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2. シンデレラに会おう

 やる気に満ちたわたしは今、シンデレラのお宅にお忍びでやって来ている。


 王都近郊の町の一画にある、特に何の変哲もなさそうな家で、ここに有名童話の主人公が住んでいるというのは不思議な感じがする。


「クライマックスの舞踏会の日までは姿を見せないほうがいいわよね」


 ということで、魔法で小鳥に変身して、シンデレラの様子を見に行くことにした。


(シンデレラの部屋はどこかしら)


 小さな羽を羽ばたかせて、なんとなく二階のほうへと飛んでいく。


 それにしても、鳥になって飛ぶのなんて初めてなのにこんなに上手に飛べるなんて、わたしって天才かもしれない。空を飛ぶのは気持ちがいいし、魔法使いというのはなんて楽しいんだろう。


 わくわくしながらあちこちの窓を覗き込んでいると、ある部屋で掃除をしている女性を発見した。


 雑巾で床を拭きながら、時々悩ましげに溜め息をついているが、黄金色の髪にサファイアの瞳、そして目を引かれずにはいられないあの美しいご尊顔……。


(シンデレラ、見つけた!!)


 主人公を見つけて嬉しくなったわたしは、もっとよく観察したくて窓に顔を近づける。


 しかし、今は小鳥の姿なのでくちばしが付いていることを忘れていた。窓ガラスにくちばしが当たってコツンと音が鳴り、その音でシンデレラがこちらに気づいてしまった。


(わっ、やばっ! でも小鳥だから大丈夫だよね……?)


 人の姿だったら、二階の窓から部屋を覗く危険な不審者でしかないが、小鳥だったら可愛いお客さんということで済ませてもらえるだろう。


 念のため愛らしく小首を傾げて見せると、シンデレラは少し驚いたような表情を浮かべた後、小鳥を怖がらせないためか、そうっとこちらへ近寄ってきた。


「小鳥さん、いらっしゃい。銀色の鳥さんなんて珍しい……でも、とっても綺麗」


 さっきは寂しそうな顔をしていたが、わたしの小鳥姿を見て和んだのか、嬉しそうににっこりと笑顔を浮かべる。

 その可憐すぎる笑顔を真正面から直視したわたしは、あまりの破壊力に気を失って倒れるかと思った。


(……っぱ、ヒロインは格が違うわ……)


 さっきは「シンデレラも超えちゃってるんじゃない?」とか妄言を吐いて大変申し訳ございません。どう見てもあなたの圧勝です。わたしは脇役らしく粛々と仕事を全うしたいと思います……。


 反省して少ししょんぼりしていると、心優しいシンデレラはこんな小鳥の些細な変化にも気づいてくれたようで、ドレスのポケットの中をまさぐりはじめた。


「小鳥さん、お腹が空いちゃった? パンくずを食べる?」


 なぜポケットの中に当たり前のようにパンくずがあるのか謎だが、物語のヒロインというのはそういうものなのしれない。


 せっかくなので頂こうと思い、こくりと頷くと、シンデレラはまた嬉しそうに笑って窓を開け、パンくずを差し出してくれた。


「はい、いっぱい食べてね」


 ああ、こんな野良の小鳥にまで優しくて、なんていい子なんだろう。


(絶対、王子様と結ばれて幸せになれるようにしてあげるからね……!)


 そう決意を新たにしてパンくずを(むさぼ)っていると、いきなり部屋のドアが開いて、二人の女性が入り込んできた。


「シンデレラ! アンタ、またそんなドレスなんか着て! せっかく私たちがアンタに相応しい服を用意してやったのに!」


「そうよ! あたしたちの服は着られないっていうの!?」


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