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神様と紡ぐ物語  作者: かーたろう
第一章 出会い、そして羽ばたき
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第7話 九重真理子と桂家での事情

今回は、九重真理子側からの視点です。

その日、九重真理子は焦っていた。

 先日の異能者を何としても早急に見つけ出さなくてはいけなくなったからだ。

 何故、そんなに早急に見つけなくてはならなければならないのかのわけは11日前の夜の一族の集まりにまでさかのぼる。







〈11日前の夜 桂家本家での定例会〉

その日の夜は、桂家に属する一族が全て集まる定例会の予定が入っていた。いつもは最近のこの地域の治安などに関する事や其々の家の近況に関する事を報告し、後は雑談をするだけの会だ。

 だが、この日はいつもと少々様子が異なっていた。

 今日の会に出席していた者達の約3割がニヤニヤと九重家の者達、特に真理子を見ていたからだ。これを見て、似顔絵作製に協力した後に斉藤良子から忠告された言葉を思い出す。

”今回の件を必ず本家の次男坊とその取り巻きが糾弾してくるわ。帰ったらすぐに父親の九重東吾殿に相談して今夜の定例会の対策は考えておきなさい。”

 そして、帰ってすぐに夕方の事を父に相談したのだが、対策を考える間も無く今日の定例会が早めに始められる事が伝えられたのだ。間違いなく真理子を疎んでいる本家の次男坊、桂清光と彼の取り巻きの仕業だろう。

 結局父が、何があっても全ての責は自分が負うと言って、真理子を安心させようとしたが、寧ろそんな事を言われた真理子の方は気が気でない。

 そして、九重家の報告の番になった時、報告に清光が割って入る。


「九重家の報告に入る前に、皆様方に大変残念な報告をせねばなりません。

 先日、犯罪を犯した異能者の捕獲の命令が九重真理子さんに下されていたのは皆様ご存知でしょう。

 そして、今日の夕方にその捕獲が実行されたのですが、その結果は大変無様なものであり、我が栄えある桂家の名前に泥を塗りこむものでした。」


ここまで清光が言った時、たまりかねた東吾が反論する。


「お待ちいただきたい、清光殿。

 犯罪異能者は命令通り逮捕されたはずですぞ。」


この反論は予想していたのか清光は余裕の表情で言い直す。


「そう言えばそうでしたね。

 失礼。

あまりにも過程が無様だった為に結果までそうだと勘違いしてました。」


この痛烈な皮肉には東吾も黙らざるを得なかった。それを見て嘲笑の笑みを向けた後話を続ける。


「確かに、犯罪異能者は捕まりましたが、九重真理子さんはその場に居合わせた別の異能者によって失神に追いやられ、あげくその異能者によって全裸にされた犯罪異能者を自身の上に放置された後、警察に『裸の男が少年(・・)を追い掛け回している』と通報され警察はおろか一般の住民や学生にまで無様な失神した姿を晒していたとか」


それを初めて知った他の一族の者達が真理子の方を見ながらヒソヒソと囁きあう。

 侮蔑が4割、同情が6割と言った所か。それに対し、事実であるがゆえに何も反論できずに真理子は俯いて歯をくいしばっていた。

 だが、反論する者が1人出た。


「清光兄ぃっ!

 言いすぎだぞっ!

