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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第一章 出会い、そして羽ばたき
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第28話 当主戦、前半

中庭でそのまま戦う事になった和範と高之助。

 その少し離れた所では怪我人の治療が成されている。手足を切り落とされた者も切り傷がおそろしく鋭利だった為に術で簡単にくっつける事が出来たようだ。寧ろ、殴られた者達の方が重傷かもしれない。だが、命に関わるほどの怪我をした者はおらず、皆が順調に回復していった。意識の一割ほどを割いてその事を確認していた真理子だが、もう大丈夫だと判断して、全ての意識を自らの主と桂家当主の二人へと向ける。

 巨大な力を湛えた二人の神格者へと。





和範と高之助が、神格者としての力を発揮したまま対峙する。辺りは二つの巨大な力によって圧迫され静まり返る。更に、先程まで晴れて星空が見えていたのだが、二人が放つ水と霜の莫大な神気が辺りに発散されたせいで、今や急に曇天へと様変わりし、冷たい雨が少しづつ勢いを増しながら降り始める。

 この事は、二人の神格者が特に水霊の気を充満させている事の証明でもある。

 そして、そのまま暫くの間神気を充満させつつ対峙していた二人だが、不意に高之助が声を発する。


「相馬君。今の、力を解放した状態だけでも君が神格者なのはもはや疑いようが無い事実だ。だが、それだけでは我らは(・・・)君を認められない。何故なら、君という存在をまだ見せてもらっていないからだ。

 …どういう意味かは分るな?」


そう、問われた和範はしばし八重香とともに考える。


(これはつまり、俺の器量も示せってところかな?)

(そうじゃの。どうやら、お主の目的達成はあの小僧がお主と戦う為に餌とした単なる撒き餌だったようじゃな。あの小僧の真の目的は、お主が真理子の主として相応しいか、あの小僧を初めとした真理子の味方にも示せ、という事かの?)

(やれやれ。ま、どうせ力を示さなきゃ黙る奴らも黙らないんだ。1つの行動で二つの成果が得られると思えば仕方ないか…)

(難易度は桁外れに違うがの。なにせ妾の力をお主がどれだけ掌握出来るかが、勝負の分かれ目になるじゃろうからのう…)

(俺の器量を示さなきゃいけない以上、八重香に戦ってもらうわけにはいかないからなあ…)

(だが、考えようによっては、神格者との初戦が殺し合いでは無く、試合だったのは幸運かも知れんぞ?)

(確かにな……と、そろそろ返事しないとな。)

(さて、では妾は心の奥で観戦するとしようか。助けは期待せんようにな。

 ま、形振り構わず頑張るのじゃな。)


と、八重香は最後に高之助との試合がどれだけ厳しくなるのかを暗に仄めかして念話を切ったのだった。その忠告に和範は気を引き締めると、高之助の方に向って先の質問に対する返答を行う。


「ええ、理解できましたよ。…貴方達の思惑は。では、とくとご覧あれ。」

「おう。その心意気や良し。……ゆくぞっ!!」


その言葉を合図に二人の神格者の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。





戦いの開始後すぐに動いたのは和範だった。

 莫大な神力を纏わせつつ、それによって身体能力を強化して距離を少し詰める。そして、中間距離から術は使わずに高之助に向って牽制程度の神力を乗せた気弾を放つ。

 ゴオッ!!

 気弾は白光を発しながら高之助に向って一直線に恐ろしい速度で突き進む。

 その一撃は、もし、直接其の身に受けるような事があれば、並どころか最高位の術者ですら容易く死へと至らせるだろう。

 だが、その一撃を受けるのは桂家当主、桂高之助。和範と同じ神格者だ。

 どこまでいっても人でしかない術者には必殺の一撃でも、同格の神格者にとっては、まさしくただの牽制だ。


「ふんっ!」


そんな軽い鼻息と共に神力を纏った左の裏拳をぶつける。

 バッシュウウウッ!

