表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
試練場狂詩曲  作者: 高橋太郎
半壊
1/12

その1

年に何回かあるW○Zっぽい世界観での物語が書きたくなる病が発症したのでそういう話を書いてみました。

 酒場のいつもの席に座る仲間たちの表情がお通夜(つや)を越えて暗くてまいります。

 ま、僕の顔も想像するにそんなモノでしょうけど。

 慣れちゃったからなあ、パーティ半壊程度は。今回は(もら)い事故だったとは言え、仲間を半分寺院の死体安置所(モルグ)に置いてくるのは非常に心苦しいことに変わりませんけど。

「……本当にごめんなさい」

 ただ一人、徒党(パーティ)(メンバー)ではない同席者が本日何度目になるか分からない謝罪の言葉を口にします。

「起きてしまったことは仕方ありません。我々よりも、一人きりになってしまった自分の心配をなさい。徒党資金担当者(金庫番)も死んでしまったのでしょう?」

 悄気(しょげ)返っている女君主に対し、僕は(なだ)めます。

 実際、彼女たちは最善を()くしていたのは分かっていますからね。巻き込まれたのはその場に居た我々の運の無さの所為(せい)ですし、迷宮で事故に()うのは正しく自己責任。それを人の所為に押し付けるほど悪辣(あくらつ)ではないつもりです。

「敵を引き連れて巻き込まなければ、そちらが半壊することはありませんでしたし……」

「アレは本当の意味で事故ですよ。地下九層であの様なことが起きるなどと予測できる者がいたら驚きです」

 なおも言い(つの)る女君主を僕は(なぐさ)め続けます。

 いや、本当に、あんな現象は聞いたことも見た事もなかったから、流石にその責任を押し付ける気にはなれませんよねえ。我ながら、お人好しな気もしますが、今は迷宮の外だから気にしていません。

「そうなので御座るか?」

 僕の返事にそれまで興味なさそうだった猫妖精(ケットシー)の侍、トーハチは何故か興味(きょうみ)津々(しんしん)()いてくる。

「ええ。僕が聞き(およ)んだ限りですが、九層で通路で逃げ切れないどころか、どこまでも追いかけてくるなんて話、ありませんでしたからねえ」

「逃げたことないから知らなかったにゃあ」

「まあ、ウチは悪属性の徒党ですから、見敵必殺サーチアンドデストロイですしねえ。逃げ癖は付けないようにしていましたし、そうもなりましょう」

 僕は苦笑しながらトーハチに答えます。「大して彼女たちは善の徒党。我々とは違う光景を見ていたわけですから、あの様な事態に出会(でくわ)すこともあるのかも知れません。……イヤ、普通はないな、どう考えても。見逃した敵が群れをなして追いかけてくる? あり得ない、大いにあり得ない。ならば、あの怪物(モンスター)の大津波は偶然の事故、ということですかね、多分」

 (いささ)かの困惑(こんわく)(おそ)われつつも、僕はそう結論付けます。

 この都市(まち)の迷宮は“試練場”と渾名(あだな)されており、冒険者たちが腕を(みが)くのに打って付けと言われています。

 そこで冒険者として一旗(あげ)げようとこの都市にやって来る若者も多く、その夢があっさりと破れることも間々あります。いや、むしろよく、か?

 まあ、その辺はどうでもよろしい、成功するかしないかは半々、そのぐらいの楽天的思考がなければ大成しません。普通は。

 僕は色々な意味で普通ではなかったので更にどうでも良いワケですが、そのような僕でも迷宮で探索する上で絶対に外さない点が有ります。

 善と悪の属性(アライメント)です。

 この世の中でヒトと呼ばれる存在は大体持って生まれた性質があります。

 平たく言えば、ヒト以外の他者に対してどうでるか、です。

 いわゆる善の属性の持ち主は、敵対してこない相手に対して()(のが)す事を良しとします。

 一方の悪の属性は、友好的に振る舞ってこようがどうしようが、迷宮で相対した怪物は絶対に(つぶ)す。考え方というか、人としての()り方が全くと言って良いほど違うのです。

 (ゆえ)に、異なる属性を持つ者同士が同じと党にいると意思統一が図れずに迷宮内で空中分解しかねません。

 どちらでもありどちらでもない中立属性の者でもない限りは悪は悪と善は善と徒党を組むこととなります。

 まあ、これは地下迷宮という極限状態でのことで、地上やヒトの社会の中ではそこまで目くじら立てて相手の価値観を否定し合うことはありません。

 厳に、同席者である善の君主(ロード)(なご)やかに会話していますしね、僕。

 ええ、僕は悪の司教(ビショップ)なので、本来は彼女の徒党とは没交渉となります。

 まあ、幸いというか何と言うか、他の悪属性の徒党員はみんな寺院の死体安置所に居ますからね、辛い……。

 一方で、彼女の徒党員も同じく死体安置所に居る訳ですから、交渉でぶつかり合うような過激派はこの場には居ないのです。

 この場に居る他の二人の仲間はどちらも中立ですからね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