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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第一章 出会い、そして羽ばたき
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第25話

今回は冒頭を除いてほぼ真理子側からの視点。

桂家の庭では、和範と、清光を初めとした十数人の男達が対峙していた。

 和範は青褪めた表情(演技)で、清光達の方はニヤニヤと下卑た薄笑いをしながら。

 清光達は和範を殺す一歩手前までいたぶり尽くすつもりだった。

 流石に殺すと他の者からの外聞が悪くなると考え、殺す事だけは見送ったが、逆に、殺しさえしなければ何をしてもいいと考えていた。手足の一、二本は切り落とすつもりだったし、耳や鼻もちぎり取り、目も抉る相談までこれ見よがしにしていた。

 和範が青褪めたままなのが彼等の嗜虐心に一層火をつけ、もはや拷問談義とでも言うべきものになっていた。流石に周りの者達も顔を顰めて清光達に非難の視線を送るが、彼らは意にも介さなかった。

 そして、もうすぐ始まろうかと言う段になって、清光が更なる挑発を仕掛ける。


「では、始めようかと思いますが…おやおや、顔も青褪めて情ないことこの上ない様子ですね。

 今更怖気づいているんですか?

 なんならどうです?

 私達全員に対して土下座をして、九重真理子の処分に口を挟まないと誓うなら少しは手加減してあげてもよろしいですよ?

 まあ、調子に乗っていたカスがようやく分際というものを悟っておとなしくなったご褒美としてね」


などと屈辱極まりない提案をする。

 それに対し、和範は沈黙したままだ。

 清光達は、和範が命乞いをしようかどうか迷っていると判断してあからさまな侮蔑の表情を見せる。

 無論和範はそんな事は欠片も考えておらず八重香と相談をしていただけだ。

(いや~、ここまで馬鹿だと地獄に叩き落すのに全く心が痛まないな)

(そうじゃのう、自分達が態々己らの死刑執行の書類に己らで署名しているのにも気付かん馬鹿じゃしのう。)

(さ~て、どうやって料理しようかな。

 こいつらも言ってる事だし、手足の一、二本は無くしても大丈夫だよな?)

(真理子やその家族の立場も考えて後でくっつくようにすっぱり綺麗に切り落とすんなら大丈夫じゃろ。)

(んん~、じゃあ、水霊纏鎧と水刃系統の術で攻めるか。)

(そうするが良い。

 ああ、でもそれじゃとすぐに終ってつまらんから打撃も混ぜた方が良いぞ。)

(勿論そうするさ。

 というより、手足落とすのは見せしめに2、3人やるだけで後は打撃でやるつもりだよ?)

(なら良い。

 あと、審判気取りの小僧も奴らの仲間じゃから、やりすぎれば途中で強制的に止められかねん。

 せっかくの御仕置きが途中で止められたらつまらんからのう。

 そうならないように何をするかは、分っておるよな?)

(当然、あのガキにも攻撃して気絶してもらい、途中での制止が出来ないようにするさ)

