その4
「えっと、一応うちの倉庫番やっている娘が然う云うの得意だと思います」
こちらの考えを知ってか知らずか、素直に女君主は身内の売り込みをしてきます。
うーん、とても善人、個人的には好感を持ちます。
ええ、僕らが女盗賊って存在に古傷がなければ、ですけど。
「ふむ……。するとやはり、互いの徒党の倉庫番を最初に蘇らせるが正解かな。現状の戦力的にも先ずはそちらの倉庫番からか。問題は、その資金を稼ぐ為にも盗賊系の助っ人が欲しいという話なんだが……心当たり居る人?」
まあ、そうは言ってもね、勿体ぶるほどの問題でもないし、この場合の状況からお互いの金庫番を最優先にすると言うこと自体は当然の流れなので、却下する理由もないので素直にそこは認めておきます。
ただ、現状蘇らすための資金に足りない以上、迷宮を探索して資金を稼ぐという事を主眼にするなら必須である盗賊仕事ができる人材を緊急に必要なのは間違いないので、意見を募るわけです。
「頭に心当たりないならないにゃあ」
トーハチのセリフにスカーレットも頷いた。
まあ、そうでしょうね。君たちが徒党に相応しい人材を推挙してきたこと一切ないものね。人付き合いに問題ないのか、おいちゃん心配よ?
「そうなると、こちらは見事にないって話ですね。そちらは?」
お手上げとばかりの僕に対し、
「えーっと、私自身にはないのですが、倉庫番をしていた娘から腕利きが居るという話を聞いたことがあります」
と、遠慮がちに女君主は告げてきます。
良いじゃないですか、最悪、今から右も左も分からない初心者を育て上げる覚悟をしていた僕にすれば、蜘蛛の糸であろうと朗報です。
「それが誰でどこに居るかは?」
「はい、聞いています。ただ……手伝って戴けるかは分かりません」
前のめりに食いつきの良い僕に対して申し訳なさそうに女君主は答えてくれました。何事も無条件にウマい話は無いものですね、知ってた。
「……まあ、何もしないよりはその方に声を掛けた方が良さそうだね。後は暇そうな盗賊仕事できる職業の冒険者がいないかどうかを酒場で探すしかないか」
落胆を隠せない儘、僕はとりあえずの方針を打ち出しました。
徒党壊滅時に役割分担が上手く行かないのは良く理解していますが、資金稼ぎという一点においては絶対に必要な盗賊役が全く居ないというこの不具合は流石に落胆もするわよ。
「術者は?」
僕の言葉に対し、スカーレットが短く尋ねて来ます。
「居れば良いけど……居ると思う? そんな都合の良い人材が?」
少しばかり悩んでから、
「……多分無理」
と、スカーレットは答えた。
そりゃあねえ、盗賊役より数少ないからねえ、術者って。
この“試練場”も、狂王様が術者を一人でも多く育成するために作られたのではと言う与太話が出回るぐらいですし。
我々と同格の実力を持った暇な冒険者なんて、そうそう居る訳無いんですよ、知ってますよ、ああ、知ってますとも。それでも必要なんだから、無い物ねだりぐらいしますわ。
なんで毎回毎回、僕がこんな苦労せんといかんのだ。
いや、それでも今回は運が良い、良いんだ。
徒党が崩壊したわけでもなし、仲間の死体を回収するために手練を準備する必要もない。
音楽性の違いで抜けたり追放した穴を埋める必要がないんだから、問題は蘇生費用だけなんだ。
自分を言い聞かせるように思考を誘導しても、これまでの素敵な想い出が腸を煮え返しますが、大丈夫、問題ない、ないんだよ?
「ですよねえ。まあ、最悪、怪物配備広場を何とか出来る面子は揃っているので、そこで資金稼ぎすれば倉庫番ぐらいは蘇らせられるでしょう。……些か間抜けな質問させて貰いますが、当然、怪物配備広場は自力で突破されていますよね?」
嫌なことを思いだした所為で煮えたぎるような内心をおくびにも出さずに、話を進めようとする僕の忍耐力を褒め称えて欲しいです。当然、心を読める者など居る訳がありません。むしろ、居たら怖いので勘弁して欲しいですねえ。
脳内の与太話を大急ぎで片隅に追いやり、いかなる茶々を入れずに兎に角話の進行に集中します。何と言っても、目の前の女君主はどういう相手かよく知らないですし、あっちもこっちをよく知りませんからね。協力の約束を取り付けたのに、それを解消しようとするような真似は出来ません。我々より力量が落ちるとは言え、それ相応の腕の君主ともなれば、条件さえ無ければ欲しい徒党なぞ選り取り見取りですしねえ。この状況下では逃がしゃしねえよ。絶対だ!
「はい。かなりきつかったですけど、徒党員のみんなの頑張りで何とか」
それを聞き、僕は大きく両手を叩いてから、
「ならばヨシ! 方針は決まりました。明日から行動を開始できるように、今出来る準備はさっさと終わらせましょう」
と、話を締めました。
とりあえず、女君主の心当たりが快く協力してくれると嬉しいんですけどねえ。
快くじゃなくても良い、こっちが問題なく出せる代償で手伝ってくれるなら万々歳なんだ。
祈るような気持ちで、まだ見ぬ相手が何とか協力してくれないものかと思いを馳せるのでした。
ええ、まあ、僕、一応、司教だから神頼みして当然の人間なんですけどね、えへへ。