表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪魔

作者: ゆりかもめ


ある日の朝のこと。


美咲は、やかましい会話を繰り広げながら通学路を歩く高校生たちを静かに見ていた。


本来ならば、美咲もこの集団に入って学校に行くべきなのだが、彼女は不登校児であるためそんなことはしない。


今は、私腹を着用して近くの公園のベンチに座り、エナジードリンクをガブガブと飲んでいる。表情は長くて白い髪で隠れて見えない。


今日だけで3本目だ。そろそろ体の調子がおかしくなってもおかしくない頃合いだが、将来のことなんて考えられない。


明日、自分が命を落としてもいいと投げやりになっている。


さてと。


美咲は、エナジードリンクの空き缶を放り投げると、ベンチから立ち上がった。


これから、自分と同じ不登校児の親友の家に行く。


自分の家に帰ったところで何もすることがないし、暇つぶしにはもってこいだろう。


そう思った時だった。


「おはよう」


後方からそう声をかけられた。


少年のような落ち着いた声。


振り返ると、そこには光沢のある黒い球体があった。


いつからそこにあったのか。


その球体には、一つ目と口が生えており、周囲の物とは一際異彩を放つ存在感を出していた。


「・・・」


美咲は無言で周囲を見回す。


だが、辺り一帯には自分以外誰もおらず、この物体が静かに鎮座していた。


「聞こえてる?」


また声がした。


そして、その声は、この黒い物体から発せられたことが確かめられた。


この物体は、確かに口を動かし、美咲にその一つ目を向けてきたのだ。


何も考えることなく、美咲はこの物体に思い切り蹴りを入れる。


伝わってきたのは足先の鈍痛だった。一方で物体は表情1つ変えずにその場で佇んでいる。


「いきなり蹴ってひどいなあ。ぼく、君と友達になりたいなって思ってたのに」


身をかがめている美咲に、この物体は言葉をかける。


「えっと、ぼくのことはまーくんとでも呼んで。一応こう見えても悪魔なんだよね。突然現れてびっくりした?」


全く驚かなかった。こんな話、多くの小説や漫画で見た展開だ。


何もないところに突然未知の生命体が現れて何かを語り掛ける。こんな都合のいい話があるのだろうか。


だが、面白い。


「それでさ、急なお願いで申し訳ないんだけどぼくと同じ悪魔になって・・・」


美咲は、悪魔が喋り終える前にショルダーバッグからスマートフォンを取り出して悪魔の写真を撮影すると、「悪魔見つけた」という短文と共に、その写真を親友の美樹に送った。


