活は滅多に活動自体しない所だった。

 無論、そんな部活がちゃんと部として認められているのか? という疑問が湧いてくるだろう。

 だが、ちゃんと認められている。

 理由はたった一つ、その部は、術者だけで構成されていた為だ。

 学校というものは怪異が比較的発生しやすい場である。

 そのために、普通、学校には術者が何人かは配置されている。尤も、普通は一人から二人程度だが、神月高校は桂家が近い事もあり、実に総数9人ほどが在籍している。まあ、在籍しているだけで特にここを拠点などにして行動しているわけではない。

 その理由として名門である桂家の術者は基本的に能力が高い事が挙げられる。

 たった一人でも、各々の手に負えないほどの事態はまず発生しない上に、何か事件が起こった場合の当番は各々が2~3人の組で構成された集団の持ちまわり制になっている。そのため、態々事前に話し合う必要が無いのだ。

 ゆえに、基本的に放課後の部活動などせず、半ばこの部の者達は帰宅部員と化してしまっている。

 当然、和範と真理子も同様で、今日も異常など無い為に部活は無い。

 その上に術者としての仕事も現在は請け負っていない為に、和範と真理子は今日はやる事が無い。

 街に繰り出して遊ぶのもいいが、今日はそんな気分では無かったので、まっすぐに家に帰る事にした。

 その行動は果たして正解だったのか間違っていたのか…今はまだ判断をするべきではないだろう。

 この場で言える事は、二人が厄介事に巻き込まれた、という事だけだった。





 我が家に向って談笑しながら歩いてゆく和範、八重香、真理子の三人(?)。


「それにしても、真理子に入れ込んでいる馬鹿達の行動が、最近ますます過激になってきたなぁ~。」

「え~と、そうなのですか?

 確か、周りの方達の雰囲気や行動などは、九月の終わり頃までは日に日に変化していましたよ?

 それはもう、私も何度かひきかけるほどの、特に、男子の変化が異様でしたが………。ですがそれ以降は特に変わっていなかったと私は記憶していますけれども………その、もしかして私の認識違いなのでしょうか?」


 その真理子の疑問に対して答えたのは八重香だった。


「まあの…。確かにお主の周り、あるいは、お主と共に居る時の周りの反応は九月の終わり頃には今のような状態になっておったよ…。じゃがのう、お主の目が届かん部分や水面下ではのう……随分と過激な行動に出るようになっておるのじゃよ。」

「…それは、どのようなものなのでしょうか…?」


若干声音が低くなった真理子だが、八重香はそれを気にする事無く返答する。


「そうじゃのう…一つの例として、毎朝毎朝違う人間による襲撃があるのじゃが…やる事がだんだんと荒っぽくなってきておるのう。 ちなみに今朝は、空手部の主将に後ろからいきなり飛び蹴りをかまされたのう…まあ、こ奴は避けたのじゃが。」


 その八重香の返答に下を向いた真理子がふと呟く。


「……そう、なのですか……。

 ふふふ……私の大事な主様に向って飛び蹴り、ですか……。」


 それは、恐ろしく冷たい声音による呟きだった。

 和範の馬鹿な行動に対してよくお説教をしている真理子だが、彼女にとって和範が、敬愛し、忠誠を誓う対象たる二人の主の内の一人である、と言う事実は絶対のものである。その主の一人に対して、当りこそしなかったとは言え、飛び蹴りなどかました馬鹿者を真理子が無罪放免で赦すはずも無い。

 さらに温度が低くなった声音で、罪に対する罰が淡々と読み上げられていく。その罰を読み上げる表情の冷たさは絶対零度、と言う言葉が良く似合う。


「とりあえず、その不埒者に対しては死刑が妥当ですね…。どのような処刑方法で殺しましょうか?

 八つ裂き、釜茹で、串刺し、火炙り……どれも捨てがたいですね。とりあえず、回復の術も併用して全部の処刑方法を堪能していただきましょうか…。きっと、涙を流して喜んでくれるでしょう。

 ああ、そうだ。死んだ後、ちゃんと魂も消滅させておかないと…。ふふふ…」


 どこか違う世界へと飛びかけている真理子を見て、流石にここいら辺で正気に戻しておかないと、狂気の命ずるままに口走っている内容を実行しそうなので、慌てて真理子の肩を揺さぶりつつ小さく叫ぶ和範と八重香。


「おいっ! 真理子っ!

 こっちの世界に戻って来いっ!」

「そっちの世界に旅立ってはならぬぞっ、真理子よっ!!

 気をしっかりと持つのじゃっ!!」


だが……


「ふふふふふふふふふふふふふふふ」


 と、笑い続けている真理子。その顔はどこまでも晴れやかな笑顔だ。

 ただし、間違いなく人として完全に、いっちゃってる顔でもあるが……。

 本格的にまずい、と感じた和範と八重香は慌てて相談を行う。


「ど、どうしたらいいと思う? 八重香?」

「とにもかくにも、此方の世界へと真理子の意識を呼び戻すのじゃっ!

