第13話 第一章前半部終了、単語の説明。
ようやく、色々出てきた単語を説明します。
それと、指摘があったので、文の書き方を変えてみました。読みやすくなっているといいのですが…。
主従の儀式も終わり、二人は帰路についていたが、真理子は顔を真っ赤にしたままだ。和範はそんな真理子の頭を撫でつつ、
「ん~、真理子は可愛いなぁ。」
と、ちゃかす。
それに対して、真理子は怒ったように反論する。
「は、初めてだったんですから仕方が無いじゃないですかっ!」
それに八重香も、
(あんまり真理子をからこうてやるなよ和範。接吻もした事無かった初心な小娘だったんじゃからの)
と、真理子を弁護してやる。
それに、分ったと短く答えた和範に八重香が、今後の事はどうするのかと聞いてくる。
(和範よ。真理子の事といい、術者やら神格者の事、それに高天原の事はどうする気じゃ?)
(う~ん、そこら辺は皆で話し合いたいから八重香ももう一回俺の体から出て真理子にも声が聞こえるようにしよう。)
それから、八重香は和範の外に出て、全長1.5m程の蛇として具現化した。
そして、真理子に八重香を紹介する。
「真理子、これが俺が宿している八重香だ。
どうやら本人は記憶があやふやで自分が何の神なのか分らないらしい。」
その言葉に真理子が驚いて質問をする。
「えっ! 主様が宿す神様は自分が何の神なのか分らないのですか?」
「ああ。そもそも俺達は少々の術が使える事や身体能力の上昇位しか知らないんだ。それすら日々の生活を通しての事だし…」
「でも、主様は祝詞を用いた術を使っていたじゃないですか?
術を使う時に、祝詞として「ひふみよいむなやこと」と詠い、その後に起こしたい現象の内容と操りたい属性-主様の場合は「水霊」-を述べるのは神道系の術の1つですよ。
尤も、一番一般的で簡単な祝詞ですから、少しでも術に関して知っている者ならば誰でも知っている事でもありますが…」
「あれは、妾が術の事で覚えていた事の1つなのじゃ。じゃから妾が神だというなら水に関する神だと思うんじゃが…」
それを聞いて真理子は、う~ん、と、考え込んでいた。
だが、考えが纏まったらしく真理子が、自身の推測を述べる。
「覚えていた祝詞の属性が水に関するものですから、水神の類なのは間違いないと思います。そして、見た目も考えれば蛇神系統なのは確実でしょう。それに、祝詞や言葉使いから、日本の蛇神だという事も確実です。でも、蛇神の大半は水神としての神格も有していますし、竜と蛇を混同している例もありますからどの蛇神が該当するかまでは特定は不可能です。」
その推測に対して、和範が質問をする。
「ん?蛇神や水神って、そんなに大量にいるのかい?」
「ええ。竜を除いたとしても日本の蛇神で一番有名な八岐大蛇を初めとして、蛇毒気神、闇淤加美神、沼御前など日本各地の大蛇伝説の蛇神、蛟、白蛇、みしゃぐじ様、説によっては長壁姫も該当します。
また、マイナーなものになると、蛇女房、野槌、槌の子、トウビョウ、蛇蠱、等々後は割愛しますが、挙げていけばきりがありません。」
「そんなにいるのか…じゃあ、真理子はどれが一番近いと思う?」
「八重香様は中級以上、上級未満の力の持ち主である事と、巨体でない事から個人的な意見では蛟ではないかと推測します。
尤も、中級二位の神様ですから、何らかの伝説で名を残している存在だと思いますが…」
「ふむ。そこら辺は妾の記憶が無いからなんとも言えんが、とりあえず種族だけでも蛟という事にするかのう」
「ま、いいんじゃないか?」
という事で、八重香はとりあえず、蛟の神格とする事に決まったのだった。
そして、次は本来の相談へと移る事になった。
「で、これからの事なんだけど、真理子、術とか、神とか、神格、神格者、そして高天原について教えてくれないか?」
「はい。まずは神について説明します。
神とは、各地に伝わる伝承や、物語が人々の信仰や畏怖を核として"天地の気"を纏い、肉の体を持って現実世界に具現化したものです。神は、人々の信仰や畏怖の浸透度によってまずは存在できるか、否かが決まります。これは、現在は忘れられていても、過去に信仰や畏怖が一定量に達していれば現在でも存在する事は可能です。
そして神は伝承や物語の内容、来歴によってその超常能力の幅が決まり、纏う事の出来る"天地の気"の量によってその力の総量が決まります。つまり、存在できる信仰や畏怖を持っており、複雑で様々な内容や来歴を持ち、大量の天地の気を保有している神であるほど強力な神であると言えます。
