表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
試練場狂詩曲  作者: 高橋太郎
半壊
2/12

その2

「……それで、これからどうするの?」

 最後の一人が僕に話し掛けてきます。

 森妖精(エルフ)巫女騎士(ヴァルキリー)、スカーレットと名乗っていますが、多分偽名じゃないかなあ、と思っています。

 僕にとって一番古い仲間であり、全幅(ぜんぷく)の信用も信頼もしているんですが、ある一点の疑念から気心が知れているとまでは言い切れません。

 いや、流石にそれは多分、考え過ぎだと思うんですけど……神話生物(神々の使徒)の可能性を否定できないんですよねえ。本当だったらマジ(ヤク)過ぎる……。もしそうなら、関わり合いたくないけど、その可能性は低いというか、今や滅多にないと知っているだけに困る。

 でも、ほんの少しでも可能性が在る限り、彼女が僕に向ける感情を受け止められない。マジ辛い……。

「さて、どうしますかね。聞いたところ、彼女の徒党も、我々の徒党も金庫番が死んでしまっていますからねえ。徒党資金を引き出せないから、蘇生(そせい)費用を捻出(ねんしゅつ)できないときたものだ。各々(おのおの)の倉庫番を蘇らせる資金を稼ぐまでは協力関係でいたいところですが、貴女はどうです? 我々、属性の違う徒党ですが、協力し合えますか?」

 他の二人が中立の属性である以上、悪属性の僕が条件を切り出さないといけません。

 お互いに属性を越えて我慢(がまん)してまで迷宮に潜るとすれば、徒党資金を一手に引き受けている金庫番役の蘇生が妥当なところと判断したわけです。

 別にね、個人個人で資金を管理しても良いんですけど、じゃらじゃらと金を持ち歩いて迷宮に(もぐ)るわけにもいきません。全財産ともなると、重いですしね。あと、何らかの理由で撤退(てったい)中に貨幣(かへい)を入れている袋が破けたら冗談抜きでとんでもない悲劇となります。

 そうなると、地上で保管するしかないのですが、宿屋の部屋にこれ見よがしに置いていたら、十中八九盗まれて終わりです。隠しておいていても、盗まれるときは盗まれますので、安心できません。

 そこで、貨幣を預かる仕事をしている相手に預けるのが一番なんですが、ぶっちゃけ、信用できる相手はそれなりに良い金額を請求してきます。失敗するとそれなりの装備を変えるぐらい掛かるときもあります。

 それなら個人個人で預けずに、徒党全体の資産として(まと)めて預けた方が手数料的に得になるよう料金設定されていたりするわけです。

 実際、装備が整うまでは小遣い程度の金額を分けて(もら)い、他は装備用に貯蓄しておく方が使い込まずに済むわけで、個人個人が預けても手数料が端金(はしたがね)だという上位層でもない限り、一つに纏めておいた方が便利だし、効率的です。

 まあ、問題は、徒党資金を一手に引き受ける金庫番が使い込みをしない信用できる人物かどうかに掛かってくるのですが……思い出したくもないなあ。

 生と死の狭間(はざま)に生きる冒険者としては、金庫番が死んでしまってお金を引き出せなくなると言う大問題も時折(ときおり)生じたりしますが、各々の徒党でその対策はしておけと言う自己責任の世界。フフフ、辛い……。

「……こちらこそお願いしたいところですけど、問題ないのですか?」

 遠慮がちに女君主は答えてきます。

 こっちは半壊だけど、あっちはほぼ壊滅状態。その上、実力(レベル)もこちらが上と来ている。そりゃ、善の属性じゃなくても遠慮がちにもなりますか。

「まあ、僕はそこまで気にしない口なので。ただ、後背の安全のために見敵必殺に同意(いただ)けたら、ですけど」

「こちらが注文できる立場でないことは理解しています……」

 まあ、善の属性の方が友好的な相手をも殲滅(せんめつ)していくことに不満があることぐらいは重々承知です。それでも必要のことのために飲み込んで下さるのだから、これ以上はとやかく言う気はありません。

「今一度確認しておくと、そちらの“金庫番”は貴女自身ではない、間違いありませんね?」

「はい、古くから一緒に居てくれている盗賊(シーフ)()が引き受けてくれています」

「……盗賊、それも女性かあ」

「何か問題でもあるのでしょうか?」

「ああ、いや、何と()うか……こっちの精神的外傷(トラウマ)というか過去の苦い思い出というか、うん。君たちに問題はないんだ、君たちには」

 僕の()え切らない態度や、それまでちっとも変化がないスカーレットがいきなり顔を(そむ)けるという行動に出たことで不安に思ったのでしょうね。自分たちの不手際(ふてぎわ)を心配する女君主にこちらの問題だとやんわりと告げます。

 いや、マジで、良い想い出無いんだわ、倉庫番の女盗賊って。

 アイツも生き残っていたらスゲエ顔していたんだろうが、今は死体安置所だからなあ。

 良かったんだか、悪かったんだか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