第16話 単語説明その2
説明の第二段。
今回も色々な語句の説明が入ってます。
いや~真理子がいると単語の説明がいつでもできるから便利だ。
紗奈の問題が片付いたので、和範が話を本題へと戻す。
「じゃあ、本題である登録の問題へと移ろうか。真理子、説明してくれるかい?」
その和範の言を受け、真理子は軽く頷いてから話し始めた。
「では、説明させていただきます。
昨日も言いましたが、基本的に神格者や異能者は高天原への登録義務があります。
まあ、現在は異能者に関しては地元の従属組織ででも登録する事は可能です。が、神格者に関しては高天原で直接に登録しなければなりません。
これは、主様のような突発的に出る神格者を地方の従属組織では抑えられない可能性を考えての事だとか。」
その、真理子の説明の途中で、和範は気になる点を質問する。
「少し尋ねたいんだが、高天原で直接に登録せねばならないって言ったよね?
でも、昨日聞いた話だと高天原って、政府系の神格者集団なんだよね。で、政府系って事は多分東京にあるだろうから、それってもしかして態々東京まで登録しに行かないといけないって事かな?
なんかこう、遠隔地に、高天原の出先機関とかってないの?」
その質問に真理子は慌てて答える。
「あ、勿論出先機関は全国に30箇所程ありますよ。
ちなみにこの神月市にも1つありますので、すぐに登録できます。」
それを聞いて安堵する和範。そして自分の考えを独白する。
「そりゃ良かった。
旅行ならともかく、流石に登録の為だけに東京まで態々行きたくないからなー」
そして、真理子が話の続きをし始めた。
「では、続きに移らしてもらいます。
登録をしておいた方が良い理由ですが、1つはそれが身分保障になるという事です。」
「身分保障ね…想像はつくけど、一応説明をお願い。」
「はい。
登録をしておく事で、その人の身元の保証として、術士や異能者または神格者である事の証明書となる特殊な術のかかったカードが支給されます。
このカードを用いて、高天原からの依頼を受ける事が出来るようになるんです。」
依頼と聞いて、興味を覚えた和範は、真理子にその内容を尋ねる。
「ふむ、依頼か…どんなのがあるんだい?」
「一般的なのは、澱みの御払い、悪意ある妖怪・妖魔や曲霊の退治、後は先日のような犯罪異能者や術士の捕縛です。」
そして、真理子の返答に、うわ、本当にそんなのがあるんだなぁ、と半ば感心、半ば呆れを感じた和範だが、ふと、その言葉の中に、先日と言う言葉があったので、市立第三公園での出来事を言っているのだと思い、あの時の阿保男を思い出す。
和範としては、阿保男が、変態として捕まった時点で気が晴れていた為、真理子に先日の出来事を言われるまで、あの時の阿保男の事は既に忘却の彼方にあったのだが、思い出した事で、苛つきも思い出し、自然に男を馬鹿にした言い方で聞き返してしまう。
「先日のって…あの阿保男の?」
和範のあまりに先日の犯罪異能者を馬鹿にした言い方に真理子は若干引きながらも返答を行う。
「阿保男って…ま、まあ、あの男は異能者としての能力を使って色々悪事を行っていましたから…」
「ふーん。
でもあの程度の男にできる悪事なんてたかがしれてるんじゃないのか?
