第24話
少々話の流れに無理があるかも。
ご指摘などがありましたら後日訂正しますので変な部分はどしどし指摘してください。
話し合いが行われている中、最初にそれを終えた桂家当主の高之助が和範に確認の質問をしてきた。
「相馬君、つまり君は九重真理子との戦いに敗れたからこそここに来たと言うことかな?」
「私は九重さんとの試合で負けたからこの場にいるのです。」
その返答に周りの連中は、「やはり、そうか」とか囁きあっていたが、高之助は何かふにおちない表情をしている。それを見た和範は、高之助への対処に関して八重香と心の中で相談をする。
(やばいな、あのおっさん。
変に感付かれたら、その後の御仕置きへの流れに思いっきり邪魔になるな。)
(そうじゃのう。
あの小僧、お主の言にどこか納得していないようじゃからの。)
(だけど、下手に俺の発言を補強しても余計に怪しまれるだけだしな…)
(なら、あそこで顔をどす黒くしとる戯け者に、訴えかけて話の方向をずらせばどうじゃ?)
(そうだな、そうしよう。
あの馬鹿なら真理子を不問にしようとする話の流れに必ず反発する筈だ。)
相談を終えた和範は、改めて真理子の件を不問にするように清光に訴える。
当然清光一派が反論するのを考慮に入れて…
「つまり、九重さんが私に負けたのは不幸な偶然に見舞われての事ですから、実力も特に問題ないのですよ清光殿。」
敵意などとっくに通り越してもはや憎悪と殺意のみしか抱いていない和範から話し掛けられた清光は当然反論する。
「そんな事が問題なのではないっ!
問題なのは彼女が任務を失敗した事だっ!
不幸な偶然が重なろうが何だろうが桂家の術者なら臨機応変にそれに対応して事件に対処せねばならないのだ。
それが出来なかったからこそ彼女は不要なのだっ!」
その清光の発言に取巻き共が追従してゆく。
「咄嗟の対処ができない者に桂家の術者を名乗る資格など無い。」
「汚名の返上が出来たからって、図に乗るなよ?」
「そうだよねー。
野良の異能者の浅知恵でどうにかなる問題じゃないんだよ。」
「それに、勝ったと言っても突発的な状態でなく、いわばまともな状態でだろ?
咄嗟の状況で無い以上何の解決にもならん」
「そもそも、これ程の失態が知れ渡った事自体が問題でもあるのだ。」
彼らは言いたい放題に言っていたが、それらの発言こそを待ち望んでいた和範は、ようやく仕上げに移っていく。
「ほう、つまり貴方達はあの程度の突発的な事態で2対1とはいえ相手に敗北するような術者は必要無いと言う事ですかな?」
それに対して肯定の頷きや返答が返ってきたので和範は内心で満足しながら、態と覚悟を決めた表情を浮かべて話を続ける。
「では、実際に貴方達も試してみればいかがです?」
その発言に皆が疑問符を浮かべる中、和範は話を続ける。
「そうですね、私と貴方達とで鬼ごっこでもしましょうか。
決着は鬼が時間いっぱい逃げ切るか、鬼が捕まるかの」
その意見に清光が内心でほくそえみながらルールの付け足しを求める。
「それだけでは、ただの鬼ごっこだ。術者がやるのなら、更なる条件が必要だ。」
「それはどのような?」
「そうだな…例えば鬼への術や体術による攻撃も視野に入れた、とかな」
「それだと此方は一方的に攻撃されてしまう。冗談じゃありませんね」
「ああ、無論君から私達への攻撃も可能だよ。
ほら、これで条件は対等じゃないか」
「だが…」
「おいおい、君が言い出した事だろう?