と、本気でやるつもりの分彼らよりも余程不穏な事を考えている和範と八重香。

 そんな彼等を心配げに見る多くの目があった。





和範を心配げに見ているのは、真理子やその家族、それに高之助や高志、良子、そして、真理子の信派の女の子達だ。

 尤もほぼ全員が和範の身を心配しているのに対して、真理子は主たる和範が清光達に行うであろうお仕置きについて心配していた。

 さっきから馬鹿共が自分達が何を敵に回しているのかを知りもせずに暴言を吐いている。

 それをするごとに御仕置きの度合いが上がっているような気がしたので真理子は目線で必死に主へと語りかけていた。

『どうか、人殺しだけは思いとどまってください』と。

 それに対して、主から分った分ったと言う視線が帰ってきたので少しは安心したがそれでも不安は尽きない。

 そうして、清光達の命の心配をしている姿を和範を案じていると勘違いした良子や女の子達が真理子を慰めに集まってくる。


「真理子ちゃん、大丈夫よ。

 いざとなったら私が止めに入るから。相馬君に大怪我まではさせないわ。」

「そうです、九重先輩。私達が割って入って男共を返り討ちにしてやりますよっ!」

「先輩の為に頑張っている相馬さんを見殺したりなんかできませんっ!」

「真理子の為にも、少し図に乗っている男共を締め上げる良い機会だしな。」


などと、口々に真理子を慰めるが、いっこうに真理子の心配げな顔は変化しない。

 皆が、本格的に心配する中で、真理子は皆の勘違いに頭を抱えていた。

 そう、真理子はこの鬼ごっこで主が起こすであろう御仕置きの方を心配していたのだ。

 真理子は真剣に悩む。

 皆の誤解を解こうかどうかを。

 そして、最悪の場合に備えて、皆に話す事を決意する。

 流石に主も真理子の味方に止められればお仕置きを中止せざるを得まい。咄嗟に動いてもらう為に自分の憂慮を皆に話していく。


「いいえ、皆さん違うんです。」


その言葉に皆が疑問を覚える。良子が皆を代表して、真理子に問い掛ける。


「えと、真理子ちゃん?

 違うってどういう意味?」


その問いに、人前で自身の主を呼ぶ言い方として教えられた呼称を用いて返答する。


「私は別に相馬さんの事を心配しているわけじゃないんです。」


その言葉に皆が驚く。

 当然だ。

 一人で十数人の術者と戦おうとしている相手を真理子は心配していないと言う。

 ならば、あの少年はかなり逃げたりするのが上手なのだろうか?

 そんな思いを察した真理子が彼女らの考えに首を振りながら先を続ける。


「私が心配しているのは、清光殿達の方なのです…」


清光達を心配する?

 それはつまり真理子は和範の勝利を確信しているとも言える。

 それなら心配は要らないだろう。が、それにしては荒事になった途端に顔色を青褪めさせたり、不安げな雰囲気を醸し出していたのだが…と、ここまで考えて一人の後輩が答えに行き当たる。

 和範が演技をしていた可能性だ。

 その考えが正しいかを確かめる為にその後輩が真理子に確認を行う。


「えと、相馬さんの今までの不安げな姿や青褪めた顔ってもしかして、演技なんですか、先輩?」


その確認の声に真理子は、未だ和範に野次を飛ばしている愚かな清光達を沈痛そうな顔で見ながら頷き、説明を行う。


「実はそうなんです。

 相馬さんは、体内の血液を操って擬似的に顔を青褪めさせているだけで、恐怖とかから青褪めているわけではないんです…それに、演技とかも異常に上手くて初対面ではまず見破れないと思います…」


あれって演技だったのっ! と驚いている他の友人達を見ながら真理子は説明を続ける。


「それに、二度目の戦いで分ったのですけど、良子さんに報告していた内容と相馬さん本来の戦い方や実力は全然違うんです。

最初の戦いでは自身の実力を極力低く見せる事に腐心していて、私も実力を見誤っていました。

 まあ、二度目の時は色々あって戦う前からかなりの実力者だと分りましたけど…ちなみに相馬さんとの二度目の戦いでは約一時間に及ぶ死闘になりました。」


その言葉に周りの友人達は驚愕した。

 真理子と一時間も、しかも真理子が死闘と表現するほどの戦いが出来る。

 つまり、あの少年は真理子とほぼ同等の実力者と言う事だ。それほどの相手とも知らずに挑む事になる連中に彼女らは同情した。が、真理子の驚愕の話はまだ終わりではない。いや、寧ろここからが始まりだといっても良いだろう。

 真理子は話を続ける。


「そして、約一時間に及ぶ死闘は、私が相馬さんの手刀を首筋に受けて気絶する事で終了しました。」


 その話にまたも皆が驚愕する。

 彼女らが今日の定例会で聞いた話では彼は真理子に負けたと明言していなかったか?

 彼の態度からは嘘など言っているようには聞こえなかったがまさかあれも演技していたのか?

 それを懸念した良子が問いただす。


「真理子ちゃん、彼は、定例会で自分が負けたと明言していなかった?

 もしかしてあれは嘘なの?

 だとしたら、かなり大問題よ。

 当然その嘘を正さなかった貴女も責任を追及されるわよ。

 どうなの真理子ちゃん?」


その当然の追求に真理子は自身が主に対して同じ質問をした時に返された言葉を返す。


「ええ、私も当然その部分は指摘しました。

 それに対して返ってきた答えが『勝負では勝っても試合では負けた』との事です。」


皆が意味が分らず首を傾げているのを見て真理子は続きを話す。


「よく思い出してください皆さん。相馬さんは『1対1の試合で』と言う言葉を使っていたでしょう?

