表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
試練場狂詩曲  作者: 高橋太郎
小っさい爺さん
9/12

その5

「えっと、初めての九層に(いど)むことになりまして、色々な方から聞いた定番通り、直通昇降機(エレベーター)を降りてすぐにある玄室に挑むことにしていたんですけれど、敵の姿がなかったんです。ですから、そのまま帰るのもどうかという話になって、軽く九層を偵察してみようという話になって、昇降機から出たばかりの通路を探索して、開けたところに出たと思ったらあたり一面怪物に(あふ)れていて、慌てて元来た道を戻ろうとしたら、雪崩(なだれ)のように(おそ)()かられて、敵を倒しながら少しずつ後退していたところを全滅寸前のところで助けて貰いました」

 メイさんの発言を聞いた上で、爺様は僕に目線をやってきたので、

「僕らが九層に降りたって、最初の玄室に入ったら敵が居たのでいつも通りに駆逐(くちく)して、そこからどうしたものかと相談しているときに、とんでもない気配を感じまして、通路を見て見たら大量の敵に押し込まれている彼女たちが今まさに全滅しそうな状況だったので、次は僕らに雪崩れ込んでくると素早く勘案(かんあん)して、(あわ)てて死んでいる彼女の仲間を上手いこと玄室に(たた)き込みながら応戦し、何とか玄室の部屋を閉め切る頃には運悪くこちらの徒党も半壊したってところですかね。お互いの徒党員の死体を何とか最下層に通じる非常口(シュート)に叩き落として、最下層にある地上に繋がる転移の罠(テレポーター)に全員運び込んで脱出完了と云った感じですわ。なるべくなら二度とやりたくない経験でしたねえ」

 と、こちらの事情も説明します。

 そして、熟々(つらつら)と話しているうちに、ふと気が付くことがありました。

 メイさんの徒党が何故最初の玄室で敵と遭遇しなかったのか、様子見をしに行った先で見た事もないような怪物の群れというか(かたまり)出会(でくわ)す確立ってどんなものなんですかね? その上、怪物が再配備(リポップ)された玄室で戦い終わった僕らの元まで逃げ込んでくるとなると更にどうでしょう?

 偶然で片付けられますが、何やらきな(くさ)さも覚えます。

 ええ、目の前の御老体も多分そう考えたんでしょうかね。

 少しばかり顔付きが変わった気がします。

「お前さん、司教にはなったばかりだな?」

「ええ、まあ。一系統の術式を全て習得したので、転職のしどきかな、と考えましてね」

 案の定、僕が一度転職していることにこの爺さんは気が付いていました。

 冒険者は幾つかある職のうちの一つに就いているものです。

 余程能力の長けている者でもない限り、最初は自分の能力に見合った基本職から始める者です。まあ、今、隣に、生まれたときから君主になるための修行に明け暮れて君主になった特殊例の方がいるわけですが、その話は()えて置いておきます。

 まあ、転職には最大の欠点(デメリット)、一から全てをやり直すこと、がある訳ですが。その上、本来ならば長年学び身に付ける事を短期間で習得するのがこの都市における訓練所での転職となります。ええ、どういう仕組みかまでは分かりませんが、肉体に相応(そうおう)負担(ふたん)をかけることでその時間を短縮させています。代償(だいしょう)としては、肉体年齢が少しばかり本来の年齢よりも早まることになります。うん、()けるんだ。それを嫌って転職しない冒険者もいるわけですね。

 それでも転職する冒険者が後を()たないのは、状況次第ではそれを上回る利点(メリット)がある訳です。

 基本職である戦士から、上位職の侍や君主に転職した場合は、戦士では装備できなかった武具などによる戦力強化や、侍ならば精神修養の一つとして覚えることとなる魔術師系統の呪文(スペル)、君主ならば僧侶と同じ働きもできる様になります。

 付け加えれば、転職してもかつて覚えた経験を全て失うわけではありません。

 たとえば、呪文。一つの系統に第一階梯から第七階梯まである呪文を忘れることなく、転職した職でも使うことはできます。ただし、使用回数は本職に劣りますので、熟達(じゅくたつ)した本来の使い手たちには敵いません。

 魔術師と僧侶系の呪文を使いこなせる司教ですが、全てを覚えるには莫大(ばくだい)修練(しゅうれん)が必要となります。魔術師や僧侶が全ての呪文を覚えるよりも圧倒的に手間暇をかける必要があります。

 そこで、いずれかの呪文を習得しきった後で司教に転職することにより、呪文を全て覚えきるまでかつて覚えた呪文を使うことで戦力の低下を防ぐ方法もある訳です。

 最初から司教として修練を積むと、魔術師や僧侶が全ての呪文を覚えたあたりで戦力格差が酷い事になりますからねえ。迷宮で見つかる、未鑑定の物品(アイテム)鑑定(かんてい)できる唯一の職とは言え、かなり肩身が(せま)いことに変わりはありません。

 だからこそ、先にいずれかの呪文を覚えきってから、司教になるのは良くある方法というわけです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