第22話
二人辞めちゃったから仕事が忙しい~。少しの間更新が遅れ気味になります。できる限り早く仕上げられるように頑張りますので、ご容赦お願いいたします。
襖の向こう側で中の話を聞いていた和範と八重香だったが、自らの従者に対する数々の暴言に対して自らの内にある怒りがいい加減、殺意にまで変化しそうになっていた。
流石に虐殺まで敢行すると、真理子が怒り狂うか嘆き狂うだろう。
まあ、そんな事になる前に真理子なら命を掛けて主たる和範の愚行を制止しようとするだろうが……。
まあどちらにせよ、相手を殺す事まで出来ないなら、殺意が湧かないうちに出て行くべきだろう。できれば中立の者達のこういう場合での本心を確かめたかったが、どうやら、中立の家で発言しているのは末席の者達ばかり。
多分、一応は優勢な方についたという名分が欲しいのだろう。
だが、当主は発言していないので、後日何かあっても末席の者の独断と切り捨てられる。
狸共め、と思いながらも、これ以上の真理子への暴言を聞くと本気で皆殺しにしたくなってしまうし、何より真理子が今、この場で自身に向けられる悪意に怯えている。これ以上、真理子を恐怖で怯えさすわけにはいかないか…そう考えた和範は襖を開け、定例会の場へ入っていったのだった。
真理子が怯えていたのは実は和範がしでかすであろう馬鹿達への報復に対してだと気付かないままに………
唐突に定例会の場へと入ってきた若い男の侵入者。
だが、その事に気付いたのは誹謗中傷に参加せず、かつ、高之助と高志、および侵入者と体面で向かい合う者達だけだった。
それ以外の者達は真理子への誹謗中傷に躍起になっているか、背後に現れた事と和範の入室の仕方があまりに自然であった為に真理子を除いて気付く事無く話し合いの方に意識を割いてしまっている。
この場が、真理子の処遇を決める場であり、自由に話し合う場で当主たる高之助は最後の決定ぐらいにしか発言はしないのだが、いきなり定例会の場へ入り込んできた人物を無視するわけにもいかず、相手が何者なのかを確かめる為に高之助が辺りを静める。
「一端、静まるがよい、皆の者よ!」
この当主の発言にそれまで喧騒に満ちていた周りが静まる。
彼等の大半は当主に歯向かうほどの気概は持っていない。
だが、自身の父が真理子の弁護を行おうとしていると勘違いした清光だけはすぐに当主たる父、高之助へと噛み付く。
「お待ち下さいっ! 父上っ!
いかに父上といえど、理由無き弁護は許されませんぞっ!!」
高之助はその発言に清光がどんな勘違いをしているのかすぐに察したので、その誤解を解いてやる。
「勘違いするな清光よ。
私はただ、いきなり定例会の場へ入ってきたそこの彼が何者なのか問おうとしただけだ。」
高之助は、前半は清光、後半は侵入者の方へ顔を向けて発言する。
そこでようやく定例会の場へ侵入していた男の存在に気付く清光の取り巻きと支援者達。
彼らが気付いた事を確認した高之助は再度、侵入者に誰何を投げかける。
「では、尋ねようか。
いきなりこの場へ入ってきた君は何者なのかな?」
如何にこの定例会の場が荒れていえど、ここに入ってくるまで神格者である自分にすら気付かれなかった侵入者に対して、口調こそは丁寧であれど、決して油断などせずに警戒心の篭った雰囲気で誰何する高之助。
それに対して侵入者が答える。
「お初お目にかかります、桂家当主、桂高之助殿。
私の名前は相馬和範と申します。
私がこの場へ訪れたのは、此方の九重真理子さんとの間で起こった神月第三公園での揉め事の説明を行う為に訪れた次第でございます。」
この場へいきなり現れた侵入者はヌケヌケとそんな事を言い、真理子以外の全員を驚かせたのであった。
そろそろと思い、襖を開けて定例会の場へ入ったのだが、大半の人間が真理子を扱き下ろすのに夢中で和範が入って来た事に気付かなかった。
それを何となく寂しく思ったが、どうやらこの場を快く思っていない人達は和範に気付いて、何者だ? と、いう顔をしていた。それに対して和範は、全員に気付かれなくて自身の入室がそのまま流されるような事にならずに良かった、と胸を撫で下ろした。
そうこうする内に当主と思しき壮年の男性が場を静め此方に誰何の声を上げてくれたので、それに答えるとほぼ全員が驚いた状態になった。
それに対して内心で楽しく思っていると、和範の中では壊す相手の最上位に位置する清光が噛み付いてきた。
「ほお~。
つまり貴方は15日前に起こった出来事の説明を行いに来たと?
