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試練場狂詩曲  作者: 高橋太郎
小っさい爺さん
11/12

その7

「おい、若いの。その爺様、単独で九層に辿(たど)り着けるバケモンだぜ? 後はお前らがひたすら敵を斬り続ける事が出来るかどうかって話だ。範囲魔法がねえっつうんならな」

 それまで黙って端で聞いてたおっさんが僕たちというより、僕に助け船を出します。

 当然、勝手に情報を公開された爺さんはスゲエ目線を一瞬だけおっさんに送りますが、気付いていないのか、それともそれを受け流せる程度の胆力(たんりょく)があるのか、おっさんは柳に風と言った風情(ふぜい)です。

 それにしても、その領域のバケモノか、この爺様。

 この街の迷宮(ダンジョン)、通称試練場は迷宮主(ダンジョンマスター)がいる最下層を含めて全十層とされています。

 最初の階層である一層ぐらいなら、練達者(マスター)だと鼻唄(はなうた)歌いながら散歩できる程度ですが、二層目あたりから敵の質量ともに難度が()ね上がり、後衛職だと単独行(ソロ)は自殺行為と言える状態となります。

 一部の特殊な職業、敵から身を隠せたり、敵を先に発見できるような探索特化の盗賊系の職で逃げ回ればなんとか四層ぐらいまでなら単独踏破する者もいますが、それは例外中の例外、どう考えても儲けが出ません。ええ、敵から逃げ惑うようでは、戦利品を入手できませんからね。

 まあ、金儲け以外に理由があって、装備の整備(メンテナンス)代と言う赤字を()れ流してでも単独行をしなければならない理由がない限り、やる価値は薄いというわけです。

 それでも、単独行をなせるかどうかは意外と生存という意味では重要であり、徒党が迷宮内で壊滅しても、一人で無事帰って来られるなら、それで助けを呼べるならば、仲間の死体を回収する事も可能になります。

 まあ、今回の問題は、単独で九層まで行って帰るだけの実力があるという点何ですが、九層ということは、怪物配備広場もその後の特別昇降機(エレベーター)も一人で辿り着けるという意味でしょうねえ。

 さて、どうしたものかと一瞬考えそうになりましたが、即座にそれを振り払います。

 現状、僕らが何かを選べるほど選択肢(せんたくし)を持っているわけではなく、この()って(わい)いた幸運を(つか)まなければ()むだけです。ええ、何となく、座して待っても何とかはなりますが、非常に不味(まず)い事態に追い込まれる予感がしているのです。

 一応、メイさんの方を見ますが、きょとんとした表情で逆に見詰(みつ)め返されました。

 あかん、状況を理解しとらん。

 一つ大きく溜息(ためいき)を付いてから、

「メイさん、どこであの大量の怪物と遭遇(そうぐう)したか、九層まで行ければ案内できますか?」

 と、(たず)ねます。

 ええ、僕らはどこでそれが起きたかは知らないんですよ。

 (したが)って、僕は爺様に対して連れて行くとは言えない理由、三つ目。案内できる方がメイさんしかいなく、メイさんがその場所をはっきり覚えているか知らないこと。

 流石(さすが)にねえ、知り合ったばかりの女性に徒党壊滅した原因を聞き出せるほど厚かましくないんで、僕。

 僕が彼女の立場なら、なるべくなら忘れたい出来事でしょうからねえ。あんな、雲霞(うんか)(ごと)(おそ)い掛かってくる怪物から逃げ(まど)う場面なんてねえ。

「大体の場所なら分かります」

「だ、そうですが、どうします?」

 僕は爺さんに向かって話を振ります。

 結局のところ、この話をなかったことにするかどうかの最終決定は僕らではなく、爺さんにある訳ですから、確認を取る必要があります。

 流石に、後出しの情報が多すぎましたからねえ。断られても(いた)(かた)なし。

「儂は構わん。何らかの痕跡(こんせき)が残っている可能性が高い内に行きたい。なんなら今からでも構わぬ」

「あ、それは勘弁してください。流石にさっきまで使っていた装備は整備に出さないと」

 爺様の前のめりな返事に僕は(あわ)てます。

 一回の迷宮行(ダンジョンアタック)で身に付けていた装備品は思った以上に傷を()います。

 従って、迷宮行から帰る度に装備品は整備に出すのが理想的です。

 ただ、そこまでやれるのは余程の成功者のみ、駆け出しの頃は装備がボロボロになるまで使い(ふる)しては新しい装備に買い換えたものです。

 整備にはそれなりに時間がかかるものですし、無理矢理()かして特急料金払ってでも次の日に間に合わせることはできますが、普通はそこまでしません。

 ぶっちゃけ、もう一セット買った方が安くつく場合もあるからです。

 迷宮で見つけ出された伝説の品とか特殊な場合でもない限り、整備している装備品が返ってくるまでは予備の装備を使って迷宮行に(いど)むものです。

 まあ、整備が終わるまで休暇(きゅうか)を取る方が当たり前なんですけどね。

 装備だけではなく、その持ち主も迷宮行で肉体的にも精神的にも強い疲労を残すものですから。

 冒険者の宿が一週間単位の料金体系なのもそこら辺を考えてのことと聞き(およ)びます。

 正直、迷宮に毎日突撃(とつげき)する気力、普通はありませんからね。流石のアイツも、一回潜った後は気力を充実させるためにも数日程度英気を養うぐらいです。それだけ、迷宮深層(しんそう)精魂(せいこん)ともに疲れ果てます。

 一週間に一度迷宮行を挑み、あとの数日は休暇とする。あらゆる意味でこれが一番効率の良い流れとなります。

 ただ、今回のように徒党の仲間を蘇らせるために資金を稼ぐなどの特別な理由がある場合は無理をある程度押してでも挑まなければ(まず)い訳ですがね。

 世知辛(せちがら)いわー。

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