 何か刺激を与えるとか、あるいは別方面へ意識を誘導させる事が出来そうな行為に及ぶとか、じゃ。

 無理なら、最悪殴って気絶させるのじゃ!」

「流石に殴って気絶させるのは、ちょっと……、……!!

 そうだ、これならもしかすると!


 いまだ笑い続ける真理子に対して、和範は思いついた行為に及ぶ事にした。


「ふふふふ……んんっ!

 ふっ…んん『ピチャッ』…あ、あぁぁ『クチュ』…ん、あ、あ…」


真理子の笑い声が、途中で強制的に止められ、次いでくぐもった声を出し、それは徐々に艶かしい喘ぎ声に変わってゆく。そして、合間合間に混じるピチャッ、クチュ、という水音。

 そう、和範は真理子の首の後ろに手を置きつつ抱き寄せて接吻を行っていた。しかも、深い方の……。

 だがそれが効をそうしたのか、真理子の表情がトロン、としたものへと徐々に変化してゆく。

 それを見た和範は、真理子を正気づかせるのと役得の両方の意味を兼ねてしばし接吻を続ける事にする。

 それから暫くの間、そこには類稀な美少女の艶かしい喘ぎ声と、少々淫靡な水音が響き渡り続けたのであった。





「はふぅ……」


真理子とのディープキスが暫く続けた後、ようやく真理子から離れた和範。そして、舌の絡め合いから解放された真理子は気怠るそうな溜息を吐き出す。

 その表情は少し虚ろでポォー、としているが、先程までの狂気は完全に駆逐されたようで、瞳に理性的な色が戻り始めていた。

 その後、何度か深呼吸をして息を整えた真理子が和範に謝罪と礼の言葉を述べてくる。


「すみません主様…お手を煩わせてしまったようで…。

 それと、暴走しかけていたのを止めていただきありがとうございます。…主様が止めてくださらなかったら、暴走した私は一般人を手にかけるところでした……。」


 そのかなり落ち込んだ様子の真理子に和範と八重香は軽い感じで慰めの言葉を掛けてゆく。


「あーあー。良いって、良いって。

 むしろ久方ぶりの接吻に少し燃えたし。」

「あまり気にするものでないぞ真理子よ。

 あの程度の愚か者達……いや、この地球上のほぼ全ての人間の命と引き換えだったとしても、お主を失うなどもってのほかじゃからの。

 もう少し自愛するのじゃぞ?」


 これらの慰めに対して真理子は即答する。


「はいっ!」


どうやら、完全に元に戻ったようだ。それを見てとった和範と八重香は軽く談笑しあう。


「まあ、どうしても殺すんなら、ばれないようにやらないとなぁ~。」

「そうじゃの、後で指名手配犯になるなど愚かの極みじゃからの…。事故か自殺に見せかけるのが最上じゃの。」

「特に、前者は偶然性を、後者は必然性を強調しておかないとな。」

「どちらにせよ、幾つもの要素を重ねる事が前提条件になるのう…。」

「主様方……そのような不穏な事はあまり仰らない方がよろしいかと。」

「ちなみに真理子ならどんな要素を組み合わせる?」

「そうですね…。私なら、事故の方は雨が降った後の土砂崩れや、平地での落雷。

 自殺の方は前日に何か問題を起こさせて、その後周りから見捨てられるという状況を作って自殺が不自然でない状況を……って、何を言わせるんですか!?」

「……意外と、考えが黒いのう…真理子や…」

「うむ、外面菩薩内面夜叉、というやつか……」

「だーかーらー。違うんです。

 そんなのじゃありません。」


 と、そんな感じで楽しく談笑しているうちにそれなりの距離を歩いていたようだ。相馬家の屋敷が遠くに見え始める。


「おっと、どうやらそろそろ我が家に着くようだな……と、誰だありゃ?」


と、そろそろ我が家が見える、といった所まで来た時に、相馬家の門の前にスーツを着た男がいる事に気付く。

 それなりの距離があるので、普通の人間には細かい部分や小さな音は見えたり聞こえたりしないのだが、神である八重香や、日常的に身体や感覚の強化を行っている和範や真理子には、その人物が呼び鈴を押しているのが見えたり、その呼び鈴の音が聞こえていた。

 我が家に何か用事でもある人かな? と最初に目に入った時は、そう考えた和範。だが、すぐにその人物に何か違和感を感じる。それは真理子も感じたようだ。

 そして、当然その違和感はすぐに見破れた。

 あの男は、隠蔽の術を用いて自身の様々な事柄を認識し辛くしているのだ。上手く隠蔽しているようだが、高級の一歩手前ほどの高みに辿り着いている和範と真理子には容易く見破れる。まして、神である八重香には隠蔽など有って無きが如しであった。

 そう、相馬家の門前で佇んでいるこの男からは、然程大した事は無いとはいえ間違いなく呪力が感じられる。

 先の隠蔽の術といい、この男が術者であるのは確実であった。それを察知した三人は、相手が未だ気付いていないようなので小声で相談する。


「(八重香、真理子。術者と思しき奴がいるようだけど何が目的だと思う?)」

「(いきなりそう聞かれてものう…。あそこの小僧なぞ妾は知らんのじゃし、その上特に何らかの情報を持っているわけでは無いのじゃから、現時点では何とも言えんぞ?