 それだけで気弾は、弾かれる事すら無しに消滅する。

 おおっ! と、周りから歓声の声があがる。

 だが当然和範もそんな牽制程度に放った、しかも馬鹿正直に真正面から光を発しながらの気弾が戦闘者として格上の相手に通用するとは思っていない。

 和範は牽制に放った気弾によって生じた死角に隠れるように、しかもご丁寧に此方は牽制の一撃とは違って無色透明で気配も抑えられた気弾を放っていた。

 だが…


「ぬうううぅぅん!」


ガギィィィイイン!!

 この気弾は和範の気弾同様に神力を乗せた高之助の気弾によって消滅させられる。

 高之助の裏拳によって一瞬で消滅した先の牽制の一撃とは違い此方は消滅するまでに僅かな時間を要した。

 この高之助の対応を見て死角から別の一撃を打っていたのか、と驚く周囲。神格者の力を振り回すだけの子供ではなかった事に少し感心したようだ。だが、観戦者の中で真理子だけは特に声を上げない。

 真理子は、和範との相性と、類稀な才能から攻撃にまだ続きがあるのを感じ取っていた。

 そしてそれは当然もう一人、観戦者でない、戦闘の当事者もまた…


「はあっ!!」


 ゴギンッ!!

 ドゴォォォオオオオン!!

 其の轟音に周囲の者達は何事かと騒めく。

 だが、すぐに状況から和範が死角から放っていた気弾は一発でなく、二発だったのだと気付く。そこにあるのは神力を纏わせた右の拳をアッパーカットのように突き上げた高之助の姿だったからだ。

 そう、これこそが和範の本命の攻撃。先の一撃と同様に死角から無色透明で放たれた気弾。しかも此方は更に其の上に気配も分りにくく細工された気弾だ。死角からの透明だが、少しだけ気配が分る気弾を弾いて安心している相手の隙を突く一撃。この攻撃には、かなり気を使ったのだが…それでも、完全に防がれた。

 これを見て和範は内心うめく。


(厄介なおっさんだ…今のを初見で全て見切るか…。どう攻めようかな、八重香?)

(…………)

(八重香?

 ……?

 って、そうか、忘れてた……)


いつもは、相談にのってくれる八重香からの返答がない事に訝しむ和範だが、すぐに八重香がこの戦いには一切関わらない立場を表明したのを思い出す。それを思い出し、自身の八重香に甘えた部分があるのを自覚して苦笑する。

 そもそもこれは和範の器量を見せる試合なのだ。

 八重香に頼るのは本末転倒。

 そう、これは和範自身の試練。それに気弾は防がれたが、その気弾によって残された保険はまだ生きている。

 そして、湧き上がる戦意とともに高之助と睨み合う和範であった。





高之助は和範が放った気弾にかなり感心していた。

 普通は二段構えの戦法である事が多い。

 三段というのは発想はあろうとも実行は難しいからだ。だが、相手はまだ少年にも関わらず随分と芸の細かい事をしてくる。その理由は二発目の気弾にこそある。今の気弾で最も扱いが難しいのは二発目だ。一発目と同じ程度ではその後の攻撃を警戒させてしまうし、三発目と同じぐらいだと今度は本命の三発目が察知され易くなってしまう。つまり、二発目こそが相手に本命の攻撃だと誤解させられるような一撃でありながら、本命の攻撃に比べれば明らかに劣る一撃でなければならない。

 そのさじ加減は非常に微妙だ。熟練者でもかなりてこずる作業になろう。それをこの歳で、ほぼ完璧に調節できていた。高之助といえど、先の清光達を罠に嵌める一件と真理子の真相の暴露が無ければ最後の一撃はもらっていたかもしれない。話し合いと戦闘の違いはあれど、目の前の少年の罠の巧みさを知っていたからこそ、二発目の気弾が本命を隠す為の囮かもしれないと疑えたのだ。

