変化のおとずれ
しばらく連日1900更新します
目を開けた途端、また、もう、あのシーン。
どれほどの間が空いたのかは、わからない。
一息くらいはつけたのかもしれないし、体調は万全にスッキリしている
けれど、気分は最悪。
体感的にはさっき、全身が消し炭になったばっかり。
……また、ここだ。
「「侵入者!!侵入者だ!!!」」
「殿下、いけません!」
制したおっさんにむかって、殿下と呼ばれた若い男が舌打ちをする
毎回思うことだけど、態度悪いよなお前。本当に王子かよって思うくらいチンピラ臭い
顔は綺麗だけどさ。
“殿下”さんを制したおっさんは、そんな舌打ちなんて意に介さずといったていで私をみた。
いつものように、ドッと雪崩れ込む護衛。
否応なしに部屋中を包み込む緊迫感。
おっさんは片手でそれを制し、ひどく緊張したような口調ではっきりと私に告げた
「攻撃・抵抗の意思がなければ瞬きを繰り返しなさい」
あ、新しいパターンだ。
必死になって、体を動かさないままで、瞬きをする。
もう、まばたきというより、ぎゅー、かっ!ぎゅー、かっ!って感じだ。
伝わって!全力で答えてるから、殺さないで。いたいことしないで。殺さないで。
見えなかったとかいうのほんとなしだからね!殺さないで!!
ほんともう、死ぬのは嫌。
これ以上、死にたくないのだ。
ほんとうに、ほんとうに、いやなのだ。
その思いを込めて、全力で、本当に全力で目を開けたり閉じたりした。
こんなん瞬きじゃないかもしれないけど関係ない。
わかって!伝わって!! わたし、暗殺者でも敵意があるわけでもないの!!
ぎゅー!!かっ! ぎゅぎゅーー! かっ!
目がどんどん霞んで涙が溢れてくる。これ意外にすごく疲れる。
どれくらいやればいいんだろう。
でも、こんなことで殺されずに済むんだったらいくらでもやるし!!
おっさんが、私の方を凝視しながら手を下げた。
そして、扉の方からはかちゃりかちゃりと、いくつもの金属音。
もしかしたら、いや、もしかしなくてもこれは、あれだ。
剣を鞘に戻す音だ。
もしかしたらすぐに死なずに済むのかもしれない!
止めるのも怖くて、ぎゅーぎゅー!!かっ! ぎゅぎゅーー! かっ!と繰り返している。
やり過ぎてなんか瞼ぼーっとしてるし、霞んでもうなんも見えてない。
でも、こんなことで何かが変わるんだったらいくらでもやるよ、ずっとでもやるよ
お願い、何か変わって。
たすかるのかもしれない、もういたくなくてすむのかもしれない!!
さっき制したおっさんの口から漏れた柔らかいため息が、耳に届いた。
伝わった!? そう、ちょっとだけホッとして興奮して、少しだけ、ゆるんでしまった。
手を少し、動かした、それだけだったのに
視界が
跳ねた。
あちゃ―、これだめだ。
視界が飛ぶように移動する、っていうより
私の顔、空飛んでる。
動くのはまだ早かったのか…
でも、この死に方は痛くなくていいな
……なんて思ったすぐあとゴン、って打撃がきた。
容赦ないな、物理。
わたしが、いや、私の頭が床に落ちたのか
それにしても頭だけだと軽いんだねぇ、ボールみたいに跳ねたわ
なんて、呑気に思ってたら、すぐに終わりがきた。
あーあ。
********
苦痛なく死ぬのも困ったものだと、初めて知った
考える時間が全くないし
(この前剣山になった時の失血死みたいに体感数分でもあるだけましだ)
なにせ、きづいたらもう、ここだ。
連続してすぐ殺されるのはいいことじゃない。
どうせまた今回も死ぬんだろうしさ。
あの殿下?の護衛達、ほんと有能すぎるんだよ。
そんなに悪!即!断!みたいにしなくたっていいじゃん。
“地獄の責苦”てこんな感じじゃない?
何度も何度も死んで、何度も何度も生き返って、ってやられて。
毎回死ぬほど痛くてつらくてしんどくってってさ。
そりゃそうだよね、死ぬ、殺されてるんだから当然死ぬほどきついわけだよね
そりゃきついよね、地獄だよ。普通耐えられないと思うよこんなの。
私も耐えられてるような気はしないからね?
こんなバチが当たるようなこと、なんかしたのか?
そんなこと言われても全然思い当たる節がないどころか、なんもおぼえてないよ!!
なんか、もう、なきそう。
でも、泣いたらまたすぐ殺されちゃうかな…
なんておもってたら
「侵ん…「殿下、失礼します」」
初めてのパターンだった。
こないだのおっさんが、殿下を止めたのだ。
殿下さんが、あの山のような護衛を呼べていない。
しかも…なんか、おっさんはキラキラ光る石みたいのを持って、かざしている。
あれも魔法?
魔法なのか?
殿下が、その周りの人が、おっさんの近くにいる人たちが皆一瞬で崩れ落ちた
いいの??
あ、ちょっと離れてる人もバタバタ倒れている。
王子様、倒れちゃってるけど、いいの??
なんだか今回は今までと全く違う。
なんといっても、ものすごく静かだ。
だって、兵が、きていない。
あの、雪崩れ込んでくる兵が、まったくきていないのだ。
こんなの、初めてだった。
確実に即座に私の息の根を止めてきやがるあの、大量の兵が、いない。
押し寄せてくたりする気配も、ない。
詰め寄ってくる武器達も、ない。
彼らがいても何か物音がするわけではなかったが、その殺気というか、意思の力が、緊張が
ものすごい大音量のように感じられていたのだ。
うわあ、涙が溢れてくる。
あいつらがいない!! 何ということだろう。
なんという、なんということだろう。
もうこれ、嬉し涙なんだか、わかんないけど、止まんない。
ぼとぼと、大粒の涙がもう、流れ始めてしまった。
周りが見たい。
でも、残念ながら俯いてしまっている。
顔をあげるのは怖い
でも、できれば、今何が起きているのか、知りたい。
ちょっとでも動いた瞬間に殺されるなんていつものことだ。
指の一本を動かすためにも、恐怖が電撃のようにこめかみまで走ってくる
ぼたぼたと、涙が服に落ちる。
怖いけれど、みたい。
でも怖い。
でもダメだ、涙が止まらない。
いまが危機的状況なのはなにひとつ変わらないのだろうけど
ここで、涙がでてるってことで「動いてる」って判定されたりしちゃわない?
それで殺されたりしちゃわない?
キュッと、心臓が冷える
顔から血の気がひく。
でも、とまらない。
あの、何十本もの剣や魔法を向けられている感覚が、今は、こないのだ。
張り詰めた「狙われている」感がないのだ。
それだけで、もう、はりさけそうだ
もしかしたら!!と、希望が閃光を放って、胸が爆発しそうだった。