始まりがいつかなんてわからない
新作です。
よろしくお願いします。
ああ、いやだ、
このまま、楽になってしまったら、また始まってしまう。
指先が震える。
小刻みに震えるそれは、この体が刻々と体温を、血液を失っていっている証。
じわじわと、しかし確実に冷えていく末端。
得る理由はだらだらと、あふれだしていく、あたたかい、わたし
抜け落ちていくごとに靄になり薄くなる意識。
与えられた損傷に従い、まだ、反応を見せている、からだ。
けど、ふるえる理由はそれだけじゃない。
ただ、純粋に、まだ、恐怖している。
その時が近づいてくるのが、恐ろしくてたまらない、のだ。
終わることを恐れているのではない。
また、始まってしまうことを、おわらないことを、深くおそれているのだ。
底冷えのする、誰かの意思
抵抗すらできずに、また、わたしがこぼれおちていく。
そして、うっすらとしてはいるが、消しきれない期待
その、希望すらも、もう、果てしなく、怖いのだ。
ここで
このまま
終わってほしい。
もう、戻りたくない。
この光景は見たくない、みたくないんだ
顔が歪む
涙が溢れる。
その一つの動きにすら、身構える人々の緊張が聞こえた
ああ、もう、おわりにしてよ……
目の前が、真っ白になってきた。
お腹がうごくたびに出ていっている何かも、ごぽりごぽりと粘り気を増している。
寒気も、いたみも、なにもかもが、だんだんと消えていく
感覚も、音も、なにもかもが、うすぼんやりしてきた。
終わりが、近づいているのがわかる
もうそんなに遠くないのを、知っている
わたしは、とてもよく、しっている
ああ、神様
お願いだから、このまま眠らせてください。
苦笑がもれる。
なんで私、毎回毎回性懲りも無く神頼みなんてしてるんだろう
きっと、そんなことお願いしたって叶えられるわけなんかないのに
何回願っても、叶えられたことなんかないのに。
そもそも、こんなことになっているのは、絶対に“神様”ってやつのせいに違いないんだから。
すこしだけ緩んだ気持ちに、滑り込む後悔。
ああ、やだな
最後の最後まで、この場所を見ていたくなんかなかったのにまた失敗しちゃった。
今度こそきっちり目を閉じて終わりにしようと思ってたのに
またタイミング間違えちゃったのか。
もう目なんて動かないからなぁ…
難しいなぁ……つぎこそはなんとかだな……
********
そして、目を開けたらまた、このシーンだった。
自分のことなのに、自分のことだからこそ、なんか、こう、お芝居を見ているみたい。
ほら、今回も叫ぶんだよあのひとが。
「侵入者!!侵入者だ!!!」
その大声を合図に、勢いよく部屋になだれ込んでくるのは、おそらく護衛とか、近衛とかいう人たちなのだろう。おそろいの、勇ましいご立派なお洋服に、武装。ものすごい速さで、この場所に集結する、その迫力。毎回、毎回、何も、かわらない。
その統率に、早さに、目を開けたばかりの私が何かをできるはずもなく
ただ、そのまま立ち尽くす、うごかいないようにするくらいしか、できない。
どうしたらいいか、考える時間くらい与えてくれよと、何度思ったことか。
前回は、いや、前回も、この段階で針山みたいにされて死んだ。
その前は、ちょこっとだけもった。2−3分かな?
