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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
プロローグ
2/44

プロローグ2

布団で中学生ぐらいの男の子が寝ている。背は175cmでこの年齢では高い方だろう。容姿は整っている方だが、美男子の領域までには至っていない。中の上といった所か。体格は中肉中背で、髪は整えられているこの少年の名前は、相馬和範と言った。






不思議な蛇、八重香との出会いから7年が経ち、和範は13歳に成長していた。

 あの日以来八重香とは四六時中一緒に居る。最初は、和範も混乱していたが、元々八重香に対して好意的な感情しか持っていなかった事と、八重香の和範に対する保護者的な態度が、幼い頃に母親を亡くし妹と共に父子家庭で育った彼にとってはまるで母親のように感じられた為だ。

 そして今日も…


「ふむ。もう七時半になるというのに未だぐっすり寝ておるとは…紗耶(和範の妹)はもう起きて朝食作りを手伝っておると言うのに。

 どうやら今日も少し手荒に起こしてやらねばならんようじゃのう。ふふふ…」


などと不穏な事を考えながら、それを行動に移す。

 八重香は、蛇体をくねらせて進みながらタンスの上に移動する。そして、和範の腹めがけて一直線に飛び降りた。

 ドムッ!と鈍い音が響いた後、うめきながら和範が起きる。


「ううぅぅ~…八重香、もう少し優しく起こしてくれないかな~…」


それに対して、八重香はチロチロと舌を出しつつ言下に否定する。


「だめじゃ。お主は、優しく起こそうとしたら後少し後少しとばかり言って、いつまでたっても起きてこんじゃろ。」


と、今までの経験上無駄な行為にしかならないので、いちいちそんな事せん、と言う。

 仕方無しに和範は起きる事にした。


「うぅーーんっ!ふはぁー!じゃっ、今日も一日頑張りますかっ!」


大きく伸びをしながらベッドから起き上がり、早速着替えに入る。瞬く間に制服に着替えて、八重香に声をかける。


「よしっ!着替え終わり。じゃ、八重香も俺の中に戻っといて。」


すると、八重香が和範の方へ移動していったかと思うと、そのまま体の中に消えたのだった。

 それを見て和範は、この光景にも慣れたなあと思う。最初は、八重香が自分の体の中に消えていくのを見て慌てたものだった。だが、子供の頃には、固定観念が無かったのも良かったのだろう。そして、もうこの七年間、毎日何度も繰り返されてきたのだ。この奇妙な光景は、もはや日常の一部になっていた。

 ただ、あの日八重香が和範の体に宿ってから、和範の体にも色々な変化が現れた。

 1つ目は、八重香と心の中で会話が出来るようになった事。これは、八重香が和範の体から出ていても行えるので、念話みたいなものだと解釈していた。

 2つ目は、和範の身体能力がかなり上がった事。100mをチーター並の速度で走れたり、怪我が短時間で癒えたりするので、実生活では他人に怪しまれないように心掛けている。

 そして、3つ目はかなり変わった力だった。なんと、水をある程度操る術が出来るようになったのだ。この術は、心の中でどうしたいかを思うだけである程度発生させる事が出来る。心の中で思うだけでも、木の幹位なら切り落とす事も可能だ。さらに八重香に教えてもらった祝詞を唱える事で数倍以上に威力を高める事が出来る。これも他人に知られないように注意している。

 この、3つの力を得た最初の頃は物語の主人公にでもなった気分だったが、八重香が余り他者に見せびらかさない方がよい事を長々と色々な事例を用いて説得した為、注意しているのだ。

 この事が切欠で、和範は表面上は社交的だが八重香以外にはどこか一歩引いた性格を形成していた。

 他者に対して本気で怒ったり、あるいは喜びを分かち合っているときでも、心のどこかは常に冷静だ。

 あえて言うなら、映画でも見ているといった感じだ。映画の中の人物の行動に本気で怒ったり、感動したりしても、その人物を恨んだり尊敬しないのと同じだ。だが、それで彼の人間関係が悪いわけではない。彼は深入りしないが社交的で明るい。つまり、広く浅く他人と付き合っているのだ。






