その4
「ふぅん」
半信半疑と言った表情でおっさんは矛を収めてくれました。
悪の徒党の中には、迷宮内で会う存在全てを敵と見なし、同じ冒険者でも全滅させて戦利品を剥ぐような輩もいます。
僕たちはそれを時間の無駄と判断して遣っていないだけですからね。何せ、この試練場に潜る冒険者の装備品など、足が付きやすいことこの上ないので売るための筋を持っていても足元見られまくりです。
ぶっちゃけ、それなら迷宮の怪物共をぶっ殺し、戦利品を巻き上げていた方が時間効率も自分の腕を磨くにもマシというものです。正直、同業者殴ってもそこまで良い経験になりませんからねえ。格上殴るなら兎も角。ええ、格上相手なら奇襲しかけても負ける可能性高いんで、本当に割が合いません。
それに、この街の迷宮は試練場という二つ名がある通り、ある意味で狂王様に管理されています。帰って来ない徒党と同じ時期に潜っていた徒党を調べ上げ、同業者殺しをしたかしないかを探るなど朝飯前でしょう。浅い階層を潜っている実力が足りないと問うなら兎も角、最下層近くをね、潜っている徒党は狂王様がじっとその一挙手一投足を観察していると言っても良い。何せ、迷宮で腕を上げた手練を欲していますからね、狂王様。有望株を潰すような手癖が悪い臣下は求めていません。
偶に、偶にです、そこら辺を理解していない莫迦が何か最下層まで到達するときもありまして、やらかすんですよねえ、色々と。
狂王様も大変だ。
ま、そんなこんながあること分かっている身としては、無駄なことに時間をかけるのは好みではないのです。悪の司教ですから。
「なんじゃあ、騒がしいの」
「おう、帰ってきたか、爺さん。客だぜ」
見た瞬間、はっきりと気が付きました。
あ、これヤバい奴だって。
一応、これでも冒険者としてそれなりにやって来たんで、色々と実力者を見てきています。練達者の忍者やら君主やら侍だとていかなる者かを見てきているのです。
その僕が、初見で何ら凄さを感じない。そこら辺の小人族の爺さんにしか見えない、だけど、何か違和感らしきものは覚える。
そして、この感覚の正体を僕は知っています。あちらが実力を隠しているのは何となく違和感であたりはつくけど、実力に格段の差がありすぎてこちらが向こうを推し量れない状況です。
いや、経験は重要ですね。そんな状況に出会すのは勘弁ですけど。
しかしながら、推定とんでもない手練がこんなところで隠れているなら、それとなく噂が流れていてもおかしくないのに、偶然知り合った徒党から情報が流れてこなかったら一生知る由もなかったって言うのも何か怖ろしいものを感じますねえ。
「あの、貴方がミスティの云っていた小っさい爺様でよろしいのでしょうか?」
「ふん、あの小娘の知り合いか。なんじゃ、儂にようかいの」
「はい。私、メイと申しますの。徒党の長ですわ」
「聞いとる、聞いとるわ。小娘の云っていた姫様であろう? 小娘自身が来ないということは死んだか?」
「はい、私以外徒党が全滅しました」
「成程な。それで、そこの小童はお主の仲間ではない、と?」
目線で話を促されたようだったので、
「彼女たちの徒党が逃げ込んできたので、結果的に助けただけですよ。まあ、御陰でうちの徒党も半壊することになりましたが、助けていなければ共倒れになったでしょうから必要経費だったと諦めていますね」
と、正直なところを答えました。
「悪の徒党がか?」
「まあ、うちは変わり者ばかりでして。迷宮の踏破にはちっとも興味がなく、金か自分の強さにしか興味がない連中なので、大量の怪物が襲撃してきたら、嬉々として殴りつけるような大馬鹿者揃いだったんですよ。その際に助けた相手が善の徒党であろうとも、ちっとも気にしない奴らでした」
「成程、珍しくはあるが、全く見ないわけではない方針の仲間を集めたようだな。それを云いに来ただけか?」
「蘇生費用を稼ぎたいのですが、盗賊系の冒険者に心当たりがないのです。ミスティが腕を磨くために師事していると聞いていた方ならば、手助けか他の当てを教えてくれないものかと思いまいりました」
「……関係無い、帰れと云いたいところじゃが……あの小娘まで死んでいるならば少し話は変わる、かの。お主らの徒党は九層に挑むと聞いていたが、どこで壊滅したのだ?」
何故か僕の方をちらりと見てから、爺さんはメイさんに尋ねます。
……もしかして、僕らのことをそれなりに知っているのか、この爺さん?
今の僕は故あって冒険者としての実力が低くなっていますから、僕だけを見て僕らの徒党の実力を量ることは不可能なはずです。他に何らかの判断材料でもなければ、敢えて九層という言葉を口にしないはず……。




