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あなたとみた、あの星空に。  作者: 半崎いお
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ひといきつく、って、ずっとは続かない

しばらく連日更新になります

ゆめを、みていた。

あたたかく、やわらかく、そして、やさしいゆめを。


ふく風は暖かく、そして、いいにおいがして

柔らかくてふかふかでぬくぬくのけがわにくるまれて

ちいさくて、うつくしいおんがくがながれている、そんなゆめ。


でもね、ゆめからさめると

また、へいたいさんたちにひどいこと、されてしまうの。


だからね

ずっと、ねているんだ。



ぺろぺろと、なにかがわたしのほほをなめている。

くすぐったいなぁ、でも、起きないよ、起きたくないんだもの

もう、ころされたくないんだ

いたいのは、いやだよ。


くーんくーんと、やさしいこえがする。

うちには犬はいないはずなんだけどな



ふわふわ

このまま、ただよっていたいよ。


誰かの、優しい声がする。

低い、低い子守唄。

聞いたことのない旋律なのに、子守唄だってわかるのはなんでなんだろう

私を守る、優しい歌だ。

そしてまた、犬の声。

ぼくだってまもってるよ、だいじょうぶだよ、って、きこえる。

低い歌は、空気に溶けるように、細くて、そして温かい。

この男の人は、誰なんだろうか。



そうして、彼は、小さく、ためいきをついた。

「もう、戻ってはいらっしゃらないのでしょうか……」

慰めるような犬の声が続く

ふかく、ふかいかなしみを滲ませたその声は、子守唄を再開した。

泣いているのかな。

犬の声も、なんだか泣いているようで

こらえきれずに、少し、なでなで、してあげた。


そんなにかなしいこえで、なかないで。

小さく、小さく、足先を撫でる

そして、お腹、背中へと。

犬は、ちいさく、くるるる、とないたあと、声をほとんど出さずに一声吠えた

なにかがちかづいてくる、おと。

うたっていたおとこのひと、だろう。

「おぉ。。。。!!」

こえが、きこえる。

「うごいて、おうごきになられて!!」

感動に打ち震えた声。

あれ、この人喜んでくれてるの?

っていうか、だれだろうこのひと。

そしてこのわんちゃんは。


だれ、あなたは。

「あなたは……だれ?」

気がついたら、声に出ていた。

声、出る。

そして、目玉も、耳も、きれたり蕩けたりして、なかった。使えた。

あぁ、私、生きてたんだね。

全身の毛穴が全開になってるんだろうな、っていう顔をしたおっさんが、

目の前で、滝のような涙を流しているのが、最初に見た景色ではあったのだけれどね。



それから私は、みるみるうちに回復していった。

シェリスって名前の美しいわんちゃんは本当に素晴らしい毛並みで、いつも一緒にいてくれたし

あの子守唄の持ち主はお屋敷の旦那様、ジュルジェ様という名前であった。

ジュルジェ様は毎朝毎晩私の部屋にやってきた

そして、毎日毎回のように何やら素敵なものを置いていってくださる。

小さな紙でできた小鳥やら、お花やら……

あのいかつい顔で、こういうものを選んで、あのでっかい手で大切そうに運んでくる

その姿はなんだかとても、面白かった。


そんなことをしているうち、歩けないし、食べたりもできなかった体も、だんだんと、回復した。

三年以上眠っていたらしいので仕方ないとはいえ、死にかけのヨボヨボみたいになっていたのだ

食べる気にもならなかったけれども、シェリスが悲しそうな顔をするのでちょっとづつ、食べて

夜はよく眠れるような魔法をかけてもらってと、至れり尽くせりで、少しづつ回復していったのだ



それでも金の房飾りや、銀の鎧、刀などの武器を見るとまだまだダメで、

身がすくんで頭がぐらぐらして、泣き叫んでしまうようなこともあった。

恐ろしくてたまらなくなって、もう、だめなのだ。

カーテンのタッセルを見て倒れたときには、本当に情けなくて死にそうになった

こんなものにすら負けてしまうとは……ジョルジェ様は、仕方ない当然だと言ってはくれるけど

普通に暮らそうと思うことすら無理なんじゃないかと思って、毎度毎度、深くヘコんでしまう



どうやらジョルジェ様は、お城の一番偉い魔導士様らしい。

刀などは持つひとではなくて助かった。

そうでなければ、きっと、もっとたいへんだっただろう。

魔導士としてのお洋服も他の人のものとは違っていたので、見慣れることができたらほっとした。

普通の魔導士の格好の人が近づいてきたら確実に取り乱してしまう自覚がある。

色や、形を思い出すだけで、震えが止まらなくなってしまうのだ。

あの部屋にジュルジェ様がいた、というのはわかっているのだけれども

いた記憶は、確かにあるのだけれど

あの日の温かいミルクの思い出が、なんとなく、とろりと、その記憶を覆い隠してくれている

あのお花の香りと風味は、あれ以来私の大好物となった

息をつけた、記憶。

取り乱しそうになると、誰かがすぐに持ってきてくれるバタフライマーガレットのミルク。

優しい、毛布のような、空気。

もともとそのような効果があるハーブだということだか、随分と助けられている


私の部屋も、王子のそれとは違い、真っ白とブルーで彩られたお部屋だ。

あの部屋に似た、重厚な木造の彫刻だらけの部屋などには、まだ入れないのだ。

お陰でお屋敷の図書室にも入れない。

今は、読めそうな本だけを移してもらった専用ミニ図書室を客間に作ってもらってしまった。



最近、セキュリティーの関係もあって

私の立場は「王都で治療するためにやってきている遠縁のお嬢さん」から

「筆頭魔術師様の婚約者」にグレードアップ、した。

そうしないと私を守れないとかなんとか言ってたけど、本心なんかバレバレだよね。


そのまま、さらに5年が過ぎて

私は、ジョルジェ様の幻の奥方様、になった。

社交界だか、王城だかに一切顔を出さないから、である。

だって、兵士を見たらぶっ倒れちゃうようじゃ、ダメでしょ。

卒業目前の日本の女子高生でしかなかったわたしにはいわゆる淑女キョーイクってのも全く無理だったしね。

かといって微分とか積分とか英語とかももう全部できる気はしないんだけど。



まわりからも、わたしたちからも、そろそろお子様を……なんて言ってる頃に、事件は起こった

ときが、きてしまったのだ


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