青天の霹靂と 晴天という事実
しばらく連日更新になります
彼の発言に一番驚いたのはわたしかもしれない。
気づいていた、というのは
もしかして、私の、この、繰り返される死のこと?
「……あ“? え”?」
うまく声が出ない。
ゾンビかよ。
あーーー、ゾンビみたいないものかもしれないけど。
何度も死んで死ねなくて、生き返って、っていうか死んでたけど。
「あなたが、なんどもなんども、ここに現れて、
その度に亡くなってしまうことを、私は知っていました。
なんどもなんども、気の遠くなるくらい繰り返されていたのを……
何度も繰り返す、果てのないこの国の、この世界の
あなたが最後の希望なのです……」
ん? 話が全くわからない。
前半はわかる。
わたしが、何度も殺されているのを
この人は、知っていたのだ。
わかっていて、見て、知っていたのに、なんどもなんども私が殺されるのをみていた。
なのにそれを止められなかったのであれば
確かに謝りもしたくなるだろう。
しかも、それを知っているというのは……?
この人も何度も人生を繰り返した、の……?
っていうか、この国の希望? なんの話だ。
そういうののせいで私がこんな目にあっているってこと?
なんだか頭がぐらぐらする。
顔面が、ピリピリする。
脳みそが、焼き切れてしまいそうだ
いったい、なんだっていうんだ。
私が、こんな目にあっている理由が何かあるっていうのか
私が一体、何をしたっていうんだ!?
うまく動かないからだに、なかなか結べない声
沸騰しそうな温度で回転し続ける脳みそ
ばちばちと、視界が爆ぜる
頭が、爆発してしまいそうなのに!!
その、膠着を解いたのは、おっさんの声だった。
「すみません、ここは危険です。移動いたしますので、お手を取らせていただきます」
そう言って軽く頭を下げ、私の方にほんのり笑んでやってきた彼はそっと私に触れたのだ。
びっくりした。
人の手、は、あたたかくて、やわらかかった。
こんな、おっさんの、ゴツゴツした無骨な手なのに
その、温かさや、柔らかさ
ひとのからだ、ってこんな感じだったんだなって思ってしまって、
やたらめったら、涙が溢れた。
私、今、生きていられてるんだな
++++++++
滲むように視界が真っ白になり、また、モヤの中から景色がゆっくりと結ばれた
涙で視界が阻まれたのかと思ったら、どうやら魔法的なやつだったようだ。
瞬きくらいの瞬間に、あたりの風景が全く変わってしまっている。
重苦しい雰囲気のさっきの部屋とは全く違う
白を基調としたシンプルで落ち着いた、明るい部屋。
日差しがほんわりと降り注ぎ、なんだかお花みたいないい香りもする。
そうか
今は昼間だったのか
風
日光
におい
そして、目の前にはさっきのおっさん。
薄く笑んだ表情のままだ。
そっと、手が離される。
そして、腰を支える手が、私を優しくソファーまで誘導した。
白っぽく、みるからに柔らかそうなソファーに腰を下ろすと、
柔らかいのにしっかりとしたそのクッションはこともなげに私の体を包み込んでくれた。
ああ、暖かい、柔らかい。
傍に置いてあったブランケットのようなものに思わず手を伸ばして、抱きしめてしまった。
あたたかい。
柔らかい。
そして、そのまま自分の体を覆うように、潜り込んでしまった。
すこしでも、誰かの目から、逃れたかったのだ。
何か、包むものが欲しかった。
ほんの少しでもいいから、自分と世界を区切るものが、欲しかったのだ
またもや涙が溢れる。
目が、喉が焼けるように熱い。
でも、焼けてはいない。
グチュぶちゅと煮え立つ皮膚と体は、ない。
いつもと違う。
だって、息が吸える。息が吐ける。
目を見開いて、息をして
あたたかくて、包まれていて……
なにかもう、放心したように泣いてしまっていたら、
そっと、肩に手が置かれた。
「こちらを」
差し出されたのは、カップだった。
カップ。
飲み物が入っている、カップ。
思わずその声の主を仰ぎ見る。
「どうぞ、お召し上がりください。おちつきますよ」
うっすらと青みがかった、ミルク色の液体が満たされたそのカップを何度も何度も見てしまった。
優しげに微笑むおっさんは、向かい側に座って、うなづいている。
テーブルの上に置かれたそれを、それは、わたしのものなの?
毒とか入ってない?
やだ、また涙が出てくる。
私の、飲み物なの?
毒かもしれない。何かでまた、苦しめられるのかもしれない。
それでも、その液体は、とても、魅力的だった
ふんわりと湯気を立てる、甘やかな香り。
そっと、手を伸ばして触れてみる。
ああ、ほんのり暖かい。
本当に飲んでも大丈夫なんだろうか。
思わずクンクン匂いを嗅いでみる。
みたことのない色と、におい。美味しそうだけど。とてつもなく美味しそうだけど。
戸惑いは強かったが、我慢はできなかった。
喉が、乾き切っていた。
これが毒杯でやっぱり殺されるんだとしても……いいや、のみたい。
おそるおそる口をつけたその飲み物は、どこまでも優しい甘さだった。
もう、何もかもが蕩けてしまいそうに美味しい。
飲むって、そうだね、飲み物を、飲んでるよ私。
涙が、どんどん溢れる。
おいしい、おいしいなぁ……
この、この人の優しさみたいなものに一瞬触れられた。
それだけで、もう死んでもいいかもって、
いや、あと何回かくらいは死んでも耐えられるかもしれないなって、思ってしまった。
嫌だけど、絶対嫌だけど。