 その上…


「自動追尾機能を持った気弾、か…。

 下手に避ければ無防備な所に直撃を喰らう。本当に、随分と凝っているな…」


思わず漏れる呟き。そう、高速であれど決して避けられない速度ではなかったのも、また、気弾を撃った後距離を詰めずに敢えてその場に留まったのも策だ。距離を詰めない事で避けるという選択肢を敢えて相手に与える。その策に乗せられて避ければ自動追尾機能によって損傷を被る。

 本当に大した戦術だ。だからこそ笑みを浮かべて、高之助は宣言する。


「ふむ。なら、今度は此方から攻めさせてもらおうか。」


そういった後、高之助は神力を足に纏わせた高速の歩法で和範へと突っ込んで行く。それが、接近戦の始まりだった。


 ガッ!

 ガガンッ!!

 ドガッ!

 バシンッ!

 キキンッ!

 ガガガガガッ!!

 シュンッ!

 ズザザザザザ!

 ヒュインッ!

音だけが響く戦闘風景。 和範と高之助は、二つの荒れ狂う暴風となっていた。桂家の中庭に、秋山之下氷壮夫による守護の結界式が組み込まれてなければ、周囲には二人の神格者のあまりの速さによって生じたであろう衝撃波が荒れ狂っていたはずだ。

 そう、二人の戦闘は周りの只の術者達にとっては何が起こっているのか殆んど分らないような高速下での攻防であった。

 だが、当事者である二人には近接戦闘の優劣は明らかだった。

 上段突きをした後、更に一歩踏み込んで流れるように鎖骨部分を狙ってくる肘打ち。顔面を狙って繰り出されたはずの上段回し蹴りは、その軌跡の途中で急に止まったかと思うと鳩尾目掛けて蹴り下ろされる。そして、反撃など赦さないとばかりに張られる牽制の拳の弾幕。さらに、刃の如き鋭さを持つ貫手。そのどれもこれもが高之助から放たれたものばかりだ。

 一発一発が当れば戦闘に多大な支障をきたすと思わされる力強さと、まぎれもなく正当な流派だと思われる流れの精緻さ。それらに支えられた高之助の体術は完全に和範を上回る。

 和範は出来るなら攻撃に転じたいが、その隙を高之助は与えてくれない。

 神月第三公園で、真理子と戦った時に機先を制されかけたが、その時は何とか打開できた。

 だが、今はあの時の懸念が現実化してしまっている。

 明らかに格上の技量を持つ相手に、手数によって完全に押し込まれつつあるのだ。今や高之助の攻撃を受け流すのに精一杯といった所。いや、段々と此方の癖などを見切り、防御を突破されつつある!

 このままではマズイと感じた和範は、ここ数日の訓練で真理子に教わった体術を用いる事にする。


「むっ!?」


ここで高之助が僅かに目を細める。そして、たいしたものだといった口調で和範に告げる。


「ほう。桂家戦闘様式五番の奥義"流水"か…」


高之助が述べた桂家戦闘様式とは、桂家の者が修める体術の事であり、一番から七番まである。その内の五番は回避術に関してのもの。その奥義である"流水"は己の思考を限りなく無へと近づけ相手の攻撃の流れに身を任せつつ反射神経のみを鋭敏化させ攻撃を回避する体術だ。"流水"と名付けられたのは、その回避の様が流水の上を木の葉が流れに逆らわずに流れる様に似ている事からついた名だ。

 これは、実は真理子が和範との二回目の戦いで不完全ながらも使っていたものだ。

 この奥義の劣化版と和範との相性の良さで二回目の戦いを有利に進めていたとの事。

 それをつい先日真理子から教授してもらったのだ。

 尤も…


「確かに見事だ。奥義を使えるのみならず、神格者とはいえ覚えたのはここ数日間の間に、であろう? 本当に大した才能だ。 ……だが、避けてばかりでは勝負にはならんぞ?」


そう、これはあくまで回避の為の体術。その上、和範は完全に奥義を習得しているわけではない。

 完成度は真理子にも劣る。神格者の力を使った際に起こる直感力の増幅によって足らない部分を補っているだけだ。その為、奥義を完全に習得した者なら出来る反撃も、行うほどの余裕が無い。今も"流水"の維持に殆んど全力を傾けている。