どう見ても小物だったし。」
「確かにそうですけど、でもだからこそ、急に普通の人間を超えた力を手に入れて暴走するんですよ。あの手の小物は…」
「その言い方だと、小物の方がやばそうな感じだけど?」
「ええ、あの手の類は、正確な知識が無いんです。あの犯罪異能者は自分と契約した神をサラマンダーと呼んでいましたが、実際にはあれは二恨坊の火と言う妖怪ですし…とにかく、正確な知識を持たない、あるいは知ろうともしないから力自体はそれ程大した事はありません。
が、その反面、突然力を手に入れた自分を神だの救世主だの、あるいは新人類だのと勘違いした挙句、世界を支配しようとしたり、意味の分らない理屈で世界を救うと言い出した挙句やってる事は単なるテロや新興宗教を立ち上げる事だったり、術が仕えない一般人を旧人類と見なしてその粛清行動に移ったりと、とにかく滅茶苦茶なんです。
あの犯罪異能者のやってた事は恐喝や傷害程度でしたが、実際にやる事がだんだんと過激化していましたし…」
と、小物な犯罪異能者や術士が力に溺れて行き着く本当にろくでもない末路を語る真理子。
それに対して、
「小物が力を手に入れるとろくな事にならないと言う見本みたいな事例だな…」
しみじみと感想を述べる和範に、真理子は更に鬱な言葉を返す。
「まあ、だからと言って切れものの犯罪者が力を手に入れるのはそれ以上の問題なんですけどね…」
「たしかにな。
まあ、それはともかく澱みや悪意ある妖怪・妖魔や曲霊っていうのはどういうものなんだい?」
話が逸れたのを自覚した和範が話を修正して、本来の話で気になっていた事を真理子に尋ねる。
そして真理子がすぐに答える。
「まず澱みとは、人や動植物の悪想念が一箇所に凝り固まったものです。
澱み自体はせいぜいそこにいる生物の生命力を削ぐ程度なのですが、放って置くと天地の気や更なる悪想念を溜め込んでゆき、最終的には擬似的な曲霊や妖魔へと変化して近くにいる生物を無差別に襲い始めますので、発見されればすぐに清める事が義務づけられているんです。
澱みを清めるのは術で簡単に清めれますし、私や主様位の実力者なら霊力を発散させるだけで清められるでしょう。
ちなみに、報酬額は依頼の中でも最低で、子供のお小遣い程度で、千円~五千円程度です。
尤も、この澱みは清めても清めても次々に湧いてくる為、実はこの澱みを清める事だけを専門にした術士も存在します。
まあ、利点は確実に稼げて危険が極端に少ない事が挙げられ、反面は報酬額がかなり低い事ですね。
ただ、十数年に一回程度、曲霊にも妖魔にもならずに大量に悪想念を溜め込んだ数百万円規模の澱みも発生します。
また、この澱みの発生は完全に把握するのは不可能な為、依頼無しでも清めの報酬が支払われます。
この時に役に立つのが支給されたカードで、澱みの規模が清める度に記憶されていき、後日しかるべき窓口に提出すると、報酬が精算されます。」
澱みに関しては大体を理解した和範は、まず澱みの話で出た曲霊に関して尋ねる。
「澱みについては大体理解したよ。次は、澱みの話の中でも出た曲霊について説明を頼むよ。」
「曲霊とは、幽霊の一種だと言えます。」
「幽霊ってあの死者の霊魂って意味のかい?」
「ええと…幽霊とは厳密には死んだ人間の霊魂や残留思念が、天地の気を纏って具現化したものを指しています。が、澱みのところでも述べた通り生者の悪想念が積み重なる事や、術によっても擬似的な幽霊が創れます。
この幽霊には1つの霊魂や残留思念で構成されているものと、思いの指向性が似ていて合一したり、曲霊に限りますが他の幽霊や生者の霊魂を捕食するなどして、複数の霊魂や残留思念で構成されているものがあります。当然後者の方が強力ですが、英雄的な行いをして人々の信仰を集めた者が死後その信仰の力で強力な幽霊になる事もある為一概にどちらが強力とは言えません。
生きている者達に恩恵を与えたり守護する霊を直霊、逆に仇なす霊を曲霊と言います。
直霊は、護国霊>英霊>精霊>善霊>守護霊の順で強く、曲霊は、祟り神>怨霊>妖霊>悪霊>死霊の順で強いです。
神格者で無い術者に対処できるのは、精霊や妖霊までとなります。
特に、祟り神や護国霊は強力な物は上級三位の神にすら匹敵します。
神同様契約をする事は可能で、神格者で無い者達は精霊や妖霊以下の幽霊をよく使役しています。
神格者も英霊や怨霊以上の幽霊を契約した神の眷属として使役する事があります。」
一般的な幽霊の観念との違いに注意しつつも、ある程度は理解したので和範は最後の説明を促す。
「じゃあ、最後に妖怪と妖魔について教えてくれないかい?」
「はい、最後の説明に移ります。妖怪と妖魔の二つに分けていますが、実は基本的にはその二つは同じものなんです。」
