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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第二章
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第32話

朝食も済んで朝の登校時間になった為、家の門を出る。

 そこで、簡単な別れの挨拶。


「じゃあ、お兄ちゃん、真理子さん、行って来ます。」

「ああ、行ってらっしゃい紗奈。」

「気をつけてね紗奈ちゃん。」


三人の和気藹々とした朝の挨拶。だが、ここで三人が意図的に無視した残りの一人が割って入る。


「ふっ!

 大丈夫だぜ、義兄さん、義姉さん。紗奈は俺の命に掛けて守るっ!!

 見よ!今の俺は愛に燃えているっ!!」


それは、紗奈と同じ中学の制服を着た春人だった。

 実は彼は、和範や真理子の1つ下でまだ中学生だったのだ。

 紗奈に一目ぼれした春人はすぐに紗奈と同じ中学へ転校、1つ上なので先輩となった。

 春人は容姿も良く、運動も出来、また明るい性格で、意外にも勉学もそこそこにこなす。更に、生徒からの人気も高いが、これは先程挙げた良点によるものではなく、人の予想斜め上を行く思考や行動を周りが珍獣でも可愛がるかのように扱っている為だ。

 とにかく、その無駄に熱い台詞に三人は、


「……………」

「……………」

「……………」

「…行くか…。」

「…そうしましょう。…その、紗奈ちゃん頑張ってね?」

「……うん…。」


思いっきり朝の清々しい気分が壊され足取り重く其々の学校へと向うのだった。





和範と真理子が二人で通学路を話しながら歩いている。そのうちに話題は今朝のニュースへと移る。


「今朝のニュースでも放送してましたが、例の悪徳商法の被害者がまた出たそうですね。」

「そうだね。加害者の顔も覚えてない上に、家中の金目の物を商品の代金として支払ったなんて余程切羽詰っていたのかな?

 しかも、それに気付くのに、酷いものになると一ヶ月近くも経ってるし。最近の人はボケの進行が早いね?」


真理子はその和範の返答に少しジト目になりながら言葉を返す。


「……主様、本気で言ってます?

 三日前に高天原の神月支部で催眠系の術を用いた悪徳商法が横行しているようだからそういうのをやっている者を見かけたら捕縛してくれと頼まれたばかりでしょう。その典型的な特徴として、今朝のニュースで言っていたように、加害者の記憶だけが抜け落ちているという状態だと。あの時の話、聞いてませんでしたね?」

「ええと……」


真理子の確認の言葉に対する返答を言いよどんでいる和範。そこに八重香から援護が入る。……真理子への。


「三日前のあの時なら、こ奴は確かに全然聞いておらなんだよ。なんせ『校長の朝の無駄話みたいに鬱陶しいなあ』などとほざいて、妾との雑談に興じておったんじゃからの。

 それで覚えていたら変態じゃわ。」

「はははは………」


ジトォーーーー………。

 八重香の説明によって更に悪い情報まで流れた為、和範は笑って誤魔化そうとするが、帰ってきたのは真理子の冷たい視線だった。流石にこれはいけないと思ったのか和範は自己弁護に突入する。


「いや、これは適材適所と言うやつだよ?

 ほら、真理子って俺より明らかにそういうの得意だし。」


それに対して視線の温度を変えぬままに、真理子は質問を返す。


「適材適所ですか……。

 じゃあ聞きますけど、こういう依頼に関しての私は、主様の中ではどういう位置付けなのですか?」

「そりゃ勿論、参謀にして書記官、さらに作戦立案者にして指揮官、そして交渉人にして諜報担当官といった所かな?」

「っっっ!!!!?」


真理子は己の質問に対する自らの主のあまりに馬鹿げた返答に声無き叫びを上げる。

 出来るなら思いっきり怒鳴りつけたいが、まだ聞かねばならない事がある。怒鳴りつけるのはその後で良い。

 尤も、どうせ怒鳴るような気がするが……。


「……それでは、主様の役目は?」

「そうだなぁ…ま、指揮官の命令どおりに敵に突っ込んでいく兵士辺りが妥当じゃないの?」


今まで、完全なまでに気を許した相手は八重香しかいなかった。家族に対してすら術などの事で一歩引いていた。また、八重香は母としての側面もあったが為に、上に見ていた部分があった。他人に対して相馬和範という人間の素の状態で接した事が無かった。だから、これまでは表に出る事は無かったのだが、真理子というある意味対等な存在が出来た事で分った事がある。