また、神は、神話体系ごとに存在する為、同一の神が別の名前で複数存在する事もあります。たとえば、悪魔ベルゼブブと神王バアル・ゼブルは同じ神を指していますが、属する神話体系が異なる為に、ベルゼブブとバアル・ゼブルが二体同時に存在する事ができるのです。尤も、現在は契約者を持たない限り、神が本来の姿と力で人前に現れる事は殆んどありません。ただ、化身や分身体の姿では比較的よく現れる為、これと契約を交わす事で、本体と契約を交わした事になります。これは、現代は過去に比べて天地の気が薄くなった為と推測されています。」
と、そこまで一気に語ってくれたが、所々分らない単語が出てきたのでそれを尋ねる。
「大体は理解したけど、細かい所が良く分らない。いくつか聞いていいかい?」
「はい。何が分りませんでしたか?」
「まず、天地の気ってなんだい?」
「天地の気は地球が自ら発する不可思議な力の事です。この天地の気は、神が肉体を持って具現化したり、術を使ったり、生物が体を動かすのに必要な力でもあります。
かつては神が常に具現化していられたり、全ての生物が術を思うだけで行使できたりする程、有り余っていました。が、時代を降るにつれ、神の数が極端に増えた為、その殆んどが神に独占されてしまっています。
現在は、神域と呼ばれる場所を除けば、かなり薄くなっています。
でも、神様達の言葉によると、地球が存在する限り、枯れる事は決して無いものだそうです。
この為、一説では天地の気は地球自身の生命波動だとも言われています。」
それに対し、理解した和範は頷きを返したのだった。
「じゃあ次は、神話体系について詳しく教えてくれないか?これは、伝承ごとにという事かい?」
「ええと、神話体系とは、日本神道、ギリシア神話、インド神話、仏教、イスラム教、キリスト教など、宗教や、国ごとに大体が分かれています。
つまり、大国主命と大己貴神のように、同じ日本神道内で別の名を持つ同一の神は余程性質が異ならない限り二体同時に具現化する事は出来ません。これは、本来は別の神であっても同一の神話体系内で習合されてしまった場合にも該当します。それに対し、ある宗教の神が別の宗教に取り込まれた場合は各々の具現化が可能です。
この宗教の区別は、国や民族によって区切られる場合もあります。
まあ、1つの国の同一宗教内で同一の神は複数具現化しないと覚えていてください。」
「大体の事は分ったよ。」
「次は、神格の話に行こうか。」
「では、神格の話に移ります。
神格とは、その神の性質や名称を指す場合と、神の実力を指す場合があります。
前者は意味そのままですので説明は省略します。後者に関しては、神の神格は、上級一位から下級三位までの幅があり、また西洋では、AAA、AA、A、BBB、BB、B、CCC、CC、Cといったランク付けが成されています。上位の神ほど数が少なく、殆んど大半の神は下級一位以下で占められています。ちなみに、上級一位の神格を持つ神は、1つの神話体系における主神クラスや大活躍する英雄神、またはその敵神の場合が多いです。何故敵神もかというと、それら敵神の多くが敵対している他民族の神話体系の主神クラスである事が多い為に、その主神クラスとほぼ同等の存在とみなされるので強力な力を持つ事が多いのです。
また、中級と下級の間には1つの壁があります。その為、定義では神に分類されていても、下級に属する神は普通は、妖怪、妖精、精霊、などと呼ばれる事が多いです。ゆえに、中級一位が上級三位に勝つ事は偶に有りますが、下級一位が中級三位に勝つ事は、奇跡が起きない限りありえません。
ただし、これは神同士の戦いの場合で、神格者同士の戦いでは千回に一回程度は勝てます。」
「千回に一回程度って…まあ、前者の勝率がそれを遥かに下回っているわけか…」
少々引きながらも、理解できたのだった。
「じゃ、神格者に移ってよ」
「神格者とは、神と契約を結んだ者達の一般的な総称です。
組織や地域によっては、半神、神の使い、神降しの巫女、使徒、聖人、天仙、超越者など様々な呼び名で呼ばれます。普通は、その神を奉る神社や、寺、教会、神殿等の一族が神と契約を結ぶ場合が多いです。例えば桂の本家では秋山之下氷壮夫と言う中級二位の秋と霜の神を受け継いでいます。ただ、これらの場合は一族以外の者と契約しないと言うだけで、一族の者なら必ず契約してくれるわけではないので、時代によっては神はいても神格者はいないと言う事もあります。
そして、神格者の特徴としては、身体能力の向上や高い直感力、術への圧倒的な耐性力、契約した神と心の中で話す事ができる、などが挙げられます。基本的に契約を結んだ神の力を振るったり、神を具現化して闘ってもらったりします。ただし、前者は持続時間は最低でも一日中、長い者は三日三晩と長いですが振るえる神の力は限定的です。後者の神の具現化は神そのものが戦うゆえに強力ですが持続時間は短い、といった感じで、どちらも一長一短です。その上、契約した神との同調率も力の出力に影響し、同調率が低いと、格下の相手に敗北する事もあります。