「そういえば、昨日の神の説明だと、神とは物語が天地の気を纏って具現化したものだと言っていたな。なら、各地に伝わる妖怪伝承からも当然妖怪、つまり神が具現化しているという事か…
いや、遥か昔は神と崇められた自然現象が時代を降るにつれて人間の自然界への支配力が強まり、妖怪へと貶められていったと言うべきか…」
「はい、主様の言うとおりです。
妖怪とは、神聖さが薄まった神の伝承だと言い換える事も出来ます。
そして、妖魔とは近代に入ってからの伝承の事で、え~と、そうですね…今の時代では都市伝説と言われている類の物の伝承の具現化とでも思ってください。
だいたい、神>妖怪>妖魔、といった力関係ですね。でもこれはあくまでも大まかなものでしかなく、妖怪の中には神として奉られていたりして下手な神よりも強力な個体は意外と多くいます。
ただ、妖怪はどんなに強くとも上級三位が限度で上級一位と二位は神だけしか存在しません。
ちなみに上級三位の妖怪は、玉藻前(白面金毛九尾の狐)や酒呑童子、崇徳大天狗といった面々がいます。
日本妖怪ではこの三体が最高峰ですね。
尤も両面宿儺のように、最初は神で後に妖怪とみなされるようになった上級三位の存在もいますから一概に三体だけと言うわけでは無いのですが…
どちらにしろ妖怪の最高位は上級三位です。」
「意外と強力な妖怪って多いんだなぁ」
「いえ、そうでもないですよ。
妖怪の種類だけでも千以上にもなりますし、しかも神と違い下級の妖怪は同一固体が複数存在します。それも多い時は同一個体が千近くも。その上、似た固体も当然別の存在として扱われますから、99%以上は下級以下の妖怪だと考えてくれれば良いです。
中級三位以上の妖怪は何らかの名前がついているために同一個体が存在せずそれ1つだけですから比較すると数は殆んどいません。
ですから、八重香様も中級二位であるいじょう、ただの蛟ではなく何らかの固有の名前をもった存在であると推察します。
尤も、蛟ではなく、竜や水蛇の可能性もありますので特定は困難ですけど…」
それを聞いた八重香は、残念そうに声を漏らす。
「ただでさえ種類自体も多いのに、更にその中から個体を特定するのは流石に難しそうじゃのう…」
それを聞いた真理子はすまなそうに答える。
「すみませんあまりお役に立てなくて…」
その真理子のすまなさそうな態度に、八重香は、態々気にかけてくれた事に礼を述べる。
「いや、妾の事を気にかけてくれてありがとうの、真理子。その気持ちだけで充分じゃよ。」
と、真理子に礼を述べながら八重香は蛇頭で真理子の頭を撫でる。それを真理子は少し照れながら受け入れたのだった。
そして、妖怪の話を大方理解した和範は残りの妖魔の話を疑問を添えて、真理子に促す。
「ああ、そういや個別の名前の無い妖怪は複数いる事があるからなぁ。とりあえず、妖怪の話はそこでおいといて、次は妖魔の話に移ろうか。
それで、妖魔は何故、妖怪より弱いんだい?
成り立ちは妖怪と似ていると思うけど?」
「それは、極端に言えばその現象に対する畏怖や畏敬の質の低さが挙げられます。
昔は説明がつかなかったゆえに大いなる畏怖や畏敬が捧げられましたが、妖魔が生まれる土壌である現代は、科学が発展してきていて、色々な現象に説明がつくようになってきましたから、畏怖や畏敬がかなり薄いんです。
とくに、最近の神話(?)は、若者達の面白半分の噂話や態々ネタとして考えられた物が殆んどですからそこから生じる妖魔は殆んどがはっきり言って雑魚そのもの。
神格者の下に異能者という分類が作られたように、最近は下級三位の下に下級四位と下級五位を新たに作るべきでは? という意見まであります。」
「確かに今やそういうものへの畏敬は廃れる傾向が特に強いからなぁ。」
「さらに、昨日も言いましたように現代は今までに生じた神達によって殆んどの天地の気が独占されている為に、天地の気が薄く、強力な神は、ほぼ確実に生じませんから…
でも、逆にそれが良くない状況にも繋がっているんですけどね。」
「良くない状況とは?」
「雑魚だからこそ、とても顕現しやすいんです。
そして、術士にとっては雑魚でも一般人にはどう足掻いても勝てない化け物ですし、その上ろくでもない設定までついていて、被害者は殆んど殺されたりする上に、不幸の手紙といったようなやつのように被害者が更なる被害者を作るような性質がかなり悪いものまで出てきて厄介なんです。」
「少し強い奴よりも、ポコポコいくらでも湧いてくる奴の方が厄介って訳か…」
「はい、一般人を守る事が一番の重要事ですから。
些少倒し難くても出る場所が特定できる奴の方が楽なんです。
尤も、そんな対処がし難い奴を次々に生んでいるのも一般の人達ですけれど…。」
しみじみと頷きあいながら登録の話も一段落したのであった。
登録の話だけ切り離した理由は次話で理由がわかります。