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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第一章 出会い、そして羽ばたき
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第11話 二度目の戦い、後編

和範と真理子、二人の攻防は続く。

 真理子の体を覆う霜が流れるように突き出された右の拳へと全体の4割程集まる。だが、和範の方も攻撃を受ける左腕へと流れるように全体の4割程の水が集う。

 ドゴンッ!

 そして、激突。

 両者ダメージは無いが、和範は敢えて一歩引いて距離を取ろうとする。それを追いかけて距離を詰めようとする真理子だが、不意に何かを感じたのか急停止して、さらに少し下がる。すると、そのまま前に出ていれば顎に当たっていただろう小さな水弾が地面から打ち出される。普通なら当たっていたのだろうが、真理子は自身も似たような事が出来るゆえに寸前で察知して回避する事が出来た。

 だが、回避される事は予想していたのだろう、和範は既に真理子の方へと一気に踏み込み、真理子の目の前に左の手の平をかざし視界を一瞬塞ぐと同時に左のローキックを繰り出す。真理子はさらに下がる事で回避し、背中を少し見せた和範に攻撃しようとするが、和範がそのまま回転速度を上げたの感じ取ると咄嗟に身を屈める。すると、真理子の頭の上を高速で裏拳が通り過ぎていく。見ると、水がかなり集まっているから、ローキックは真理子を呼び込む為の囮なのだろう。真理子は屈んだ体を起こすばねを利用して膝蹴りを和範に入れて後方へ蹴り飛ばすが、真理子もまたその場から後方へと飛ばされる。膝蹴りを入れられ蹴り飛ばされる瞬間に和範も真理子を蹴り飛ばしていたのだ。

 両者共ダメージは同じぐらい。

 純粋な体術では真理子の方が少し上だが、和範の攻撃はその多くが次への伏線になっていたり、色々な罠が仕掛けられている為にそれが体術の差を完全に埋めてしまっていた。

 であるがゆえに戦いが続くほどに二人のダメージは蓄積されてゆく。

 だが、それを表情に出さず、二人の攻防は続いていった。





真理子が左の肘打ちを行う。だが、和範の右手によって肘打ちが受け止められると、そこから肘を起点に腕の先半分を鋭く回転させた裏拳を顔面に向って叩き込む。

 和範は咄嗟に後ろへ倒れこんで回避する。それを追撃するように真理子の右の前蹴りが放たれる。さらに転がるようにして避ける。そして、避けながら足に水霊纏鎧の3割程を集め、棍のように一気に伸ばして真理子を狙う。だが、この一撃は真理子が前蹴りから同様に棍のように伸ばしていた霜晶鎧の一撃とぶつかり相殺される。

 二人共相手を殺さぬように気を付けて戦っている。

 先の一撃が槍のように刺し貫く攻撃でなく、棍のように打突で済むようにしているのがその証拠だ。だからこそ戦いが長引いていると言っても過言では無い。

 二人共決定的な一撃は避けているので即死は無くとも、殺し合いならば出血多量でどちらかが気絶または死亡していてもおかしくない。

 だが、そうはならない。これは、二人にとってみれば殺し合いではなくただの試合、いや、何かを確認する為の儀式と言っても良いだろう。

 だからこそ二人は戦う。

 決して相手を殺してしまわぬように気をつけながら、しかしその枠内では常に全力で。

 そして、戦いは終盤へと至る。






二人の攻防が動いたのは両者共にかなりのダメージを受けた頃。ダメージの蓄積量は明らかに和範の方が多い。

 中盤までは、戦いの駆け引きで技量の差を完全に埋めていたが、戦いが進むごとに真理子に徐々に攻略されていった為だ。

 和範の戦い方に一定のパターンがあるわけでは無い。寧ろある種の癖を態と見せ、隙をついて返し技をしてくる相手に更なる返し技を浴びせるような、いわば何十にも張り巡らされた罠で相手を嵌めるのが彼の戦闘のやり方だ。それは一回の戦闘で見破るのは困難だ。

 だが、真理子は和範にとって、あらゆる意味で特別だった。

 和範の罠を事前に見破るのではなく、攻撃の一瞬前や、場合によっては攻撃の最中に直感的に見破って攻撃を変化させてくる。事前に見破っているのならそれに合わした攻撃に切り替えるだけで良いが、攻撃の寸前や最中にしかも直感的に見破ってくるから対応が難しい。

 なら、全て見破ってくる事を前提に戦えばいいのかというとそうでもない。何回かは見破れずダメージを食らう時もあるので余計に対応を困難にさせていた。

 尤も、そのダメージの喰らい方ですら極力ダメージが少なくなるようにしているので、クリーンヒットは一撃も無い。正確には、攻撃が当たりそうになる瞬間に各々の鎧の状態を平均的な状態へ瞬時に戻す為にダメージはその分緩和されるのだ。