美樹は悪魔関係の話が大好きで、部屋にこもって黒魔術や悪魔辞典をひっきりなしに読んでいる人物だ。この趣味は美咲も理解している。


美樹とはどうやって仲良くなったのか。それは全く覚えていないが、少なくとも美樹には自宅の合鍵を渡されるほど信用されており、唯一の無二の親友であることは確かである。


「あの・・・聞いてる?だからぼくと同じ悪魔に・・・」


電話が鳴る。


スマホの画面を見ると、美樹からだった。


画面をタップして耳に当てる。


「悪魔いたって本当!?どこ!?どこに!?すぐ近く!?その悪魔と契約すると超能力もらえるの!?後その悪魔って美咲の」


あまりにうるさかったので一方的に電話を切る。


美咲は、スマートフォンをしまってからまーくんと名乗る悪魔をショルダーバッグに詰め込むと、美樹の家に向かった。


この際なので実物を見てもらった方が早いだろう。


美咲は、通学路とは反対方向にある美樹の家に向かった。


美樹の一軒家の玄関の前に着く。


詳しい事情は不明だが、どうやら美樹は、両親が不慮の事故で死亡した時に得た遺産を相続した上で一人暮らしをしているらしい。


さも当然のように、スカートのポケットから合鍵を取り出して玄関扉を開ける。


それから、内鍵を閉めて靴を脱ぐと、角度のついた階段を登っていった。美樹の部屋は二階にある。


2回ほど扉をノックして美樹の部屋に入る。


入るや否や、消臭元、アロマスティック、エナジードリンクなどが入り混じった何とも言えない強烈なにおいが漂ってきた。


足元にはあちこちに空き缶が捨てられており、床は脱ぎっぱなしの衣服で埋め尽くされている。


そして、その部屋の中央にある机の上でパソコンのキーボードを叩く少女が見えた。


彼女こそが美樹で、この世の中に対する恨みと憎しみと怒りを抱えて常日頃から生きている少女だ。


ぼさぼさの金髪に灰色の寝巻。瞼に見えるこい隈。徹夜して今から眠るつもりだったのかもしれない。


しばらくの間タイピングをしていた美樹だったが、美咲が入ってきたことを知ると、目を見開いて椅子から立ち上がり、美咲に攻めよってきた。


そして、肩を掴んで激しく揺する。


しかし、電話を切ったことを咎めるためではなかった。美咲は、常日頃から会話が面倒になった時はあ一方的に電話を切るので、美樹もそれに慣れていたのだ。


「美咲!悪魔は!?あの悪魔はどこに行ったの!?」


その返答に対し、美咲はショルダーバッグからまーくんを取り出して床に投げつける。この時、美樹の目が爛々と輝いているのが見えた。


美樹はまーくんに話しかける。


「あなたが悪魔なのね!?心臓とか目玉とかあげたら超能力くれるの!?それとも私みたいな奴の内臓なんていらない?」


「美咲・・・君、ぼくのことなんだと思ってるの?蹴っ飛ばしたり写真撮ったり・・・挙句の果てにはなんか危険そうな人のところに無断で連れて行ってさ」


「別に」


これは美咲の本心だった。夢であろうか現実であろうがなんでもいい。喋る不思議な生物を見つめて、たまたま自分の親友の元にそれを持ってきただけである。悪気も善意もない。


そんな憮然とした態度に、まーくんもあきれたようにため息をついた。


「まあいいや。その・・・今回美咲に声をかけたのは理由があるんだ」


まーくんはそう真剣な表情で言った。


「ぜひ、君も悪魔になってほしいなって・・・どうしてって顔してるね。簡単に言うとぼくの友達になってほしいんだ。ほら、ぼくと同じ悪魔の友達って少ないし、君は人間として生きるの絶対に向いてなさそうだし」


足元にある私物のショルダーバッグを蹴り飛ばす。


「わわっ!ごめんごめん!別に嫌味を言いたいわけじゃないんだ。でも、このまま生きるのつらいなって思ったりしてない?将来不安だなって思ったりしてない?」


美咲のエナジードリンクを飲む手が止まる。


まーくんの言っていることは本当だ。


死ぬことができるならいつでも実行したいし、生きることにつらさは感じている。


「もしそれが本当ならね?ぼくの力で君を悪魔にしてあげることだってできるんだ。不思議な力も使えるし、少なくとも今以上は生きやすくなると思うんだよね」


「はい!はーい!私も悪魔になりたいです!」


唐突に美樹が声を張り上げた。


「不思議な力があれば世界征服も夢じゃなくなるよね!?美咲と一緒に2つ並べた玉座に座って世界を見下ろしてやりたいって常々思ってたのよ!」


「世界征服はさすがに難しいか・・・」


「すっごいことじゃない!ねえ美咲!一緒に悪魔になりましょ!こんな腐った世界で人間として生きるの嫌だって思ってるでしょ?世界征服できる力使って何もかもを見下しちゃいましょ!」


「だから世界征服みたいな大それたことは・・・」


まーくんは困惑を隠せずにいる。


美咲は、悪魔になった自分の姿を想像してみる。


獣と人間が入り混じったような怪物。


自分はそのような姿になるのだろうか。


「ま、悪魔と言っても見た目は今とほとんど変わらないから安心して」


こちらの考えを見透かしたような発言に、思わず身を引いた。


だが、そうでなければ悪魔になってもいいかもしれない。


「そーれーにー!」


それを他所に、美樹は楽しそうに喋っている。


「悪魔だから人権や法に縛られないでしょ?だから人も殺し放題!気に入らない奴むかつく奴腹が立つ奴全員ぶっ殺せるなんていいじゃないの!」


「それは君たち次第だね。好きにすればいいよ」


「じゃあ次は?どうしたら悪魔に慣れるの?目玉とか内臓捧げるの?それとも処女の血液?」


「いやいやいや!それはいらないよ!そんなのもらってどうするの!」


身を乗り出して尋ねる美樹に対して首を振るまーくん。


やはりというか、美樹は日頃から悪魔に関心を抱いているため、自分がまさにそれになれると思い心が躍っているのだろう。


「じゃあ・・・2人とも悪魔になるんだね?本当にいい?戻れないよ?」


「私はいいわよ!」


美樹の発言に続くように美咲は首を縦に傾ける。


悪魔になったらどうなるか。表情には出さないが、美咲もまた高揚感を抱いていた。


「じゃあいくよ」


まーくんは、ゆっくりと息を吸い込んで、それから吐き出した。


その瞬間まーくんの目が赤く光り、2人の衣服が破られた。


それと同時に、腹部の一部に熱を感じた。


見ると、未知の力によって、その部分が赤く染まり、何かを皮膚に刻んでいたのだ。


熱湯をかけられながら体の一部をえぐられたような痛み。それが文字を刻まれるごとに強くなっていく。


美咲は肩で息をしてうずくまっているが、美樹については遠慮なく大声でその暑さと痛みを訴えている。


やがて、2人はあまりの痛みに気を失ってしまった。


こうして、2人の悪魔が誕生した。


2人が目を覚ました時、世界はどのような変化をもたらすのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