尤も、下級神と契約した者は、身体能力の向上は少しで、直感力を持たず、術への圧倒的な耐性力が無いので、最近では神格者とは見なされず、新たに異能者と呼ばれるものに分類されます。
両者の数の割合としては、神格者1に対して異能者100と言った所です。
ちなみに、この異能者はただの術士でも十二分に勝つ事が出来ますが、神格者は術への耐性力が圧倒的な為、ただの術士が勝つ事はまず不可能です。」
「真理子の術が俺に弾かれたのはそういうわけか…俺が神格者じゃなければ試合だけでなく勝負でも負けてたな。」
「でも、主様は以前私に術無しで勝ってます。
それに、真っ当な実戦経験が殆んど無いのにあそこまで戦えたのが驚きです。」
和範は、自身に慰めの言葉をかけてくれる真理子の頭を優しく撫でる。そして、それに浸る真理子であった。
しばし撫でられるに身を任せていた真理子だが、話の続きをするために顔を上げて、話し始める。
「次に、術とは身体の内に取り込んで術が使い易いように精錬された天地の気を用い、心の中で思い描いている現象を具現化させる方法を指します。しかし、何でも出来るわけではなく、個人の素養により出来る事と出来ない事があります。そして、具現化させる方法なのですが、祝詞を唱える、詠唱をする、印を組む、呪符を用いる、魔法陣を描く、神に祈る、神楽を舞う、など様々で術式の数だけあると言えます。
また、術を具現化させる方法と言いましたが、思い浮かべるだけでも発動します。でも、前述の行為を行った方が、効率が良くなります。
その理由なのですが、それらの行為は永年に渡って続けられていた為、神が現出するのに必要な神話同様に、術を使う為の行為そのものが、ある種の神話体系を構成しているからです。つまり、それらの行為に力があるという信仰を核にして天地の気が実体無き神を構成しているのです。その為、術を使う時に前述の術の発動を助ける動作をする事は、自身の力にその実体無き神の力を上乗せして術を発動しているとも言えます。
次に、術者は天地の気を用いて術を行使する者を指します。術はかつては誰でも使えましたが、現在は非常に多くの神が存在する事で天地の気がかなり薄くなっている為、才能ある者以外は術が使えません。また、術者としての才能の有無は、血筋による部分が大きいです。これは、術者の家系が永年に渡って術を行使し易いように体を術の行使に馴染ませていった為です。が、突発的に才能ある者が、一般の家系から出現する事もあります。そういった者は、その事実が発覚したらすぐに、神格者集団の従属組織に保護されるようになっています。これには、暴走や悪事への荷担を防ぐ意味と、戦力確保の意味があります。」
「ある程度は分ったよ。ああいう祝詞とかも人の思いによって作られた神様だったんだな…。
それから一応聞いておきたいんだけど、薄い天地の気の影響下で術が使えるって、才能が有ったとしてもおかしいんじゃないのか?」
「正確に言うなら、術者の才能とは、薄い天地の気を己が内へ取り込み、体内で術が使えるほどの力へと増幅させる事が出来る才能を指します。
増幅の仕方には、魂で増幅している、精神力で増幅している、肉体そのもので増幅しているなど諸説ありますが、術者の才能が血筋によりやすい事から、肉体増幅説が今は有力な説になっています。尤も、裏づけは有りませんが。」
「ああ、術者とはそういう才能の持ち主を指すわけね…ようやく理解できた。
それと、先程も言っていたけど、「ひふみよいむなやこと」と言うのが神道系の術では一番一般的で簡単な祝詞とはどういう事だい?」
「「ひふみよいむなやこと」この祝詞の意味は見ての通り1~10の数字を表すものなのですが、実際にはその後にも唱が続いていて、それらを「ひふみ帰神法」、と言うのです。その冒頭部分だけを述べた短詠唱の一般的なのが主様や私が使っていた術なのです。これは、この祝詞の後に操りたい属性と、その属性を用いてどんな現象を起こしたいかを述べるのが、神道系の術では最も簡単な術の詠唱になる為です。殆んどの属性の術に適用できますが、反面、それ専用の祝詞には威力、精度共に劣ります。尤も、詠唱の短さが利点としてある為、自身と相性の良い祝詞を3~10程覚えてそれ以外はこの術で補う術者が殆んどです。」
「つまり、”ひふみよいむなやこと”を用いた術は、汎用性には優れているけど、一分野だけの比較だと必ず劣っている、というわけか。」
「はい、そういう事になります。」
「そういや属性って、水霊、土霊、風霊、の3つ以外にはどんなのがあるんだい?