でも変ですねえ?
確か、神月第三公園での出来事に関しては当事者以外に関与していたり目撃していたりする者などいなかった筈ですが?
これはその後の調査でも関与者は皆無であったから確実な情報であるはずですよ?
なら、いったい貴方はどうやってあの時の出来事を知ったんでしょうねえ?」
清光のその粘りつくような嫌味ったらしい物言いに辟易しながらも返答を返す和範。
「ああ、それは簡単な話ですよ。私はあの場にいましたから。
それなら知っていて当然でしょう?」
その発言に周囲が騒然としだす。
どういう事だ? 目撃者の確保ぐらいは出来ていたのか? 本当に目撃者なのか? いやあの場に居たという事はまさか件の異能者なのか? など、色々と声が聞こえてくる。
当然それは清光にも聞こえていたのだろう、それらの発言に対して敏感に反応した後、再び和範に噛み付く。
「あの場にいた、ですって?
それはつまり貴方があの場に居たのに真理子君はその事に気付きもしなかったと?
それはそれで大問題ですねえ。
貴方如きの存在に気付けなかったとは。
それとも貴方が真理子君と戦った異能者だとでも言うのですか?」
と、和範と真理子をあからさまに見下した雰囲気と口調で話し掛けてくる。
自身に対しての見下しに関してはそれほど気にもかけなかった和範だが、それが真理子にも向けられた事で怒りの段階を1つ跳ね上げた。その事を敏感に察したのか真理子が自重するように視線で訴えかけてくる。それを受けて、少し気分を落ち着けた和範は表面上は冷静に返答する。
「ええ、最後のが当たりです。私があの時に九重真理子さんと戦った相手です。」
そう、返答してきた和範に周りの者達は真理子を除いて呆気にとられたのであった。………。
そんな感じで、暫く呆気にとられていた周囲の者達だが、次第に我に返り、ヒソヒソと囁きあう。ある程度聞こえてくるが、まあ、内容など聞かなくても想像はつく。彼等の持つ最大の情報との矛盾点を囁きあっているのだろう。そして当然清光もその点をついてくる。
「はっ、ははははは。いきなり何を言い出すかと思えば、くくく。
まったく呆れ返るとはこの事ですねえ。」
嘲笑う理由は分るが、敢えて問い返す和範。
「何がそんなに可笑しいのですか?」
それに、満面の気色の悪い笑みを浮かべながら清光が言葉を返してくる。
「だって、真理子君が報告した異能者と貴方は全くの別人でしょうに。」
そう、これこそが最大の矛盾点。
あの時和範が変装していたが為に誤った情報を彼等は信じているのだ。よって和範は、そこの部分の誤解を解こうと、そこに至った経緯を周りの皆に説明しようとする。
「ふむ、まずは私が神月第三公園に入った辺りから説明しましょうか。公園に入って暫くして人払いの術が…「くははは」」
と、説明している途中で清光の耳障りな哂い声が割って入る。
どうやら和範の説明など聞いていないようだ。
「くははは。あまりに拙い策ですねえ、真理子君。
自身の失態を無かった事にする為にこのような馬鹿げた策を弄するとは…。
はっ! 本当にお笑い種だ。策を練るのならもっと出来の良い内容を考えるのですね、そもそも…「煩い…」っっ!!なっ!」
真理子を気持ちよく罵倒していた最中に放たれた「煩い」の一言。
それによって場が凍りつく。
そして、その一言を発したのは勿論和範だった。
自身の発言を遮られたのは良いとしても真理子に攻撃を向けた事が許せなかったのだ。
そして放たれる暴言。
「ピーチクパーチクと五月蝿い奴だな。しかも甲高い声で気色悪いし。
鬱陶しいからお前、黙れ。」
その一言を聞いた時、真理子の血の気は一気に青褪めたのだった。