 つまり、1対1の試合で負けそうになった時に身の危険を感じて咄嗟に自身の中の神様の力を使ってしまったんです。でも、それは相馬さんが自分に課していた一人で戦うという制約を破る行為でしたから二度目の戦いは相馬さんにとっては"反則負け"と言う事らしいんです…」


それを聞いた皆が虚を突かれた表情をする。だがすぐに我に返った良子が呆れた声で告げる。


「え~と、その、それって屁理屈って言わない?」


それを聞いた真理子は同感なので頷くが、それでは皆も納得しないだろうから、主の更なる屁理屈を告げる事にした。


「私も同感ですが、更なる屁理屈と言うか…相馬さんの言では『詳しい内容を確かめずに勝手に誤解した方にこそ問題がある』との事です。

 さらに、相馬さんの悪癖とでも言うものなのですが、彼は、敵対している者の前や、自身の望む方向に物事を持っていこうとする時には必ず誤解し易い言い方や重要な内容を省いた言い方をするんです。

 別に嘘をつくわけではないんですよ?

 なんていうか、そう、いんちき占い師が言うようなどうとでも取れる言い方を好むと言うか、人によって理解の仕方が変わるような言い方を好んで使うんです。

 今回の件でも、誰かが詳細な内容を聞いていたらばれたんでしょうけど、誰も聞かなかったし…それに、事実を知っている私も事前に相馬さんに、誰かに聞かれない限り何も言わないようにと命令されましたし…」


その真理子の答えに皆がなんだかな~、という表情をする。

 性質が悪いとはこの事だろう。

 確かに嘘は言っていない。言っていないが、こんな重要な事を省いて言われたら皆が誤解するに決まっている。

 嘘を言ったも同然だ。

 だが彼は先程の屁理屈を相手に告げて自分の正当性を臆面無く主張するのだろう。

 そして、それは通ってしまう。

 紛れも無く彼は嘘をついていないからだ。

 皆が和範の性質の悪さに呆れている中、一人が先の真理子の意見で少しおかしな部分に気付く。

 そしてそれを問い掛ける。


「ねえ、九重先輩。

 さっき先輩、「命令された」って言ってませんでした?」


その指摘を聞いて他の者達もそう言えばと思い出す。

 そして、真理子の方を見ると、真理子は露骨にしまった、という表情をしていた。

 それを見た皆は次々に真理子に理由を問いただす。

 それに耐え切れなくなった真理子は、どうせ彼女らの協力を得る為には話す必要がある、と割り切り、自身と主の本当の関係を彼女らに暴露する決意を固め、話し始める。


「どうせ必要な事ですから白状しましょう。

 私と主様…つまり相馬さんの事ですが…は主従の儀式を既に済ましていて、私は主様の従者になったんです。

 理由としては、主様との二度目の戦いで、主様の駆け引きや詐術を私は容易く見破れたのですが、これは主様と私には何らかの縁があり、相性が抜群だからこそ出来たらしいんです。

 実際後で思い返してみると中々見破れないようなものばかりでしたし…それに、私も主様も御互いに何らかの不思議な感覚を覚えていますし。

 それともう1つは、先程、主様が神様の力を使ったと言ったでしょう?

 その時の主様は神様の力をただ放出しているだけの状態で私の祝詞による渾身の一撃を容易く弾いてしまったんです。

 つまり、主様は神格者なんです。当主様と同じ中級二位の…」


それを聞いた皆は絶句した。

 今まで異能者だとばかり思っていたのだ。

 それが、術者にとっては絶対の上位者とでも言うべき神格者。しかも自分達の当主と同じ中級二位の…。

 こんな化け物が相手では清光達に勝ち目など全く無い。

 ここに至って皆が真理子の心配している事に気付いた。

 こんな怯えたふりや嘘同然の言葉を使ってまで清光達を戦いの場に引きずり込んだ和範が清光達を無事に帰すような戦いをするわけが無い。全員病院送りになる位なら御の字だろう。下手をすれば合法的に皆殺しにされるのではないのか?

 事実、この鬼ごっこに相手を殺さないようになどという縛りは1つも無いのだ。

 そうなればまさしくこの場は惨劇の場へと変わるだろう。そして、皆が自分の懸念に気付いたと察した真理子はその場の友人達に助力を求める。


「主様が、人殺しまでするとは思いませんが、それでもやりすぎた場合は私と共に主様を止めてくれますか?お願いします。」


その必死な様子に皆が頷いたとき、遂に鬼ごっこが始まったのだった。

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