今までは、自分が得意としている水と、八重香に教えてもらった風と金以外の属性はあまり知らないんだよなあ。火霊と雷霊、木霊と金霊の4つは思い浮かぶけど。」
「はい、概ねはそれで合っています。が、少し訂正があります。厳密な属性を表す言葉としては雷霊と表記すべきなんでしょうけど、実際には雷属性は 厳霊( いかつち)といいます。
さらに、それらの属性には、より上位の言霊があるのです。」
「より上位の?」
「はい。
水霊には綿津見、土霊には山津見、風霊には志那都、火霊には迦具土、厳霊には甕槌、木霊には句句廼馳、金霊には経津主、が其々該当します。さらに、熟練の神格者のみが仕える言霊として、それらの言霊の冒頭に「神」の言霊をつけた術を扱う事が出来るのです。
そして、この基本となる七属性以外にも光と神炎を表す天照、闇と神嵐を表す須佐之男、月光や時そして魔を表す月読、創造を表す産巣日・産霊があります。尤も、これらの言霊は神格者の中でも更に上位の者にしか扱えないそうですが…。
あっ!それと、重要な事なのですが、其々の属性に対応した素養がないと属性そのものが扱えません。」
「ふむ、つまり其々の言霊を扱うにはまず前提条件としてその属性に対応した素養が必要となる。そして、更に上位の言霊や特殊な言霊を扱うには素養に上乗せして”神格”やその力量も必要になってくるという事かの?」
「はい、その認識で間違っていません。」
「じゃあ、最後に高天原に関して教えてくれ。」
「高天原は遥か昔は天津神系の神格者集団でしたが、今は政府に従う神格者達の集団です。日本の公的な神格者集団であり、国内の神格者や異能者の監視と統制を目的としています。基本的に神格者や異能者はこの高天原への登録義務があります。
そして、日本の7割程の術者の家系が高天原の従属組織です。まあ、術やら神様やらが関わる世界において、高天原が警察庁、従属組織が地元の警察署とでも思って下さい。
現在の高天原の首領は上級一位の天照大神の神格者たる天津紗那様です。」
「つまり、術とかが認識されている世界のお役所といった所か。モグリなんぞやってて下手に目をつけられても嫌だから登録くらいはしといた方がいいかな?」
「はい、主様は特に犯罪歴も無いですし、登録しといた方がいいと思います。
ただ、先日の一件は多少問題がありますが、私も弁護しますし、何より犯罪異能者も逃がす事無く警察に突き出しましたから少々の説教で解放されると思いますよ。」
そこまで話した時、八重香が口を挟んできた。
「まあ、今日はもう遅いし、登録は明日以降にしたらどうじゃ?」
その意見に和範も真理子も納得し、登録はまた明日に相馬家に集まって決めよう、と言う事になった。
と、そこで、和範が言い忘れていた事を思い出し、それを真理子に告げる。
「そうそう。真理子、俺と八重香の事や俺達と主従の儀式をした事は誰にも言わないようにしてくれないか?」
「ええ…別に構いませんけど。何か理由でもあるんですか?」
と、真理子は理由を尋ねてくる。尤も、承諾した後での事なので単純に理由に興味があるだけだろう。
それを察した和範は、苦笑しながら大した事じゃないけど、と断ってから理由を話し始める。
「俺は気が小さい方でね、石橋を叩いてから渡るような性格なんだ。だから、極力自分の情報は他人に知られたくないんだよ。何があるか分らないからね。
ま、それだけの事だから、そんなに気にしなくてもいいよ。」
と、真理子は信用どころか信頼すらできる相手だと認めていても、桂家の方は現時点では信頼どころか信用すらしていない事を隠して理由を述べる。
尤も、暗には仄めかしているので気付く者は気付くだろう。実際真理子も和範の意図通りそれを察して、それ以上の理由を問いただす事はせずに頷き1つを返した。
今度こそ話はそこでお終いとし、各々帰路へと着いたのだった。
登録の話しを入れても良かったのですが、登録に関しては、また別の問題も組み合わせているので後日にまわす事にしました。