その2
「……それで、これからどうするの?」
最後の一人が僕に話し掛けてきます。
森妖精の巫女騎士、スカーレットと名乗っていますが、多分偽名じゃないかなあ、と思っています。
僕にとって一番古い仲間であり、全幅の信用も信頼もしているんですが、ある一点の疑念から気心が知れているとまでは言い切れません。
いや、流石にそれは多分、考え過ぎだと思うんですけど……神話生物の可能性を否定できないんですよねえ。本当だったらマジ厄過ぎる……。もしそうなら、関わり合いたくないけど、その可能性は低いというか、今や滅多にないと知っているだけに困る。
でも、ほんの少しでも可能性が在る限り、彼女が僕に向ける感情を受け止められない。マジ辛い……。
「さて、どうしますかね。聞いたところ、彼女の徒党も、我々の徒党も金庫番が死んでしまっていますからねえ。徒党資金を引き出せないから、蘇生費用を捻出できないときたものだ。各々の倉庫番を蘇らせる資金を稼ぐまでは協力関係でいたいところですが、貴女はどうです? 我々、属性の違う徒党ですが、協力し合えますか?」
他の二人が中立の属性である以上、悪属性の僕が条件を切り出さないといけません。
お互いに属性を越えて我慢してまで迷宮に潜るとすれば、徒党資金を一手に引き受けている金庫番役の蘇生が妥当なところと判断したわけです。
別にね、個人個人で資金を管理しても良いんですけど、じゃらじゃらと金を持ち歩いて迷宮に潜るわけにもいきません。全財産ともなると、重いですしね。あと、何らかの理由で撤退中に貨幣を入れている袋が破けたら冗談抜きでとんでもない悲劇となります。
そうなると、地上で保管するしかないのですが、宿屋の部屋にこれ見よがしに置いていたら、十中八九盗まれて終わりです。隠しておいていても、盗まれるときは盗まれますので、安心できません。
そこで、貨幣を預かる仕事をしている相手に預けるのが一番なんですが、ぶっちゃけ、信用できる相手はそれなりに良い金額を請求してきます。失敗するとそれなりの装備を変えるぐらい掛かるときもあります。
それなら個人個人で預けずに、徒党全体の資産として纏めて預けた方が手数料的に得になるよう料金設定されていたりするわけです。
実際、装備が整うまでは小遣い程度の金額を分けて貰い、他は装備用に貯蓄しておく方が使い込まずに済むわけで、個人個人が預けても手数料が端金だという上位層でもない限り、一つに纏めておいた方が便利だし、効率的です。
まあ、問題は、徒党資金を一手に引き受ける金庫番が使い込みをしない信用できる人物かどうかに掛かってくるのですが……思い出したくもないなあ。
生と死の狭間に生きる冒険者としては、金庫番が死んでしまってお金を引き出せなくなると言う大問題も時折生じたりしますが、各々の徒党でその対策はしておけと言う自己責任の世界。フフフ、辛い……。
「……こちらこそお願いしたいところですけど、問題ないのですか?」
遠慮がちに女君主は答えてきます。
こっちは半壊だけど、あっちはほぼ壊滅状態。その上、実力もこちらが上と来ている。そりゃ、善の属性じゃなくても遠慮がちにもなりますか。
「まあ、僕はそこまで気にしない口なので。ただ、後背の安全のために見敵必殺に同意戴けたら、ですけど」
「こちらが注文できる立場でないことは理解しています……」
まあ、善の属性の方が友好的な相手をも殲滅していくことに不満があることぐらいは重々承知です。それでも必要のことのために飲み込んで下さるのだから、これ以上はとやかく言う気はありません。
「今一度確認しておくと、そちらの“金庫番”は貴女自身ではない、間違いありませんね?」
「はい、古くから一緒に居てくれている盗賊の娘が引き受けてくれています」
「……盗賊、それも女性かあ」
「何か問題でもあるのでしょうか?」
「ああ、いや、何と云うか……こっちの精神的外傷というか過去の苦い思い出というか、うん。君たちに問題はないんだ、君たちには」
僕の煮え切らない態度や、それまでちっとも変化がないスカーレットがいきなり顔を背けるという行動に出たことで不安に思ったのでしょうね。自分たちの不手際を心配する女君主にこちらの問題だとやんわりと告げます。
いや、マジで、良い想い出無いんだわ、倉庫番の女盗賊って。
アイツも生き残っていたらスゲエ顔していたんだろうが、今は死体安置所だからなあ。
良かったんだか、悪かったんだか。