 家にまで術者が押しかけてくる事情なぞ抱えこんどらんしのう。)」

「(私達はかなり優秀な術者集団として名前が売れていますから、難題の解決を依頼しに来ただけかもしれませぬし、歳が若い者達ばかりなので手っ取り早く名を挙げたい術者が甘く見て挑んできただけかもしれませぬ。

 尤も、これらの場合は高天原の神月支部や桂家が、私達に関して細工してくれた身元や経歴の偽造を、相手が見破っている事が前提となりますが……。

 どちらにせよ、八重香様のご指摘したように、現在我々は特に前情報が無い為に、現時点では何とも答えかねます。

 ですが、もしかしたら最近話題になっているアレが、とうとう相馬家にまで魔手を伸ばして来たのかもしれませぬ。)」

「(アレ、と言うのはもしかしてこの前の?)」

「(ああ、和範が話を聞いとらんで、こっぴどく真理子に説教されたやつの事かのう?)」

「(はい。それで間違いありません。)」

「(……まあ、とにかく、あの男に話し掛けてみるか。)」


話の最後の部分だけ和範を責めているように感じたので、とにかく事態を進める事にした和範。

 そして、男に話し掛ける。


「こんにちは。」


流石にこの距離では気付いていたようで、いきなり声をかけられても男は、余裕を持って返答する。


「ええ、こんにちは。 私に何か用事ですかな?」

「いえいえ。

 ただ、そこでずっと立っていたので何をしているのかな?、と思いまして。」


 その言葉に得心した男は自身が行っていた事を丁寧に説明する。


「いや、そんなにたいした事をしていたわけでは無いんですよ。

 実は私、とある会社の訪問販売員を勤めております林と申す者でして、それで此方のお家に訪問販売に訪れようと思っていたのですが…どうやら御留守のようでして…」


 それに対して内心で(これは真理子の考えが大当りか?)と、考えた和範だが、当然それを表情に出して相手を警戒させるような馬鹿な真似はせずに、表面上は普通の人を装って押し売りに対する通常の常套句を、とてもにこやかに話し掛ける。


「そうでしたか。でも、大丈夫ですよ。

 今、ちょうど帰宅したところですから。そして、押し売りはお断りです。」


 その言葉に少し驚きつつも、林と言う名を名乗る訪問販売員の男は和範に確信混じりの疑問の言葉を投げかける。


「では、もしかすると、此方の家の方で…?」

「ええ、そうですよ。

 そして、もう一度言いますが押し売りはお断りです。」


肯定の返事をした瞬間だった。林の持つカバンから催眠性の呪力が和範と真理子に纏わりついてくる。 それで、完全に目前の男が"催眠系の術を用いた悪徳商法"を行っている一味である、と確信した。この場で捕まえても良いが、父は勿論、部活をやっている紗奈が帰ってくるのにもまだ余裕があるので、どうせなら少し遊んでやろう、と悪戯心を起こす。

 そして、纏わりついていた呪力を体内に受け容れる。それは、主の意思を汲んだ真理子も同様だ。

 普通の人間なら催眠状態になるだろうが、当然この程度和範や真理子には体内に受け容れてすらこれっぽっちも通用しない。だが、相手を騙す為に、表情を弛緩させる。


「そんな事言わずに、話だけでも聞いてくださいよ。」


表情を弛緩させた事で、二人が術に掛かった、と判断した林はニヤケながら話を続ける。

 術に掛かった振りをしている和範は、ぎこちない感じで首を縦に振りながら男の意見を受け容れる。


「え、ええ…。そう、ですね…。話、くらい、なら…。……」


その様を見て更にニヤケ具合を高めた林は普通なら受け容れられない図々しい要求をする。


「でしたら、家の中でお話いたしませんか? 立って喋るのもなんですしね。」


それに対して返答したのは真理子だった。


「そう、ですね…。 若、様…屋敷、の中で、お話しし、ましょ、う…。」


 どうやら真理子の設定はこの見た目は大きい相馬家の次期当主(和範)の女中、といったところか。なら、その設定で通すか、と決めた和範は無言で頷いて門の鍵を開け、敷地内へと林を誘う。

 そして、自分では罠に嵌めたつもりなのだろうが、実は逆に罠に嵌められている事にまるで気付かないままに林は相馬家の門をくぐってしまったのであった。

途中で濡れ場を入れましたが、人によってはいらない、と思うかもしれません。

いらないと思う方は、その部分を、

『とりあえず正気に戻すために、和範は真理子の頭に拳骨を落とし、強制的に正気に戻したのであった。』

と、入れ替えてお読みください。

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