初等魔法が使えない
小屋が出来たとの報告を受け、地精霊であるモグラは颯爽と帰っていた。お茶の一つでも出せればいいのだが、生憎裸一貫の身では出せるものは何もない。
ジュジュ——大木の彼女の名だ——から『家を先に建ててるけど、食べるものはあるの?』と聞かれ、すっかり食料探しをほったらかしにしていた事に気付いた。
遭難した時は食料を第一に考えねばいけないなと自戒していたら、なんとジュジュが果実を落としてくれた。
リンゴ程の大きさのミカン、と言えばいいのだろうか。ただ皮まで食べられるとの事でありがたくいくつか頂いて、小屋に入る。
小屋はワンルームだ。
簡単なキッチンに4人掛けのテーブルが部屋の中央にあり、壁際には葉が敷き詰められたベッドがある。
もちろん葉は彼から取ったものだ。
ちなみに小屋の外には屋根付きの炊事場があり、トイレは少し離れたところにある。
「そういえば君にも名前はあるのかい?」
『ん?ああ一応な。ジュードって周りからは呼ばれてる』
「なるほど。ジュという言葉縛りかな」
『いや?裏手の奴はヘッケルって名前だから、別に縛りなんかねーぜ?」
そこはもうちょっとファンタジーな感じで統一感があってもいいじゃないか。まぁ木に名前があるだけ十分にファンタジーではあるけれど。
「……っと、そろそろ陽が暮れそうだね」
『寝るのか?』
「まさか。今どき日が暮れたから寝るなんて習慣は世間離れしたエルフくらいさ。私たちには魔法があるからね。——ライト」
ヤトラが虚空に向って得意げに指を掲げ、何も起こらなかった。
あれ、詠唱が違ったかな。
いやでも初歩中の初歩の魔法を間違えるわけがない。
試しにもう一度。
「——ライト」
『……何も起こらないぞ?』
「ふむ。おかしいな。確かに詠唱はあっているのだが」
事実、体内でちゃんと魔力の流れが起きた。
少ないながらも魔力は指先に宿り、あとはその力を発揮するだけのはずだったのに、次の瞬間にはフッと蝋燭の火が消されるが如く、魔力が霧散する。
「生き返りによる影響か?でも昼間は使えた気もするけど」
『どうでもいいけど、そろそろ本当に暗くなっちまうぞ』