 だが、和範もこの"流水"をただ攻撃から逃れる為だけに使っているわけではない。"流水"によって高之助の攻撃をヒラヒラヒラヒラと避けるうちに周囲には和範が踏んでいない場所は半分程度になった。

 そう、周囲の地面を踏む為に最も適した方法だったから使ったのだ。

 仕掛けは整いつつある。

 しかし、一撃でももらえばかなりの損傷を被る。まさしく、敗北と紙一重の回避に大半の神経を使って挑む和範であった。





 暫くの間回避に徹していた和範がそれを急に止めて突然距離を開けた事で警戒する高之助。

 だが、その警戒心によってその場から動けなくなった高之助の隙を突くように高らかに和範の詠唱が響き渡る!


「楽浪の 国つ御神の うらさびて 荒れたる京 見れば悲しも。

 呪歌をもって我、汝に支配下へ下る事を命ず。綿津見の気よ、呪縛の鎖と化し、彼の者の神威を削げ。水縛結界!」


和範の詠唱によって和範が"流水"で高之助の攻撃を避けながら踏みしめた地面から無数の水の鎖が高之助に向って飛び掛ってゆく。

 流石に高之助といえどここまで全方位からの攻撃は避けられるものではなくすぐに水の鎖に絡め取られてゆく。


「ぬっ!? こ、これは…。神力を削ぐ力を持った鎖かっ!!」


そして、水の鎖に絡め取られた高之助はすぐにこの鎖の持つ厄介な特性を味わう。自身の身体を覆う神力が恐ろしい勢いで削がれていっているのだ。これは神や神格者を捕える事を目的とした術。そして何より先程までの回避に徹していたのは、この厄介な鎖の発射口を作る為だったのだ。

 よくよく感じ取れば、発射口から僅かに鎖のものとは違う神力が漏れている。なのに、それに気付けなかったのは…?

 っ! そうかっ!

 最初に放たれた三発の気弾が残した残存の神気!

 それがこの微細な力を感知し辛くしていたのだ。

 なら、最初からここまで想定して戦っていたのか!

 大したものだ、本当に大したものだ。

 …だが、


「甘いわっ!! 霜の上に 霰たばしり いや増しに 我は参来こむ 年の緒長く。

秋山之下氷壮夫よ、汝の神威を持ちて、縛鎖を打ち砕けっ!! ぬううううぅぅうんん。はっああああああーーー!!」


高之助が唱えた呪歌と、それにより膨れ上がった神力を気合と共に放つと、水縛結界は粉々に弾け飛んだのだった。





その光景を見て和範は自身が追い込まれつつある事を悟り、内心で愚痴をこぼす。

(あれほど罠に嵌っていた状態を力づくで押し切ったぁ? 冗談は止めてくれよ……)

あれだけ罠に嵌った状態から力だけで抜けた事は、力づくで全ての罠を噛み切れる事を意味する。

 こうなると残る方法は……


(此方も力で相手を上回るしかない、か…)


だが、そういった所で単純な力勝負はあちらが上。

 なにせあちらは神格者として永年に渡り実力を磨き続けているのだ。ゆえに、階位は同じでも制御できる神力は高之助の方が上になるのだ。八重香がいれば話は違うだろうが、それは出来ない以上覆せない事実だ。それでもなお、力で…いや、威力で上回りたいなら、もはやたった一つしか方法は存在しない。


(一撃で駄目なら連撃で、か…)


ここまで思い至り、和範は最後の切り札を切る事に決める。これ以上の後が無いが仕方が無い。

 そして、同時にこの術は細かい制御が利かず相手を死に至らしめかねない為に、忠告をする。

 殺し合いならともかく、これが試合である以上仕方が無い。…尤もどうせ忠告無しでも死なないだろうが…。


「桂高之助殿、これより切り札を切ります。死なないで下さいね?

 いきますよ。」


そして和範の詠唱が始まるのだった。

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