 そう、完全に気を許した相手にはモロに本音が出てしまうのが和範の悪い癖だ。

 ゆえに、和範の一連の何も考えていない返答に八重香が「馬鹿が……」と、小さく呟く。

 そして、当然そのあまりにも能天気な答えを聞いた真理子の中である変化が起こる。

 プチッ! 真理子は自分の中で何かが切れる音を確かに聞いた。だが最後の一欠片の理性が周囲への配慮を促す。


「朝霜の 消なば消ぬべく 思ひつつ いかにこの夜を 明かしてむかも。

呪歌をもって我、汝に支配下へ下る事を命ず。風霊の存在よ、我らを囲む結界となれ。風霊の帳・(防音)」


術を唱える事で防音の結界を張る。専用の呪歌なのはかなりの大音でも大丈夫なようにだ。そして遂に我慢するのを放棄する。


「そんな訳、ありますかぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」


辺りに轟く雷鳴の如き叫び声。そのあまりの大声に和範は流石に驚く。だが、すぐ近くの塀の上にいる猫は何事も無かったかのように欠伸などをしていて暢気なものだ。事前に真理子が唱えた防音の術が効を奏したのだろう。ゆえに、辺りへの配慮を考慮せずに済むので、真理子の怒鳴り声は収まるどころかますます声を高めてゆく。


「なんでっ!! そんな事にっ!! なってるんですかぁぁぁぁああああああ!!!!?」

「お? おおっ?」

「貴方はっ!

 私の主!

 なのですから!

 参謀や書記官、諜報担当官はともかくっ!

 それ以外は全部主様の担当が普通でしょうがっっ!!

 それに、どうして一番の下っ端が請け負うはずの兵士を主様が請け負っているんですっ!?

 二人しかいないのですから、主様も前線に出るのはいいですけどっ!、従者の命令通りに動く主がこの世のどこにいるんですかっ!!?」


和範は思わず「ここにいる」と答えかけた。が、それをすると真理子の怒り具合が一段と高まる気がしたので黙る。


「落ち着くのじゃ、真理子!

 お主の気持ちは、ようく理解できるが、一端落ち着くのじゃ。」


ここで、八重香による仲裁が入った。

 流石に頭に血が上っていた真理子も、何一つ悪くない、もう一人の主の制止で落ち着きを取り戻す。

 そして、スーハースーハー、と何回か深呼吸をして完全に落ち着いた所で自らの主達に謝罪を行う。


「……お見苦しい所を晒してしまい、真に申し訳ございませんでした…」


八重香の制止と、真理子自身も怒鳴り散らした事で怒気が納まったのか、もう完全に落ち着いたようだ。

 いや、直前の醜態を恥じているのか、声が少々沈んでいる。流石に悪いと感じたのか和範も謝罪を行う。


「いや、こっちこそ悪かった。そっち方面を完全に真理子に丸投げしていたのは俺の落ち度だ。だから、知ってる事をもう一度教えてくれないか?

 まあ、さっきの話を聞いた限りだと俺達から積極的にどうこうする内容でも無さそうだけど。」


その和範の発言にようやく嬉しそうな笑みを見せた真理子は説明をしてくる。


「はい、基本的な内容は先程話した通りです。そして、それに付け加える点が2つ。どうやらその術者の詐欺師は一人ではなく複数いるらしいとの事です。これは、早期に訴え出た被害者に残されていた記憶削除の術の残滓がいくつか異なっている事から推測されています。尤も、残滓はほんの僅かなので断定こそ出来ません。もう1つが、被害者が契約したと思しき場所が自宅である可能性が高い点です。これも、幾つかの契約書類に残されていたインクが自宅内に置いてあったペンのものと一致した上、それらを持ち出した覚えが被害者に無い事から判明した事です。此方はかなりの精度で信頼してよい情報かと。」

「ふむ…そうなると、訪問販売を装っている可能性が高いな…発見は難しいんじゃないか?

 そういや、監視カメラとかは?

 昔ならともかく、今は普通についてる家も沢山あるだろ?

 そっちに映像とか残ってなかったのかい?」

「はい、監視カメラなどにも姿がありませんのでおそらく自身に隠蔽の術も施しているかと。」

「ふ~ん。でも、それほどたいした決め手にはならないなぁ。街中で隠蔽の術を自分に掛けている術者なんて珍しくもなんとも無いから、そっち方面からの割り出しも不可能だしな。いっそ、見知らぬ術者を見たらカマカケでもした方が早いかもな。」

「まあ、それもありだとは思うんですけどね。でも、それが通用するのは最初の日までですよ?

 そんな事を所構わずしていたらすぐに噂になって対処されると思いますから。」

「あらら、そりゃもう自分の所に来る事を祈るしかないな。」

「ええ、ですから神月支部の担当官からの通達も、見かけたら、といった感じの緩い縛りでの通達です。」

「とりあえず、心の片隅に留めておく事にしよう。」

「それぐらいで構わないと思います。」

「じゃ、今日の放課後の仕事、こっちはきちんと対処する事にしようか?」

「廃屋に出没する曲霊の浄化ですね?」

「人的被害はまだ出てないけど少し離れた所に住宅地が固まってるからな、早い方がいいだろう。下手に死者が出たり、曲霊に憑かれたりする被害者が出てしまうと、担当官殿の小言が鬱陶しいし。そのうえ、報酬も引かれるしな。」

「……できれば、人的被害にこそ一番の懸念を示してもらいたいものです…」


そんな感じで朝の登校風景は依頼の話で彩られていたのだった。

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