その1
年に何回かあるW○Zっぽい世界観での物語が書きたくなる病が発症したのでそういう話を書いてみました。
酒場のいつもの席に座る仲間たちの表情がお通夜を越えて暗くてまいります。
ま、僕の顔も想像するにそんなモノでしょうけど。
慣れちゃったからなあ、パーティ半壊程度は。今回は貰い事故だったとは言え、仲間を半分寺院の死体安置所に置いてくるのは非常に心苦しいことに変わりませんけど。
「……本当にごめんなさい」
ただ一人、徒党員ではない同席者が本日何度目になるか分からない謝罪の言葉を口にします。
「起きてしまったことは仕方ありません。我々よりも、一人きりになってしまった自分の心配をなさい。徒党資金担当者も死んでしまったのでしょう?」
悄気返っている女君主に対し、僕は宥めます。
実際、彼女たちは最善を尽くしていたのは分かっていますからね。巻き込まれたのはその場に居た我々の運の無さの所為ですし、迷宮で事故に遭うのは正しく自己責任。それを人の所為に押し付けるほど悪辣ではないつもりです。
「敵を引き連れて巻き込まなければ、そちらが半壊することはありませんでしたし……」
「アレは本当の意味で事故ですよ。地下九層であの様なことが起きるなどと予測できる者がいたら驚きです」
なおも言い募る女君主を僕は慰め続けます。
いや、本当に、あんな現象は聞いたことも見た事もなかったから、流石にその責任を押し付ける気にはなれませんよねえ。我ながら、お人好しな気もしますが、今は迷宮の外だから気にしていません。
「そうなので御座るか?」
僕の返事にそれまで興味なさそうだった猫妖精の侍、トーハチは何故か興味津々に訊いてくる。
「ええ。僕が聞き及んだ限りですが、九層で通路で逃げ切れないどころか、どこまでも追いかけてくるなんて話、ありませんでしたからねえ」
「逃げたことないから知らなかったにゃあ」
「まあ、ウチは悪属性の徒党ですから、見敵必殺ですしねえ。逃げ癖は付けないようにしていましたし、そうもなりましょう」
僕は苦笑しながらトーハチに答えます。「大して彼女たちは善の徒党。我々とは違う光景を見ていたわけですから、あの様な事態に出会すこともあるのかも知れません。……イヤ、普通はないな、どう考えても。見逃した敵が群れをなして追いかけてくる? あり得ない、大いにあり得ない。ならば、あの怪物の大津波は偶然の事故、ということですかね、多分」
些かの困惑に襲われつつも、僕はそう結論付けます。
この都市の迷宮は“試練場”と渾名されており、冒険者たちが腕を磨くのに打って付けと言われています。
そこで冒険者として一旗揚げようとこの都市にやって来る若者も多く、その夢があっさりと破れることも間々あります。いや、むしろよく、か?
まあ、その辺はどうでもよろしい、成功するかしないかは半々、そのぐらいの楽天的思考がなければ大成しません。普通は。
僕は色々な意味で普通ではなかったので更にどうでも良いワケですが、そのような僕でも迷宮で探索する上で絶対に外さない点が有ります。
善と悪の属性です。
この世の中でヒトと呼ばれる存在は大体持って生まれた性質があります。
平たく言えば、ヒト以外の他者に対してどうでるか、です。
いわゆる善の属性の持ち主は、敵対してこない相手に対して見逃す事を良しとします。
一方の悪の属性は、友好的に振る舞ってこようがどうしようが、迷宮で相対した怪物は絶対に潰す。考え方というか、人としての在り方が全くと言って良いほど違うのです。
故に、異なる属性を持つ者同士が同じと党にいると意思統一が図れずに迷宮内で空中分解しかねません。
どちらでもありどちらでもない中立属性の者でもない限りは悪は悪と善は善と徒党を組むこととなります。
まあ、これは地下迷宮という極限状態でのことで、地上やヒトの社会の中ではそこまで目くじら立てて相手の価値観を否定し合うことはありません。
厳に、同席者である善の君主と和やかに会話していますしね、僕。
ええ、僕は悪の司教なので、本来は彼女の徒党とは没交渉となります。
まあ、幸いというか何と言うか、他の悪属性の徒党員はみんな寺院の死体安置所に居ますからね、辛い……。
一方で、彼女の徒党員も同じく死体安置所に居る訳ですから、交渉でぶつかり合うような過激派はこの場には居ないのです。
この場に居る他の二人の仲間はどちらも中立ですからね。