プロローグ1
その日、ある神社で遊んでいた少年は、不思議な蛇に出会った。
その蛇は、大きさには、特に変わった処は無い。だが、姿がとても美しく、そして妙に存在感があって目を離す事が出来なかったのだ。
御互いに暫く見つめ合っていたが、飽きたのか蛇が他所へと移動し始めた。だが、まだ蛇と共にいたかった少年はとっさに蛇を引き止めようと声をかける。
「まって、綺麗な蛇さん!!」
そこで少年は、蛇に言葉が判るわけないと、考えて自分を少し恥じる。が、驚くべき事はその直後に起こった。
「妾になんぞ用かの坊や?」
なんと、蛇が喋ったのだ。少年はひどく驚いた。が、その一方で、ひどく納得もしていた。
(こんなに綺麗で存在感のある蛇さんなら喋れても不思議じゃないや…)
そして少年は、自分が望んでいる事を、蛇に告げる。
「あの、そのう…ぼ、僕と少しお話ししてくれませんか!」
その言葉に蛇は、笑いながら答える。
「ふふふ、面白い坊やじゃの。普通は蛇に話し掛けられれば悲鳴をあげたりするじゃろうに。
真顔で、しかも妾を口説くように話し掛けてきたのは坊やが初めてじゃ。
よかろう、坊やの話し相手をしてやろう。」
少年は、大喜びで色々な事を話し始める。自分の事、学校の事、家族の事、友達や近所の遊び場など、蛇と少しでも長く話をしていたかった為、何でも話した。
……………
そして、時間は瞬く間に過ぎてゆき、日が暮れ始める。
「そろそろ夕暮れじゃ。楽しかったが、坊やとの話も、ここでお仕舞いじゃの。」
少年は、まだまだ話をしていたかったが、流石に家族を心配させるわけにはいかず、話を終らそうとするが、まだ自分が名前を名乗っておらず、また蛇の名前も知らない事に気付く。そして、それを最後の話にしようと蛇に問い掛ける。
「うん、もう終わりにするよ。あっ!そうだ、まだ名前を教えていなかったね、僕の名前は相馬和範というんだ。蛇さんの名前はなんていうの?」
だが、和範少年の問いかけに対する蛇の答えは和範少年を驚かせる。
「妾の名前か…ふむ、そういえば妾の名前は何じゃったかのう…よく思い出せんのう」
「蛇さん名前が分らないの?」
「名前がある事は分るのじゃが、どんな名前かまでは思い出せん。」
「それは困ったね…」
二人して悩みだす。が、そこで蛇がとんでもない事を言い出した。
「そうじゃ!ここまで付き合ったのも何かの縁じゃ。坊やが妾の名前を決めてくれんか?」
「ええっ! ぼ、僕がっ!?」
「うむ! 坊やにじゃ」
「そ、それじゃあ…う~ん、どんなのが良いかなあ」
和範少年は悩んだ。悩んで悩んで悩みぬいた。
そんな和範少年を見かねた蛇が助け舟を出す。
「勘や感覚でよいぞ。何となく妾に合うような名前でよいのじゃ。」
蛇の助言から和範少年は、蛇からの雰囲気を感じ取ろうとする。
と、ふいに頭に名前が浮かんできた。
「八重香。蛇さんの名前は八重香だ」
「ふむ、八重香か。よい名じゃ。
妾の名前は八重香にしよう。」
だが、ここで和範少年と蛇の双方に思わぬ事態が発生した。
二人の体がぼんやりと輝きだしたかと思うと、二人の胸の辺りから光の紐のような物が出て、絡み合い、結ばれたのだ。しかも事態はそれだけでは終らずに、八重香がいきなり消えたのだ。驚いた和範少年は八重香を求めて大声を出す。
「八重香さ~ん!!どこにいるの~!!」
そしてその答えは思いもよらぬところからもたらされる。
「坊や、坊や、妾じゃ!八重香じゃ!」
なんと和範少年の頭の中から慌てた八重香の声が響いてくるではないか!!
和範少年は驚いて八重香に問い返す。
「ええっ~!!どうして、僕の頭の中から八重香さんの声が聞こえるのぉ~!!」
その問いに落ち着いたのか八重香が静かな声で答える。
「ふむ、理由はわからんが、どうやら妾は坊やの身の内に取り込まれたようじゃ。」
その言葉に和範少年は絶叫した。
「え、ええっ~!!!」
こうしてこの日から相馬和範と、不思議な蛇、八重香との奇妙な共同生活が始まったのだった。
初めての投稿です。もしよろしければ、今後とも読んでいただけると幸いです。