潔く受けろよ。
この条件で君が逃げ切れたら君の勝利だ。
ああ、でも普通の鬼ごっこだと君に不利過ぎるな。
よし、君の敗北は君が完全に動けなくなったとそこの新見君が判断するまでは無しにしよう。」
清光の出した条件は彼が持っていこうとした条件と全く同じだ。怪しまれずにどう話をもっていくかを思案していたが、思わず相手から提示されたので、和範は内心で大満足していた。
だが、それを悟られないように表面に浮かべる表情は青褪める演技をする。八重香の力なら体内の血を操って表情を青褪めさせるぐらい朝飯前だ。
そして、それを見た取巻き連中が畳み掛ける。
「おいおい、今更怖気づいたんですかぁー?」
「さっきまでの強気な姿はどこに行ったんだろうねぇ?」
「ふん、所詮口だけが達者なだけのカスか…ちょっと実力勝負になるとすぐに逃げようとしやがる。」
「情ない奴め。これだから野良の異能者は駄目なんだ。」
「いやいやこんな奴と一緒にされたら野良の異能者が可哀想だろ。」
「こんなのに例え2対1でも負けるんなら、やはり九重真理子は不要だな。」
和範は爆笑したいのを堪えながら、表面上は侮蔑に耐えかねて覚悟を決めた少年を演じ承諾の言葉を述べる。
「分った。お前等の条件を呑んでやろうじゃねえか。
後悔するなよ。」
口調も態と変え、キレた少年を演じる。これに清光達はようやく清々しい気持ちを味わっていた。
この承諾に大多数の者が無謀だと思ったが、清光一派は狂喜していた。
今まで散々此方をこけにした発言ばかりしていた男をようやく正当な理由でぶちのめせるのだ。高之助ですら気付けないほどに八重香が自身のみならず和範の力の大半をも完全に隠蔽している事もあって、この場にいる真理子と和範以外の誰もが清光達の勝利を確信していた。
そして、同時に和範の心配もする。
今まで清光達に暴言を重ねてきたのだ下手をすれば殺されてしまうかもしれない。
何人かが思いとどまるように意見を述べるが、清光達がこの意見を一蹴した。
彼等にとってみればこれは千載一遇の雪辱の機会だ。逃すわけにはいかぬと反対意見をやり込める。
彼らは自分達の勝利を確信していた。
和範が鬼ごっこなどを提案した事から自分達にまともな戦闘では勝つ事は出来ないと判断したのだ。それで、そのルールをまるで集団リンチも可能なように変更させれたのはまさしく快挙とでも言うべきものだ。
しかも、審判役の新見は清光の取巻きの一人である。心ゆくまでいたぶり尽くせるというものだ。
今までの暴言を後悔させてやる。
彼らは既に和範をどのように痛めつけるかを想像して悦に浸っていた。
一方、和範は青褪めた演技をしながらここまでの事態の流れに大変満足していた。
高之助を見ると、流石に話しについていけずに此方の心配をしているようだ。
どうやら、先程の疑問も遥か彼方に置き忘れてくれたようなのでほっとしていた。
真理子の隣にいる、真理子の父、東吾も思いとどまるように説得してくるが、覚悟を決めた表情でこれを断る。厳格ながらも人のいい当主殿や真理子の父を騙すのは心苦しい(尤も、二人を騙すのが真理子に対して心苦しいだけの話だが。)が、必要な事なので無視する事にした。
だが、流石に全てが演技だと見抜いている真理子の心配げで、何かを訴える視線だけは無視する事が出来なかった。
が、意見を翻すつもりはまるでないので、真理子の視線に必死に目で謝りながら時間を潰していた。
無論、真理子は自身の主の心配はしていない。真理子が心配しているのは清光達の方だ。
例え八重香様抜きでも彼等が主に勝てるとは真理子には思えない。だからこそ、主がこんな展開を望んでいたとは思っていなかったのだ。
真理子はてっきり清光達と1対1の決闘を何回かやる方向へと持っていくと思っていたのだ。これでも主が勝利すれば彼等の面子はズタボロだろうが、こんな大勢でかかって返り討ちにあえば、もう彼らには桂家での居場所はなくなるかもしれない。その上今回の一件はすぐに知れ渡り、術者として今後活動する事すら難しくなるだろう。
彼らに対して良い感情は持っていないが、大怪我させた上に路頭に迷わすのは流石にやりすぎだ。
ゆえに、例えこんな状態でも主の奸智なら話を別方向に持っていけるのだから、何とかそうするように視線を送るが、主は視線で謝ってくるだけで彼等を地獄に叩き落す事をやめるつもりは一切無さそうだ。
それを見て、真理子は盛大に内心で嘆息すると共に1つの決意を固める。
できるならやりたくないが、最悪の事態になるようなら当主様に対して主が神格者である事を打ち明けて彼等の敗北が仕方のなかった事なのだと皆に示して彼等を助けようと考えていた。
ちなみに、話に興味が無く居眠りをしていた春人は、不穏な空気を感じ取ったのかようやく目を覚まして、
「ふわぁぁああ!! ああ~、よく寝た!」
などと大声で叫んでしまった為に、高之助にしこたま殴られたのだった。