 自分の事を考えながら、一階の居間へと降りてゆく。

 今日の朝食は、ご飯にワカメと豆腐の味噌汁、鮭の塩焼きに海苔とお茶のようだ。

 そして、そこには既に朝食を取っている紗耶と父がいた。遅れて降りてきた和範に二人は、


「おっそーい!もう食べちゃってるよ!」

「やれやれ、もう少し早く起きるようにしなさい。四月も半ばなのだから。」


と、声をかける。その言葉にご免ご免と謝りつつ、和範も朝食を取り始めるのだった。


 パクパク…ムシャムシャ…モグモグ…ゴクン…和範の食べる速度はとても速い。最後に来たくせに結局一番先に食べ終っていた。別に噛まずに丸呑みしていたり、ガツ喰いしているわけではない。それどころか意外に綺麗な食事の取り方だ。それを見て紗耶が言う。


「はぁ~、いつ見ても不思議よね。そんなに早いのにどうしてまともな食べ方なんだろ?」


和範はそれを聞いて、言葉を返す。


「早喰いは、俺の特技なんだよ。まあ、この領域に来るには永年のたゆまぬ努力の成果だな。」


と、自慢するが、紗耶には「単なる寝坊の結果でしょ」と返された。

 ……静けさが食堂を覆う。その横では、テレビのニュースで、交通事故だの、政治家がどうだの、今はやりの失踪事件だのが流れる。そんな感じで相馬家の朝は過ぎていったのだった。





 少し寝坊したが、充分学校には間に合う時間だ。

 紗奈はまだ小学生だから兄妹で一緒に登校はしない。なので一人で学校まで歩いていく。

 そうして歩いていくうちに、友人の一人と出会ったので、声をかける。


「よっ!貴秋。今日も晴れて、いい感じだな~。あんまりいい陽気だからベッドから出るのが辛かったぜ。」

「おうっ!和範か。確かにいい陽気だなぁ。」


と声を掛け合う彼の名前は、伊庭貴秋。貴秋と和範は中学の入学から友人付き合いをしている。

 そして、二人共お互いにかなりウマが合うらしく二人の関係は親友といってよい間柄で、あまり他人と親しくしない和範が自宅へ招待した事もあるほどだ。貴秋の背は和範と同じ位の180cm、容姿は美男子といってよいだろう。しかも、上の上だ。綺麗といった感じではなく、格好良いというべきか。

 そして引き締まった体格から、スポーツ選手を髣髴させる。成績も良く、スポーツも得意。

 まさに皆のリーダー格だ。性格もカラっとしていて清々しく、その為男女問わず大人気。

 ふむ、天が二物も三物も与えたというやつだな。普通なら嫉妬するか傾倒するのだが、和範の感想は良い友人だ、というだけ。八重香が宿って以来大抵の事は冷静に受け止めてしまう。

 まあ、喋る蛇に取り付かれる事より凄い事など早々無いだろう。

 などと考えていたら、八重香が話し掛けてきた。


(なんと言うか、相変わらず完成されすぎとる男じゃのう)

(確かにな。)

(ま、妾にはお主が一番じゃからそれ程関係無いがのう。)

(ありがと、八重香)


などと八重香と心で話しつつ、貴秋とも雑談をすると言う荒業を難なくこなす和範。八重香を宿らせて以来こういう特殊な対話方法に慣れてしまっているのだ。

 そしてそんな事をしているうちに始業時間が迫っていた。


「おい、貴秋。そろそろ時間がやばくねーか?」

「うおっ!もうこんな時間か。仕方ない、走ってこうぜ。」


そして、二人は慌てて学校へと向ったのだった。




 走って向ったかいがあり、始業時間に遅れる事無く教室に入った二人。

 何人かと挨拶を交わしながら自分達に席に着く。そして、周りの何人かの友人達と雑談に興じる。最近のドラマ、音楽の話等をしていた時、ふと一人が思い出したかのように言う。


「そういや、知ってるか?最近起きてる奇妙な現象の事」


それに俺は疑問を返す。


「何だ?奇妙な現象って?」


「失踪だよ失踪事件!昨日も起きたんだってよ!」


そういや、朝のニュースでも失踪がどうとか言ってたな…でも失踪の何が妙なんだ?と、伝えると他の面々もそれに答える。


「馬鹿、お前知らないのか?ただの失踪だけじゃなくて、いきなり人前で消える事もあるらしいぜ?」


「人前でか…そりゃ手品だな」


などと冗談を言いながら、心で八重香に話してみる。


(人前で消えるなんて、何かの術かな?)