地下牢に連れていかれるくらい生きれたこともあった気がする……
けど、あれほとんど意識なかったしな。
瞬間的に叫ぶんだもん、どうしようもないよねぇ、私には
ご優秀でお仕事熱心な護衛様達を持ったあの人はきっと王子様か何かなのだろうとおもう
命だけじゃなくてきっと家族の運命とかも背負ってたお仕事なんだろう
また、向けられた何本もの刃
そして、構えられた、おそらく魔法の様なもの
いろんなものがキラキラして、とてもきれいだ。
あれにみとれているうちに全てが終わったなんてこともあったけど
ああいう奴は、どんなに小さく見えても、ちょっとでも食らうととても辛い。
熱かったり痛かったりですごく嫌なんだよ。
まだ刀でやれる方がマシだ。
切られるのなら痛みだけだけど、ゴリゴリ体が損傷していくあの感覚は、うん、とても辛い
下手に動くとすぐにいくつも飛んでくることを知ってからは、みていることもできなくなった。
振り返るだけで、なんてことも、何度もあったのだから。
とりあえず、なにもしない、動かない。フリーズだ。
パニックを起こしたら絶対に瞬殺されるんだから。
すこしでも、何か、機会を掴まないと「また」がやってきてしまう。
もう、戻りたくない。
この光景は見たくない、みたくないんだ
そんなことを思いながらいると、一つの異変が起きた。
「何者だ」
仮称王子様が声をかけてくれた、めずらしい。
わたしの固まりっぷりが上達してきたのかな。
でも、どうしよう、動いてもいいのかな。
答えるには、体制を変えないと、難しい。
よし、敵意はないところを見せないとだね。
そう、判断して、仮称王子様に向き合おうと
半端に上げてしまっていた両手を、そうっと降ろそうとしたところで、目の前に真紅が広がった。
ゴゥ!という、強烈な空気の流れと共に訪れる、高温。
反射的に体は絶叫をあげるが、頭は妙に冷静だ。
あー、今回も動いちゃダメだったか。
目上の人が許可しないと口聞いちゃいけないとかだっけ?
いや、聞かれたら答えようとするでしょ
質問に答えないっていうのも十分失礼なんじゃないの意味わかんない
あ、だれかなんか怒鳴られてる。
あんたの先走りかよ……部下の教育はちゃんとやっといてほしいんですけど!!
不用意の攻撃をキャンセルしたり取り除いたりとかってできないのかね!
これ熱くて嫌なんだけどな!!!
何度繰り返したって、同じ。
死ぬ間際の苦痛にはなかなか慣れない。
炎の魔法を浴びせかけられたのなんて、何回もあるけど。
それでも、嫌なものは嫌なんだよ
痛いものは痛いし、苦しいは苦しいんだよ
息をするたびに、自然と咆哮が喉から溢れ出す
焼け爛れていく熱さを感じながらも、私はもう、動揺すら、あまりできなくなっていた。
反応を止められない体とは無関係に走る思考はすでに強制的に切り離されている。
走馬灯とかいうやつすら、流れなくなっちゃたなぁ
もう、なんどめかなんてわからないから、しかたないのかもしれないけれど
私は、なぜか(おそらく)王子の(たぶん)執務室に突然出現する謎の女で
まあ、そんなもの即座に殺されてもおかしくなくいわけで
そして、当たり前のようにすぐに殺されて
そうして、死ぬわけなんだけど
そのたびに、死んだ後のはずなのに、
しばらく経って、目をあけると
また、そのばしょに、その出現の瞬間に戻されている、のだ。
なんども、なんども
いつもそう。
殺された……というか、死んだと思ったのに、
そのうちまた、きがつく。
ふと、目をあけたら、またこの、豪奢な装飾だらけなのに静かなこの、この部屋に、いる。
そうして、すぐに、あの叫び声で、そして当たり前のように、殺され、る。
ここの護衛達はとても腕がいいんだろうね。
毎回毎回、この部屋の風景なんてだいたい一瞬しか見られないし、
ちょっとでも動くとやばいから、目すらも動かせないくらいなのに。
なのに、もうどこに何があるかとか思い出せてしまいそうだし見取り図だって書けちゃいそう。
もう何回同じことをやったかなんて、数えられない・わからない、ほどに
私は、ここに、戻されている
あー、皮膚が、顔が、髪が焼けるにおいすらあんまりしなくなった
きっともう少しだな。
こんな臭い王宮でさせちゃダメだよねえ。
この部屋からしばらく匂い消えなんじゃないの?
他に燃え移ったりあんまりしてそうにないのが不思議なところだわ
あー、でも魔法ってそういうのも解決しちゃいそうだよね。
わたしの、やける、においは、ひどく鼻につく
ああ、嫌な音と臭い。
まぶたは、目はもうダメ。ぶつぶついって、沸いちゃってるから今回も目を閉じるのは無理だ。
だけど、なんも見えないから成功っちゃ成功。
燃やされて死ぬののいいところは、
痛みがすぐ振り切れてわからなくなっちゃうのと
死ぬまでがちょっと早いとこだよね
ハタから見た死に様はひどそうだけど
しばらく続きます