俺の真理子をこれ以上虐めるんなら兄貴と言えど容赦しねえぞっ!」


本家の馬鹿三男坊こと桂春人だった。

真理子は咄嗟に私はあんたのものじゃないっ! と言いかけるが、先に清光が割って入る。


「おや、そうですね。すみません春人。お前の愛しい恋人を侮辱して。

 しかし、真理子さんが失態を犯したのもまた事実ですし、これを放置したままでは桂家の面子は潰れたままですよ?」


その反論に術者としての実力は高いが頭は悪い春人は、うっ! っと押し黙る。

真理子は、ふざけるなっ!と、叫びたいのを懸命に堪える。

 それを見て取った後清光はさも名案が浮かんだとばかりに自身の考えを皆に披露する。


「おおっ!そうだ。こうすれば良いんですよ春人。

 とりあえず、その異能者は桂家の誇りに掛けて私が必ず見つけ出しましょう。それで多少なりとも桂家の面子は回復します。

 そして、今回の件で彼女に桂家の任を任すのは荷が重かったと判断し彼女には家庭に入ってもらうのです。

 また、真理子さんはこれから心無い者達に責められるでしょうから、その攻撃からお前が夫として守ってあげるのです。

 お前も今回の件でこのままでは彼女が酷い目にあう可能性がある事も分ったし丁度良いでしょう?」


などと、清光は強引で理屈の通らぬ意見を堂々と言う。

 だが、春人は大喜びでこの意見に飛びつく。


「当ったり前だぜ。

 俺の真理子を虐める奴は俺がぶち殺してやらぁ!」


ここで、このままではあの馬鹿と結婚させられてしまうと、慌てて真理子が意見を述べる。


「ま、待ってください。

 私に汚名返上の機会をお与え下さいっ!」


娘の意見に東吾も追随する。


「娘の失態は私の失態でもあります。

 私も娘に協力したく思います。」


だが、この意見を嘲笑いながら清光は却下する。


「冗談は寝ている時だけにして下さい九重家の皆さん。これ以上桂家の家名に貴方達は泥を塗りたいのですか?」


だが、それに対して別人から反論が起こる。

 それは、斉藤良子だった。


「清光殿、真理子殿がしてやられたのは予想外の事態が重なった為です。

 1つは予定外の異能者の存在。

 1つはその異能者が共闘していた相手も巻き込んで攻撃を仕掛けてきた事。

 そして、何より今回の件は桂家のバックアップがまるでありませんでした。

 ここまでの不測事態が重なっては任務の過程での失態には目を瞑ってもやむなしかと。」


その意見に清光は唾を飛ばして反論する。


「そんな不測事態に対処できてこそ、1人前の桂家の術者でしょうにっ!」


だが、良子は涼しい顔で反論する。


「確かにそうでしょうが、それは、毎回完全な協力を得た上での仕事しか行った事が無い者が言うべき言葉ではありません。

 それに、今回の件で不自然なまでに他の者のバックアップが無かったのも少々解せませんし…」


この痛烈な皮肉に青筋を立てて清光は良子を睨む。

 そう、真理子が一人で事件の処理に当たっていたのは清光が裏から手を回して他の者の助力が得られないようにお膳立てをしていた為だ。その事を見透かすような意見と、清光が事に当たる際には最低でも5人もの補佐役がついている事へのあてつけを大勢の前であげつらわれて、それほど高くない清光の忍耐力はあっさりと限界点を迎えた。

 そして、大声で良子に対して怒鳴り散らす寸前、桂家当主たる桂高之助が意見を述べる。


「両者共口を閉じよ。今回の件、私が判断を下す。

 異論は無いな?」


と、いって二人だけでなく広間の全員を見回す。

 そこから放たれる威圧感に皆が一瞬で固まる。それを見て取り話を続けた。


「今回の件、九重家に汚名返上の機会を与える。

 期限は15日後の定例会までだ。これでこの件は終りだ。

 次に移れ。」


この裁定に清光は悔しげなうめきを漏らすが、当主たる父が裁定を下した以上どうしようもない。せめて調査妨害でもするかと思案していたが、それを見透かしたように父と兄の桂高志に睨まれる。

 その目は、余計な事をするなと明確に物語っており、清光は、仕方なくおとなしくする事を決めたのであった。

 それとは反対に、期限付きとはいえ汚名返上の機会を得られた真理子と東吾は極力早くに今回の件を片付けて清光の追求を抑えようと決めたのだった。

 それから後は特に何事も無く過ぎていった。




そして、定例会が終り皆が殆んど帰った後も、5人ほどが密かに残っていた。

 高之助、良子、高志、東吾、真理子の5人であった。誰もいなくなった事を見て取り、彼らはようやく口を開き始める。

 まず、東吾と真理子が、


「当主様、今回の失態に対する寛大な処分、真に有難うございます。」

「娘同様、私からもお礼を述べさせていただきます。

 真、有難うございます。」


それに対し、高之助は気にするなと鷹揚に返し、返答する。


「清光の奴こそすまなかったな…私もこの件は仕方が無かったと思うが、皆の手前完全な不問にするわけにもいかなくてな…」


高之助は、できれば不問にしたかったし、真理子ほどの術者を我が息子とはいえ馬鹿の春人に嫁がせる気はまるで無かった。

 彼女にはできれば婿養子を取らせ、次代の九重家の当主として現場に従事してもらいたいと考えていたのだ。

 同様に考えていた高志も口を開く。


「真理子君の才能は貴重だ。こんな事くらいで現場から遠ざけるのは惜しい。」


そして、高志の恋人であり、真理子の先輩として色々面倒を見てくれている良子も励ましてくる。


「幸い相手の顔は分っているんだから15日あれば何とかなるわよ。」


そんな感じで皆に励まされ、真理子は何としても例の異能者を見つけ出そうと決心したのだった。







そして異能者の捜査に取り組んだ。

 が、最初の誤算は自分との縁を利用した人探しの術に相手が全く反応しない事だ。どうやら相手は術への対策を施しているらしい。ならばと、似顔絵からの捜査に取り掛かるが、それから10日過ぎた現在でも異能者の情報は全く上がってこない。

 良子は、偶々県外から来てたのかもしれないと言い、5日前からネット上で懸賞金を掛けて似顔絵を公開したが、そちらも何の情報も無い。

 期限まで今日を含めて5日しかない。このままでは春人と結婚させられてしまう。

 それに、自分の失態に対して色々と手助けしたり庇ってくれた人達に申し訳が立たない。

 そんな事を考えながら、焦っていた真理子は一心不乱に3日ほど前から公園の周囲を意味も無く歩き回った。

 これは、真理子がかなり焦っていた為だろう。だが、運命は真理子に微笑んだ。歩き回っていた真理子が住宅街までいつのまにか入り込んでいた時、彼らは再び出会ったのだ。

相馬和範と九重真理子、二人の本格的な出会いへと場面が移行してゆきます。今まで出てきた単語に関してはもう少しお待ちください。それより、随分早いネタばらしになりますが、プロローグ2で意味ありげに光の中へ消えた伊庭貴秋、彼は異世界へと迷い込んでいますので、この"神様と紡ぐ物語"では今後とも登場しません。彼は彼でまた別の物語で語っていこうと思います。ちなみに此方は"お約束"な展開にしようと思っていますが…。それと二人が再開するのは今からさらに3年後ぐらいになります。

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