(だろうの。

 と言うかこの前この事を話題にして同じ結論に達したろうが。さては、生返事をして聞いてなかったな?)


、と薮蛇になったのでこの話は途中で打ち切る事にしたのだ。

 だがその数時間後その状況を目の前で見る事になる。

 それは、午前の授業が終わり、友人達と昼食をとった後の授業での出来事だった。




 午後一番の授業は体育だ。ただ、今日は担当教官がいないので、サッカーや野球など皆が勝手にやっていた。だが、時間が経つうちに、サッカーをやる者と、それを見学する者に別れだした。

 サッカーをやっている中に、皆のリーダー格の貴秋がいた為だ。その為、それに加わる者(主に男子)と見学する者(主に女子)に分かれたのだ。


「いけいけ~。」

「おいっ!こっちにパスを回せ。」

「ああっ!また伊庭にボールが渡ったぞ。今度こそ止めろー」

「キャー、伊庭君頑張ってぇー!」

「伊庭君行けえぇ!」


などと、盛り上がっている最中に突然八重香が心の中で大声で警告を発する。


(和範よ、何らかの力がこの場に発生しようとしておるようじゃ!気を付けよ!)


 そして、八重香の警告の直後に異変は起こった。

 なんと、貴秋の近くに光の巨大な玉が現れたかと思うと、いきなり貴秋を引きずり込み始めたのだ。そして、貴秋の体が光の中に徐々に引きずり込まれていく。

 皆があまりの事態に固まっている中、和範は貴秋に駆け寄り貴秋の手を咄嗟に掴んだ。

 っ、かなり強い力だ。貴秋の体を気遣って全力が出せない状態では、自分も引きずり込まれる!

 そう思い焦っていたら、何と貴秋の奴が和範を蹴り飛ばした。

 和範は、怒って貴秋を怒鳴りつける。


「てめえ、貴秋っ!どうして、俺を蹴り飛ばすっ!」


それに貴秋が苦笑しながら答える。


「スマンスマン。でももう俺は駄目みたいだ。なら、お前まで付き合う事はねーよ。」


その言葉を残して、貴秋は光と共に消えてしまったのだった。




 皆が呆然としていた。

 当然だろう。まさか噂話でしかなかった、人前で消える失踪者をこの目で見たのだから。

 俺は、何か手がかりはないかと辺りを見回す。

 そうしているうちに妙な感覚を覚えた。不思議に思っていると、八重香が話し掛けてきた。


(和範よ、あの小僧は多分じゃが、それ程心配はせんでも良いと思う。)

(ん?どうしてだ?)


(先の力は、対象を自身の元に呼ぶものじゃと思う。そして、先の力からは悪い感触を全く受けなんだ。おそらくじゃが、あの小僧を呼んだ者には悪意はあるまい…多分じゃがの)

(さしずめ召喚術って処か…こうなった以上相手さんが良い奴である事を願うしかないな。

それと聞いておきたいんだが、特に悪い感じはしないがさっきから感じるこの妙な感覚はなんだ?)

(おお、それを感じるのか。それは、先程の術の残滓じゃよ。)

(術の残滓、と言う事はもう術は完成してここにはこれ以上の手がかりは無いと言う事か…)

(そうなるの…送られた先もどこなのか全く分らん。普通なら方向ぐらいは分るのじゃが…)


そこで話を終えて、呆然としている皆に声をかける。


「皆、ここで何が起こったのか全く分らない。でも、人一人が消えたのは確かだ。とりあえず、先生にでも報告しよう。」


 その言葉を受けて、ようやく皆が動き出した…


 それから、教師が来たが何が出来るわけでもなく警察を呼んだ。が、結局失踪事件として扱われるようになっただけだった。ただ、警察としてきた者の中に、ただの警察では無い者達が混ざっていた…





ここで、伊庭貴秋の物語は、相馬和範の物語とは別の道を歩むようになる。彼らの道はこの先数年間交わる事は無い。「神様と紡ぐ物語」では、このまま相馬和範の話を続けよう。伊庭貴秋の話はまた別に語られるであろう。


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