 そうなれば当然攻撃が当たる回数が多い方のダメージが自然と大きくなる。

 そして、中盤から押され始めた和範の方がダメージが大きくなったのだ。ゆえに、このままでは手数に押し切られると判断した和範は、戦闘様式を一撃必殺の様式に切り替える。

 これは半ば博打じみた戦闘様式の為あまり使いたくないのだが、このままでは敗北が確実である以上選択の余地は無かったのだ。






和範は、腰を落とし中段正拳突きの構えをとる。今までの戦闘様式とは明かに違う、小細工無しの真っ向勝負。和範にこう出られた以上、真理子もこの真っ向勝負を受けざるを得ない。下手に避けようとしたり、返し技をしようとしても、極限まで精神集中した一撃必殺の正拳突きを喰らってしまう。

 だからといって、これが全てに有効な戦闘方法でもない。実力差が遥か上の相手にはさばきやすい攻撃でしかないし、下の相手には使う意味は無い。

 結局実力差があまり無い相手にのみ有効な方法だ。しかも、その相手にしても勝てる確率は50%程度。

 つまり半々だ。

 そもそも絶対勝てる方法などというものが無いからこそ世界には様々な格闘技や技が存在するのだ。

 その上、中段正拳突きは決して極める事が不可能ともいえる技だ。もし、中段正拳突きを極める事が出来たなら、対人戦ならその者は負ける事などまず無いだろう。

 つまりこの中段正拳突きの構えは最後の賭けに出たともいえる。

 その気迫が真理子にも伝わったのだろう真理子もまた構えを取る。

 真理子の構えは両手を重ねて前に構えた絶対防御の構え。一撃必殺の正拳を受けきる覚悟を決めたようだ。この勝負は和範が真理子の防御を貫けるか、真理子が和範の攻撃を受け止めその後の崩れた体勢の和範に止めの一撃を与えられるかの二つに絞られた。

 そして、和範が動く。

 今まで見せた踏み込みとは明らかに違うその後の防御を一切考慮せぬほど深い踏み込み。

 真理子も全神経を集中させてこれに体を反応させる。

 そして、和範の攻撃。左足を地面につけ、踵から膝へ膝から太股へそして腰へと至る一連の回転運動。そして、その回転運動を上半身へと繋げ、ぎりぎりに引き絞られた上半身をその流れに乗せる。右肩から正拳が放たれ肘の回転、手首の回転を加える。最後には上半身を半身になるまで回転させて肩を正拳突きに乗せる。そして、その流れに沿うように全身の水気を力の流れに乗せる。

 まさしく必殺の一撃。狙うのは左の鎖骨周辺。

 しかし、真理子もこれを読んでいたのか、そこに双掌をかまえ、腰を半身に落としつつ左足を少し後ろへ引き、霜を掌から地面につく足まで一直線に伸ばす。相手の一撃を極力地面へと逃がす構えだ。

 そして、

 ガイィィィィン!!

 およそ人体がぶつかった音とは程遠い、まるで金属同士をぶつけ合った音が辺りに響く。一瞬の拮抗の後真理子の左足がある地面の後ろが大きく爆ぜる。

ボコォォォオオオン!!

 これにより、力の大半を後ろに逃す事に成功した真理子は和範の正拳突きを横へと逸らし、半身を晒した和範へと祝詞による攻撃を行う。

 何か物足りない気持ちのまま…


「ひふみよいむなやこと。

秋山之下氷壮夫よ、汝の神威を持ちて、水霊の気、土霊の気を足し霜の槌とす、霜晶槌」


祝詞の詠唱後、新たな霜と霜晶鎧の霜が足し合わさり巨大な霜の塊となる。そして、真理子から逃れ様の無い一撃が放たれた。






真理子は勝ったと確信した。だが、その瞬間に彼はいきなり桁外れの力を噴出させる。そして、真理子の放った祝詞は桁外れの力を宿した彼に簡単に弾かれてしまう。

 その瞬間に真理子は気付く。

 相手の彼が神格者であった事を。しかもこの力は、真理子が属する桂家の当主桂高之助が宿す中級二位の神"秋山之下氷壮夫"と同じくらいの神威を感じる。

 そして理解する。

 彼が、彼こそが自分が仕えるべき主なのだと言う事を。自身の中にあった不明確な気持ちが確固とした形をとる。

 それは、彼への忠義であり、決意であり、覚悟であったと言う事を。そしてこの戦いはその事を真理子に理解させる為に必要な事であったと言う事を。そんな事を思いながら、真理子は術を防がれて無防備な所に一撃を受け意識を刈り取られたのであった。







此方の渾身の一撃を防がれヤバイと焦る。そして、和範は、自身の危険を自覚した瞬間に咄嗟に八重香の力を借りてしまう。

 八重香の力を借りて桁外れに上がった術への耐性力は真理子の渾身の一撃ですら容易く弾く。

 別に術を使ったわけでは無い。

 ただ力を噴出させているだけ。それだけで真理子ほどの術者の術を弾けてしまう。少々苦々しく思うが、使ってしまったものは仕方ない。真理子を殺さないように手加減を極力して攻撃を行おうとして奇妙なものを見る。

 真理子だ。

 真理子の顔は何かに納得して、それを受け入れている表情だ。

 そして、和範に対してとても真摯な感情を向けてくる。

 それを不思議に思いながらも和範は真理子の意識を刈り取るべく極力手加減した一撃を真理子の首筋へと与え、真理子を気絶させたのだった。

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