表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
試練場狂詩曲  作者: 高橋太郎
小っさい爺さん
7/12

その3

「何も無いところだがゆっくりしていきな。まあ、()()う話じゃねえかも知れないけどよ」

 おっさんの言う通り、本当に何にも無いところでした。

 良く言って見廻りの()め所です。

 まあ、墓守も見廻りである以上、そうなるのは当然なんですが、()まりとかそういうことを一切(いっさい)合切(がっさい)考慮(こうりょ)していない大きな(つくえ)簡易(かんい)椅子(いす)だけが置かれた部屋と言いますか……、ここで生活しろと言われたら流石にドン引きするなあ。通いで、交代制なんでしょうが、それでも流石にねえ。

 とは言え、そうなる理由も分かります。

 寺院裏のこの墓地、基本的に寺院での蘇生が失敗したり、蘇生を(あきら)めた冒険者用なのです。

 冒険者は死と(とな)り合わせの稼業(かぎょう)、どんなに優れた練達者(マスター)(いた)った者ですら、状況次第ではあっさりと死にます。

 一般人と違い、(きた)え上げた肉体や(たましい)外傷(がいしょう)で死んだ程度ならば、神々の奇跡(きせき)にて蘇る場合もあります。熟達(じゅくたつ)した僧侶系呪文の使い手や、寺院で高いお布施(ふせ)を積めばまだ蘇る可能性は大ありなのです。

 逆を言えば、それだけまだ活力が(あふ)れている死体を放置しておくと何らかの影響で不死者(アンデッド)として人々に害を()す場合があります。

 自然発生的に不死者になることはまずありませんが、悪意を持った者が墓荒らしをし、遺体(いたい)を不死者の材料にする事案も考えられます。その場合は、(すぐ)れた能力をした不死者が(つく)り出される可能性が大です。何せ、素材が優秀ですからね、余程へっぽこな術者でもない限り、とんでもないバケモノが街中で生まれることとなります。

 当然、この街を統治する狂王様がそれを望むわけもなく、冒険者を埋葬(まいそう)する墓地を監視しやすい場所に設置し、誰からも(あや)しまれないようにそれとなく監視要員を配置するのも当然の帰結(きけつ)です。

 要するに、このおっさんも少なくとも只人(ただびと)ではないはずなのです。

 ただ、練達者には及ばないだけで、不埒者が墓地に闖入(ちんにゅう)してきたとしても、増援(ぞうえん)が来るまでの足止めやら伝達をする程度の腕は持っているでしょう。

 練達者に一歩(およ)んで居なさそうなメイさんや、今の僕では敵対された場合、ちょっと荷が重いかなあ、程度の腕と見受けています。

 まあ、二人がかりなら確実に取れるんですけどね、連携(れんけい)できれば。

 あちらさんもそれは承知の上でしょうし、多分、ミスティさんがそれなりに良い関係を(きず)いてくれていたのでしょう。割合友好的な態度を取ってくれていますからねえ。

 実際、本人ではなく、(うわさ)として聞いていた仲間が来た時点で何かが起きていること自体は(さっ)しているでしょう。まだ、埋葬される状況にはないだけ、ぐらいには。墓守ですからね、流石に埋葬されたなら気が付かれますしね。

「で、そっちの兄さんは話にも聞いたことないんだが?」

 胡散(うさん)(くさ)そうに僕の方をおっさんが見てきますが、そりゃそうだな、としか言い(よう)がない。

 僕だってこの状況なら然う言いますわ。

「えっと、色々あって、助けて貰ったんです」

 言葉を(にご)しながら、メイさんは助け船を入れてくれます。

 流石は善の君主、人を(うたが)うことなく助けてくれますね。

「ええ、まあ、何と云いますかね。彼女たちの徒党が巻き込まれていた厄介(やっかい)事に迷宮で巻き込まれまして。(そで)()れ合うも多生(たしょう)(えん)、我々も生き残るために手助けした次第ですよ」

「悪の徒党がか?」

 まあ、おっさんが疑うのも分かります。

 僕、悪の司教ですからねえ。普通は迷宮内で他の徒党の危機を救うこと何てしません、普通の悪の徒党なら。

「そこは彼女の徒党の運が良かったんでしょうね。僕の徒党、迷宮のナマモノ以外には興味がないんで。他の徒党を(おそ)ったところで時間の無駄、確かにあの時は見捨てても良かったんですが、迷宮内で尻尾(しっぽ)巻いてケツを(まく)るのは僕たちの流儀(りゅうぎ)じゃなかったんで、結果的に助太刀した形になったんですよ。ま、御陰(おかげ)で僕たちも少なからぬ犠牲(ぎせい)を出したので、一時的に協力し合うという話が(まと)まっただけです」

 どうせ、狂王様の配下なら、回り回って僕らの話など回ってくるわけですから、最初から嘘をつかずに正直な話をしておいた方が得策というものです。友好的ではないにしろ、中立の立場を取ってくれるようになれば有り(がた)いですからねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